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明暗31 (辺境の墓標で再捜索)

 8月31日木曜日昼過ぎ、周辺よりすこし小高い「辺境の墓標の前」には、強行犯係といつものように鑑識の松沢と三浦、そして「31日ならなんとか」と都合をつけてくれた岡田住職に松野住職という「外部」の参加者が集っていた。まず墓から骨壷を取り出す前に2人の住職による読経の供養がなされた。そして西田が部下に幾つか注意を促した。

「まだ開けてみないとわからないが、おそらく篠田は、最初に佐田が埋められていた場所からここまで壺に遺骨を詰めて持ってきた後、納骨されていた遺骨とさらに混ぜることにしたと思ってる。タコ部屋労働者と無縁仏の遺骨はいずれも火葬された上で入ってるが、佐田のは生のままの骨だ。少なくともタコ部屋労働者の方が荼毘に付されていたことは篠田は知っていたはずだ。だから、そのまま完全に別にしておくことはしないと思う。問題は無縁仏3体とも混ぜたかどうかだが、そっちが荼毘に付されたことはしらないにせよ、全部開けてみれば、明らかにわかるだろうから、開けて見ていればそうするだろうと思う。だから、きちんと丁寧に火葬されたものと分けていくこと。多分佐田の遺骨もスコップやツルハシなどである程度割られていると思うから注意してくれ。重要なのは頭部、特に顎の部分だ。歯の治療痕なんかがあれば身元確認に繋がる。最近はDNA鑑定みたいなもんも使われるようだが、やはりまずは歯が重要になる。それから鑑識は骨壷や篠田が買ってきたはずの壺の写真と指紋を採ってくれ。篠田の指紋は以前採ってるから比較できるはずだ。壺の写真は一応全部の分撮っておいてくれ。遺骨放置するわけにもいかんから、全部は持って帰れないからな。あ、それから、岡田住職、警察から受け取った無縁仏の骨壷わかりますか?」

西田が確認すると、岡田住職は松野住職が弘安寺から持ってきた帳面を見せ、

「当時納骨されたのは、警察から預かった3口の骨壷に国鉄の方たちが集めた遺骨が骨壷9口の合計12口ですね」

と中身を見ながら説明した。

「わかりました。こちらに壺を出した後教えてください。それじゃあ供養も済んだし作業開始だ!」

 

 西田の号令と共に、大きな石棺の上にある石蓋が吉村、澤田、黒須、大場の4人によって動かされ、捜査員の指紋が付着しないように白い手袋をはめてから、石棺から骨壷が順次運びだされた。


「結構な数があるな」

課長は順次進む作業を見ながら、1、2と数えていた。ブルーシートが敷かれた上に置かれた骨壷、いや一部に普通の壺と思われるものが全部で16口も出て来た。帳面の納骨された数と篠田が買ってきた壺の数の合計が出て来た口数と一致した。そして篠田が買ったと思われる4つの骨壷は、すぐに西田にも特定出来た。いくら形状が似てるとは言え、やはり骨壷より底から口までの「縦」の形状に丸みがあり、普通の壺という形状を残していたからだ。ただ色は確かに白磁なので、全体としては無理すれば骨壷と言えなくもなかった。


「松沢、骨を中から出す前に、まず全部の写真と指紋採って」

西田の要求通りに松沢と三浦が作業した。それを見ながら、

「岡田住職、3つ形状が同じで他と違う骨壷がありますが、あれが無縁仏の分ですか?」

と聞く西田に、

「記憶がはっきりとまではないので断定は出来ませんが、多分そうだと思います。確か叔父が簡単な戒名をそれぞれの骨壷に記入していたのと、骨壷が警察から渡された時点でも、無縁仏の区別として甲乙丙の記入があったと思いますが。松野住職に帳面で確認してもらっているので、それと合わせてみれば良いと思います」

と言った。西田は2人とその3つの壺に近づくと、確かに甲乙丙と、それぞれ小さく墨らしきもので区別されていることに気が付いた。ただ、さすがにそれでは気の毒と、当時の弘安寺住職の岡田総信がそれぞれに戒名を付けたらしいものも、それぞれに墨で記入されていた。甲には「山穏恵豊信士」、乙には「山盛静健信士」、丙には「山来安和信士」とあった。名前もわからない、出自もわからない者に付けたのだから、さすがに、いわゆる院号はなかったが、それなりに考えて付けていたはずだと岡田は語った。松野が弘安寺にあった帳面とそれぞれに付けられた戒名が一致していたので、その3つは間違いなく無縁仏のものだったことが確認できた。


 そして、鑑識による外観の事前調査が、無縁仏の分も含め終わったので、いよいよ骨壷の中身を確認する作業に入ることになった。まず4口分の偽骨壷の蓋が開けられた。西田の推理通り、そこには明らかに火葬された骨片が詰められていた。やはりそれ以前に墓標に納められていた遺骨と混ぜられてしまったらしい。

「仕方ないから、シートの上に中身全部出してみて、そこから生の骨がないか、調べていくしか無い」

課長の号令で、若手が骨壷を逆さにて、中身を取り出そうとしたが、岡田住職がそれを止めた。

「申し訳ないが、ふるって落とす形にすると仏に申し訳がないので、丁寧に取り出してもらえますかな」

「住職の言う通り、手で中から丁寧に取り出す方法でやってくれ」

課長も指示を出した。時間がかかりそうなので西田も手袋をはめて手伝うことにした。皆で手分けして作業し始めると、それほど時間が経たないうちに、

「あ、ありましたね。明らかに火葬されてない骨が幾つか」

と、シートに取り出された骨を調べていた三浦が声を上げた。全員が覗きこむと、おそらく背骨らしき部分が出て来た。

「時間もそんなになかったはずだから、それほど細かくは砕いてないと思うんだよなあ。とにかく顎の部分を早く見つけたい」

西田はそう言うと作業に戻った。

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