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明暗47

翌日の9月11日、伊坂太助と大吉が同一人物だった理由は、連続殺人を追っている渦中の北見方面本部に前日夜から無理やり捜査させていた結果、いとも簡単に判明した。まさに、戦後に伊坂太助が大吉に改名していたのだった。伊坂が伊坂組を立ち上げた1950年(作者注・以前、記念腕時計の絡みで90年に「50周年」と記載しましたが、あれは40周年の間違いでした。気付かずそのままで申し訳ございませんでした)に、釧路家裁北見支部で戸籍の改名を申請し、受理されていた。一般的には戸籍自体の改名はそれほど簡単ではないのだが、実質家裁裁判官の個人的な判断によるので、当時の改名許可の理由についてまではわからなかった。過去を消すためなのか、単に創業時のゲン担ぎなのか、はたまた別の理由なのかは、今となっては真相は闇の中ということだった。


 刑事部長室に呼ばれていた西田と吉村の前で、遠山はかなり憤慨していた。指紋の件といい、伊坂の戸籍改名といい、南雲が北見方面本部に問い合わせた時点で、北見が最低限調べていれば楽に判明するレベルだったからだ。しかも4年後となると、本部長の交替により、道警自体がそれ以前よりは「圧力」の影響を、「おそらく」受けにくかっただろうから、こうなるとさすがに単純に怠慢捜査ということになると、遠山は感じていたのだった。


「4年前に形式上お宮入りしたんで、新たに見つかった2つの文書に対してぞんざいな扱いしたんだろう。まだ伊坂大吉も生存していたというのに全く……」

ぶつくさと文句を一人でぶちまけ続け、二人を前にしても怒りが収まらない様子に、西田はどう言葉を掛けて良いかわからなかった。ただ、このまま一方的に他者への怒りをぶちまけられても辛いだけなので、なんとか和らげようと、

「根本的な部分で、この手紙と文書の内容が、なんというか浮世離れ、現実離れしているというか、そういう部分があったので、伊坂大吉と佐田の事件まで結びついているというリアリティを感じなかったんじゃないですか? なにせ「お宝」の分け前についてですから。遺族が勝手に作り上げたと思ったのかもしれないですよ」

と言うと、

「そんなもんは、この紙の状態を見たらありえないとわかるだろ? 少なくとも近年に作られたようなもんじゃない! そこまで細工していると考える理由もない!」

と反って火に油を注ぐ形となった。

「どっちにしても、当時の北見方面本部で担当した人間はわかってるから、どやしつけてやる!」

あまりの剣幕に、西田と吉村は顔を見合わせて、小さく肩をすくめた。


※※※※※※※


 遠軽署でも昨日中には西田より指紋の件が、そして北見方面本部より改名の件がこの日報告されていた。そして午前中には、佐田徹の手紙の中にあった、仙崎の砂金が埋められていたという記述に合う場所も確認された。早速それを受けて捜査会議が開かれていた。


「佐田の遺体が出た時点で、いよいよ上からの圧力も意味を成さなくなっただろうと思ったら、話はあっという間にここまで来たな。展開が早過ぎるぐらいだ。砂金が隠されていただろう場所もほぼ特定出来て、手紙の信ぴょう性もあがった」


沢井課長は良い意味で期待を裏切られたことに満足していた。


「ほぼ間違いなく伊坂大吉が佐田を殺す理由は説明出来るようになりましたね。後は実行犯が誰か。それが篠田と北川なのか、或いは他にも共犯がいるのか、または全く別の人間が殺して、篠田、北川、他の共犯が現場に遺棄したのか。色々パターンはあるかと思いますが、篠田は完全に、北川も現状起訴するのが厳しいとなると、出来れば起訴可能な共犯を見つけたいところですね。ただその可能性は、全く別の人間の犯行よりは高い程度で、決して高いわけではないのがネックです」

竹下が補足した。

「米田の件はもう篠田の単独犯行で起訴不可能と見て、こちらに全力でいいんですかね?」

黒須が課長に尋ねた。

「今のところ、それでいいんじゃないか? 現在、起訴できる共犯がいる可能性においては、佐田の事件の方がまだあるだろうからな。ただ、真相解明は検挙とは別の問題としておく必要があるから、米田の件も新しいことがわかるなら、同時進行でやっていくべきだろう」

「ほんと、課長の言う通り、米田の件が行き詰まった段階で、佐田の方の捜査にも手を出しておいて良かったですね。米田の方にこだわっていたら、未だにグダグダだったかもしれません」

「俺の言う通りというより、竹下の推理に俺が乗ったってことだ。まあ後は、篠田と北川がどう佐田殺しに関与したかを考えて、そこが繋がれば米田の殺害に篠田が関与した理由も、より説得力を持って証明できるようになるはずだ。しばらくは、佐田行方不明時からの篠田と北川の行動を探るということになる。今回はピンポイントで令状請求して、伊坂組にガサ入れすることになるだろう。特に8年前の2人の勤務状況を調査したいところだ」

「問題はその証拠物件が既に処分されてしまっているんじゃないかと。どうも伊坂組の我々への対応が違ってきてましたからね、この前から」

竹下の指摘に、課長は痛いところを突かれたというか、課長もそれを理解していたのだろうが、苦笑いを浮かべるにとどまった。


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