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明暗32

 4口分の壺からは結局、佐田と睨んでいる骨の「重要」な部分は見つからなかった。残りは最初からあった骨壷に紛れ込ませたとしか思えなかった。

「じゃあ残りの分も全部調べるしかないな」

課長も加わって、残り12口分をシートに取り出し分類し始めた。

「これ、頭頂部かな?」

小村が頭蓋骨の一部を手にとって眺めていた。

「焼かれてはいないようだな。とすると多分そうだろ」

竹下が大場から受け取るとじっくり見ながらそう言った。間もなく次々と発見の声が四方から上がった。そして、

「あ、これ下顎じゃないですか!?」

と澤田が立ち上がった。西田も駆け寄って確かめると、それは火葬されていない下顎の一部だった。まともな治療痕もあったので、身元特定に役立つだけでなく、おそらく遺骨の主が戦前に亡くなったものではないという意味合いも証明出来るものだった。つまりタコ部屋労働者のものでもなければ、その後見つかった3体でもないということだ。


 結局2時間程、火葬したものと「生」のままなものを丁寧に分類した結果、バラバラになっていたとは言え、骨格のかなりの部分を再現出来るまでになった。


「これで、佐田の遺体だとすれば問題なく証明できそうだ」

松沢はブルーシートの上に再現されたほぼ一体の骨格に満足そうに笑みを浮かべた。

「今回はよくやってくれた!」

課長は西田の肩を叩いた。だが、彼にとって見れば、ここまでは冴島骨董で証言を得た時点で確信出来た部分だった。問題はここから先だ。それを思うと余り喜んでもいられなかったせいか、篠田がとった行動を「読みきった」先日の気分と比べれば浮ついたところはなかったと言って良かった。


「死因は特定できるかな?」

「いや竹下、多分無理だ。遺骨に傷がついてるが、それは骨壷に入れるために割った時に付いたものだろうから。情況証拠として殺人立件という形になると思う」

松沢はすぐに否定的見解を述べた。

「後は持ち帰って北見方面本部の鑑識に引き渡そう。それほど判明するまでに時間は掛からないはずだ」

課長はそう断言したが

「あっちはあっちでまだ連続殺しが解決してないですから、しばらく掛かるかもしれませんね」

と小村が疑問を呈した。

「今からそこまで気にしてもしゃあないでしょう。今やれることはやりました。後片付けをちゃんとした上で、戻るだけです」

西田の発言にその場に居た刑事は全員同意すると、遺骨を篠田の分以外の骨壷に戻し、篠田が買ったと思われる壺と佐田と見られる遺骨を回収して、住職2人と共に現場を去った。


※※※※※※※


 住職をそれぞれの寺に送り届け、署に戻ると、遺骨の調査と共に早速鑑識が取ってきた指紋と篠田のものを照合させた。どうせ遺骨については北見方面本部の鑑識がきちんと調査するので、余り熱心にしても意味が無いこともあった。もともとのサンプルがどの指の指紋かわからないこともあり、鑑識での作業の結果はかなり時間を要する可能性があり、西田は壺が篠田の買ったものかどうか確認するため、署に暫定的に持ち帰った壺を片手に、一人で冴島骨董店へ向かった。


「ご主人この前はどうも」

暖簾をくぐってドアを開け挨拶をした西田に、カウンターでテレビを見ていた冴島が手を上げた。

「今日は何の用だい?」

「一昨日話した、あなたが売った壺、これじゃないですかね?」

ある程度拭いたとは言え、ちょっと汚れが目立つ壺を呈示された冴島は、メガネを額の上にずらすと目を細めながらじっと見つめた。そしてしばらく眺めると、

「買った人の記憶ほど確信はないが、おそらく売ったのはこれだと思うよ。壺の口の周りにちょっとした絵付けがあるだろ? それに記憶があるから」

とやっと口を開いた。西田も絵付けを確認すると同時に、そういう記憶と一致しているならまず問題ないと確信出来た。


「それにしても汚れてるけど、どんな状態で保管されてたのこの壺? 犯罪に絡んでるんだろ? どっかに捨てられたのかい?」

と問われた。さすがに骨壷として墓に納められていたとは口が裂けても言えなかったので、

「まあ、あんまり良い状態で扱われてはいなかったようだね……」

と口を濁した。西田の表情で余り根掘り葉掘り聞くべきではないと察したか、冴島店主は、

「まあ言いたくないなら、それでいいんでないか?」

と西田に言うと、

「この壺、警察が使わなくなったらどうなるの?」

と聞いてきた。

「さあ……」

本来の所有者が既に死亡しているので、結果的には未亡人ということになるのかもしれないが、既にあの辺境の墓標に納めたということは、ある意味所有権を放棄しているとも言え、西田自身、どうなるのかわけがわからなくなった。そんな西田を見かねたか、

「要らなくなったら、ウチが単価5000で引きとるよ。悪くないと思うよ。こっちも一度大儲けさせてもらったぐらいだし。そっちもなんも問題ないっしょ?」

と冗談で上手く話をまとめた。西田は、

「まあ、考えてみるよ」

と返すと、店主に別れを告げ署にとんぼ返りした。

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