鳴動9
「おもしろそうですね、詳しく聞かせてもらえますか、向坂さん」
「終わった話だからまあいいか・・・・・・。8年前の秋口、9月の話だ」
向坂は暫し間を置くと重い口を開いた。
「当時、札幌に住んでいた佐田という、当時65歳だったかな、その男が北見の知り合いに「金を借りるため」会いに行くと女房に言い残したまま帰ってこなくなった。さすがに1週間音沙汰無しだったので、心配して警察に届け出た。北見署ではそれを受けて調査したんだが、取り敢えず北見駅前のセントラル北見ホテルに宿泊したことがわかった」
向坂はタバコに火を付けると話を続けた。
「それで俺がいた北見方面本部も加わって色々調べると、札幌の自宅の電話で伊坂組の社長と連絡を取っていたのがわかってな。北見のホテルでも連絡を取っていた形跡があった。北見の知り合いというのが、伊坂だったというわけだ」
「なるほど、その時点で重要参考人になりますね」
「ああ、そういうわけで伊坂に任意で取り調べすることになったんだ。当然の話だな。で、いざ取り調べとなると、奴は佐田のことを知っていて連絡を取りあっていたことは認め、更に北見で会ったことまでも認めたが、それ以降の事は知らないと突っぱねられてね」
「それで引き下がったんですか?」
「勿論本来ならそんなもんで引き下がれるわけがない、本来ならな」
若干語気を荒げた向坂だったが、すぐに周囲に気を使ったか口調を改めて続けた。
「そこにここの選挙区選出の国会議員、大島海路が介入してきてな」
「大島海路ですか?また大物が絡んできましたね」
「そうだ。伊坂組は大島の有力な後援者でな。で、『具体的な証拠がないなら手を引け』って話になり、道警の本部からも色々あって、結局そのままお宮入りだ」
「それで捜査やめちゃったんですか?国会議員の圧力があったにせよ、ちょっと及び腰過ぎませんかね」
竹下は思わず憤慨した。
「こちらとしても追及する手だてがあれば、やりようはあったんだ。しかし伊坂と佐田が北見で会った時に、大島海路の子分である道議会議員の松島孝太郎が同席していてな。その松島が『佐田と伊坂の話は佐田の会社への出資の件で、その点について伊坂が金を払うことになり、佐田は札幌に戻ると言い残してそのまま別れた』という証言をしたわけだ。実際に北見で会ったことも、飲食店の証言から裏付けられ、その後ホテルに戻って一泊して朝方チェックアウトしたのも確認されてる」
「その後足取りが掴めなくなった?」
「そう。北見から乗るはずだった特急に乗らなかった」
「そもそもの話ですけど、道議会議員がなぜ同席したんですかね。その時点で反って怪しいような」
「まあそれは言ってくれるな・・・・・・」
そう言うと向坂はタバコを強く灰皿に押しつけた。




