明暗29
以前、北川の腕時計が創立記念時計であると説明した際に、「50周年」としましたが、「40周年」の間違いでした。訂正させていただきます。1950年創業、1990年、創立40周年記念で腕時計を配ったということになります。
西田もしてやったりの表情で写真を胸ポケットにしまった。そして、
「おそらくまた、参考人聴取として来ることがあるかと思いますけど、その時も協力してくださいよ」
と頭を下げた。
「それについてはなんも問題ない! それにしてもあの客、何か事件に関係してんの?」
「おそらくは。あくまでまだ仮説の段階ですがね。じゃあ申し訳ないがこの後も予定が立て込んでるんで、今日はこの辺で失礼させてもらいます。ほんと、今日はいきなり来て色々すいません。助かりました」
斜め後ろから黙って一連の流れを見ていた宮部に目配せで「退散」の合図を送ると、先に店を出た。ただ、宮部がドアを閉めようとした時に、思い出したようにそれを制止して、店主にドアの隙間から声を掛けた。
「ところで横の葬儀場とおたく、勿論おたくの方が先に店出したんでしょ?」
「そりゃそうだ。こっちが後だったら、わざわざこんなところに骨董屋出さないよ。20年前まではボーリング場だったんだ」
「なるほどね。そうなるとご主人には申し訳ないが、警察としては隣に来た葬儀場に感謝だよ。それじゃまた!」
「え?」
店主が西田の発言の意味を理解できなかったことにも構わず、西田はドアを閉めると車に乗り込んだ。
「俺も早く西田係長のように刑事になりたいです!」
駐車場を出るなり宮部が「宣言」してきた。
「それならば、まずは今いる生安での仕事をきっちりすることだ。俺も交番から所轄勤務になった当初は、生安で今の君と同じ古物商担当だった。そこは絶対見誤ったらいけない」
「西田さんもそうだったんですか。わかりました、肝に銘じます」
宮部はハキハキと答えた。西田も若かりし頃の初心に戻ったような新鮮な気持ちになった。
署に一度寄り、玄関前で宮部を下ろすと、一旦無線で課長と連絡が取れるか試してみるも、全員車から離れているらしく繋がらなかった。
「携帯の電波も届かないし、やっぱり直接行ってから説明しないとダメだな、課長には」
西田は結局そのままスキー場へと車を走らせた。
10分程度で着いたスキー場の駐車場で同僚の車の横に駐車してから、冬にはゲレンデになる斜面を見ると、課長達が真ん中に居て、部下達が離れた雑木林との境界や笹やぶに居るのが見えた。西田はゆっくりと斜面を登り始めて、課長の元に着いた。課長は腕時計を確認すると、
「思ったよりは早いな」
と言った。
「おかげで面白い情報が取れました。ところでこんな斜面には幾らなんでも埋めないでしょ?」
と西田が懐疑的な言動をすると、
「そりゃそうだ。俺は斜面から全体を見回して、どこか埋めそうな場所がないか、まずチェックしてただけだ。」
と仏頂面になった。
「あ、そうでしたか。失礼しました」
「ところで西田の面白い情報ってのは?」
「ああ、その話ですか。別に大したことじゃないんですがね」
西田は勿体を付けた。
「いいから早く言えよ!」
しびれを切らしたように課長は急かした。
「確信があるとまでは言えませんが、おそらく佐田の遺体の在処がわかりました」
「そうか、それは良かったな」
課長はぶっきらぼうな言い方になった直後、
「は? 今何て言ったんだ?」
と西田を二度見した。
「佐田の遺体の隠し場所が、おそらくわかりました」
「ええ!?」
スキー場一面に響き渡るような声だったせいか、遠く離れた場所に居た部下たちも一斉に課長と西田に視線を集めた。
「何で早くそれを言わないんだ?」
「いや、みんな捜索してるんで、それからでもいいかと」
「遺体の在処がわかったんだろ?」
「まあ、7割程度の自信ですからね。今調べてるのを止めさせるとまでは……」
「5割で十分だ。7割もいらん。早く説明しろ」
「いや、ここで説明してもわかりづらいだけですよ」
「わかった。おい! 署に戻るぞ!」
沢井課長は山に木霊するかの如く腹から声を出すと、部下に命令を下した。おそらくは課長も「スキー場説」はかなり確率が低いと考えていたのだろう。撤回は素早かった。
突然の変心ぶりに、割と近くに居た吉村と竹下は戻ってきて早々露骨に
「来たばかりで何言ってんすか?」
と文句と疑問をぶつけたが、
「西田が佐田の遺体の場所について新しい情報を掴んだらしい。会議のやり直しだ」
と説明した頃いんは、他の捜査員も急いで課長と西田のところに集まってきた。
「で、佐田の遺体は何処にあると?」
「竹下、それは署に戻ってからのお楽しみだ」
西田は意地悪そうにニヤついた。




