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明暗37

 9月8日、西田と吉村は特急オホーツク2号にて早朝遠軽を発っていた。進行方向左手側には、東大雪連峰の峰々の頂付近が若干色づき始めているように見えた。横の座席で音楽を聞きながら雑誌を読んでいる吉村を横目に、西田はこれまでの捜査について思い返していた。


 6月の常紋トンネル付近での吉見の死体発見からここまでの道程は、想像だに出来ない展開だった。幽霊騒ぎとそれが篠田に失くされた(と思っていた)自分の時計と米田の遺体を探していた北川だったこと。そして吉見はそれを幽霊と勘違いしたであろうことで焦り転倒して死んだこと。少なくとも篠田と北川が行方不明になっていた佐田の殺人に何らかの形で関与し、その後不運な偶然で無関係な米田を殺していただろうこと。どれも後から考えても結びつけられたのが不思議なぐらいだった。


 そして、捜査の過程で、遠軽署以外の捜査本部の面々は勿論、様々な事件関係者と出会い、話を聞き、そして助けられた。特に事件とは全く無関係だった奥田老人を筆頭に、勇泉の大将である相田泉にも多くの事件解決のヒントを貰った。刑事としては半人前の吉村も事件の根本部分で大将から情報を聞いてきて、捜査の進展に貢献した。彼らなくしてここまで到達することはありえなかったことは自明だ。そう考えると、横で何も考えていなさそうな吉村にも、口にこそ出せないが、頭が下がる思いは正直あった。


 そんなことを考えながらやがて時間が過ぎ、山間部から旭川に出て、空知平野を抜け石狩平野に入ると、昼前には高架の札幌駅ホームに降り立っていた。吉村にとっては札幌が実家だが、昨年のお盆以来帰っていなかったらしく、かなり久しぶりの帰札だったようだ。


「この都会の空気に飢えていたんですよ俺は!」

妙にテンションが高い吉村に半分冷めた視線を送りつつも、共に改札を通って南口に出た。目の前には、縦のメインストリートである大通に対し、横切るメインストリートである駅前通が広がり、このまま真っ直ぐ行くと、大通公園を抜け、北の歓楽街である「すすきの」にたどり着くが、さすがに昼間からそんなよこしまな考えを巡らすこともない。道庁方面から北大の植物園を横目にして道警本部を目指す。距離的には1キロもないので、10分ちょっとで着いた。


 1階の受付で刑事部長の遠山に面会に来たと告げると、事前にアポを取っておいたこともあり、すぐに刑事部の応接室に通された。遠山とは北川が取調べ中に倒れた時、北見に調査にやってきた際面識があったので、ある程度フランクな形で会話が始まった。


「どうも、お忙しいところ申し訳ないです。いま刑事部自体が大変な時だと聞いてますんで、わざわざ時間割いていただいて」

気遣いの言葉を口にした西田に、

「こっちこそ悪いね。本当なら北見とウチから捜査員派遣しなきゃいけない事案にも関わらず。まあ正直、ホシを挙げられるかどうか微妙な事件ってのがあって、俺としては助けてやりたいんだが、刑事部より上がね……。そっちもわかってると思うが、ガイシャに関しては行方不明になった時点で色々あったらしいから、そういうのももしかしたらあるのかもしれんな……」

と微妙な話をし始めた。槇田署長と違い、本部の上層部に直接近い部長からすると、やはり違う空気を感じていたのだろうか。当然部長自身も上層部を構成している役職ではあるが。これには西田も正直戸惑った。


「で、ウチに来てもらったのは、わかってるとは思うが、札幌での捜査協力者を紹介しようと思ってね。一人は当時北見方面本部の捜査一課主任だった沓掛くつかけ。これが今、札幌西署の刑事課で課長やってる。当時の捜査状況について詳しく聞きたいなら彼に聞いてくれ。今日でも明日でもいつでもOKと言っていた。資料とはまた違う話が聞けると思う。電話番号はこれだからここに掛けてくれ」

とメモ用紙を西田に渡すと、

「そう言えば君らの捜査本部でも当時の関係者居たんだっけ?」

と向坂に関してだろう話を振ってきた。

「ええ。同じく北見方面本部の捜査一課だった向坂さんという方が、今北見署の刑事課の主任やってまして、特別に参加してました。今は例の連続女性殺しで元の部署に戻って捜査してますが」

「そうか。じゃあある程度のことは彼から聞いてるんだな。まあ、沓掛は捜査責任者の一人だったから、ある程度突っ込んだ話はその向坂という刑事より聞けると思うからね。で、もう一人が今、ウチの捜査二課で主任やってる南雲なぐもってのがいるんだが、これが札幌のガイシャの家族と北見の捜査陣との連絡係というか橋渡し役というかを、本部の捜査一課時代にやっててね。家族とも面識がある。家族、いや遺族か……とも話しなきゃいけないだろうし、そういう意味で彼を上手く使ってくれ。さっき連絡しておいたから、ちょっとしたらこっちに来ると思うぞ」

そう言うと、遠山は腕時計をチラッと見やった。

「そうそう、大事なことを忘れてた。車はウチのを自由に使ってもらって構わない。レンタカーとか面倒だからな。これがキーだ。遠軽に戻る前に返してくれればいい。あとで警務部の工藤ってのが来るから、彼に駐車場に置いてある車まで案内してもらってくれ」

西田に車のキーを手渡す。

「色々手配していただいて恐縮です」

吉村と共にペコリと遠山に頭を下げた西田に、

「いや、最初の話に戻るが、協力態勢を整えられなかった時点で、こっちの責任だから。せめてもの罪滅ぼし程度だよ、こんなんじゃな」

と力なく笑った。

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