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鳴動11

「なんであんなこと言ったんですか?」

伊坂組の社屋の階段を下りながら、竹下が向坂に囁いた。

向坂は黙ったまま階段を下りて外に出ると、そこでやっと口を開いた。

「わざわざ専務が警察に応対したのは、8年前の失踪で取り調べられた件と関係があるのかと思ってな」

「はあ・・・・・・」

竹下は納得できたようなできないような、曖昧な返事をするしかなかった。

「あれだけ疑われたわけで、極端な話、任意なんだから門前払いするか、普通でも一般社員にでも応対させておくかで足りると思わないか?」

「かと言って専務に応対させるメリットがありますかね?」

「警察が8年前のことで何か掴み、今回のことを理由に調べに来たと思ったかも知れない。そして警察の様子を役員である専務に探らせたと」

「ただの社員より、直接の関係が深い専務の方が、色々と探るのに都合が良いということですか?」

「端的に言うとそれだ」

竹下が「自分」の真意を掴んだのを認めると、向坂は軽く笑みを浮かべた。竹下はその表情にちょっと安心した。

「やっぱり気になってるんですね」

「そりゃそうだ」

竹下の問いかけにぶっきらぼうに答えた向坂だが、それに反するかのように、獲物を追うような、ぎらぎらした何かを竹下は彼から感じた。まだ諦めてはいないのだろう。少しでもチャンスがあれば、ホシを挙げようとする刑事の飽くなき執念、いや本能を、先輩刑事からヒシヒシと感じた竹下だった。


そして車に乗り込む前に竹下と向坂は駐車場で車をチェックすることにした。それなりに流通しているタイヤだけあって、数十台もあった車の中に5台ほど似たタイヤの車があったので、シートでそれを取り、次の聞き込み先に向かうことにした。


 西田と北村は松重会長への聞き込みが終わると、そのまま遠軽署に戻り、松重から貰った会員名簿と今回の参加希望者リストのコピーを調べ始めた。今回の記事後に応募してきた3人は男1名女2名だった。現場の「作業」を考えると、女性である可能性は低いが、本人の「代理」として応募させた可能性も完全には棄てきれないので、女性についても調査は一応することにした。松重が言うには3人共に電話での応募ということだった。男の名前は白川洋三58歳、女は永田美沙子21歳、富岡多香子42歳。全員北見市内在住だ。ただ、白川と富岡については、自宅で購読していたのがわかったが、永田が調査について知った経緯はよくわからなかった。職業などについては、新規応募の3人については現時点では確認していないとのことだったので、北村と分担してすぐに電話で確認することにした。


 白川洋三は電話した時点で午後4時だったため、まだ勤め先から帰っていないということだった。応対した妻に聞いたところでは、高校の歴史の教員ということで、「如何にも」こういう話に興味がありそうなタイプだと西田は思った。この時点で何か怪しい点は感じなかったが、念のため後から高校に所在確認することにして電話を切った。


 北村は最初の永田美沙子に電話を掛けたが出なかったので、すぐに富岡多香子に切り替えた。自宅に掛けると本人が出たので時間的におそらく専業主婦なのだろうと北村は思った。当初「警察」を名乗った彼を疑って掛かっていたため、電話番号を告げ、調べた上で折り返し掛けるように言って一度電話を切った。なかなか掛かってこなかったが、1時間程してからやっと電話がなった。


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