表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/827

明暗28

「へえ。じゃあどんな話だべ?」

「冴島さんは売上を記録した帳簿みたいの、ずっと付けてます?」

「え? 買い取りじゃなくて、売上の帳簿? 刑事さんじゃなくて税務署の人じゃないの? おかしいなあ」

冴島は怪しい人物でも見るように、顔をカウンターの前に突き出して覗き込む程だった。

「いや刑事さんだから」

宮部が苦笑しながら否定した。

「じゃあなんで売上の帳簿なんか?」

「端的に言うと、3年前の夏に、この店で買い物した人物がいるんじゃないかと思って聞きに来たんです。3年前の売上状況とかまで記録ありますかね?」

西田は申し訳無さそうに聞いた

「いや、税務署に申告するのに売上なんかの帳簿を5年(現在は7年)持ってないといけないから、3年前なら当然まだ保管してあるよ。しかし警察に買い取り名簿ならともかく、売上なんて見せたこと無いね今まで……」

ぶつくさと文句を言いながら、冴島は奥へと引っ込んだ。宮部は直立したまま西田の様子を窺っていたので、西田は、

「うちが殺人事件追ってるのは知ってるよな?」

と確認した。

「はい。勿論です!」

「この聞き込みはその捜査の一環なんだ。まあおそらく空振りだとは思うがね」

「え? そうなんですか? 自分も将来は刑事志望なんで、そんな大事な捜査にこういう形であれ加われて光栄です」

西田の告白に、より一層直立度合いを高めた宮部を見て、なんとなく微笑ましいと思った。


「はい、これだね、3年前の売上帳は」

戻ってきた冴島はカウンターに帳簿を広げて置いた。それを見ながら、

「3年前の夏、具体的には8月中旬ぐらいに、大きな壺、具体的には円筒状っていうのかな、そういう奴を売ったことないですか? おそらくだが1点ではなく数点、多分3から4点は購入してるんじゃないかと踏んでるんだけど」

と西田が言うなり、店主は、

「ああ、憶えてるよ! すごく印象に残ってるんだ、あの客は!」

と声を張り上げた。

「これだこれ! 8月10日の売上の客だな」

指を指した部分に、8月10日 白磁中華用食器壺4口(壺は口で数える)とあり、売上金額は80万とあった。西田は金額もそうだが、日付に特に注目した。

「おい初日からかよ」

西田は正直驚いてもう一度確認せずには居られなかった。

「これ売ったのは8月10日の夕方?」

「いやあ、確か真っ昼間だったと思うよ。昼飯を食べながらここでテレビ見てた記憶があるから。少なくとも夕方ではなかったな」

「となると、生田原に向かう途中で既に思い付いていたんだな……」

西田は独り言のつもりが周囲にも丸聞こえなのも気にせず、興奮気味に質問した。

「この中華用の食器壺ってのは、どんな形状の奴だろうか?」

「いや、あんたがさっき言ったように、普通の壺の割には上下の丸みが少なく、骨壷みたいな円筒形に近い、食器としては大きな壺だよ。蓋も付いている蒸し物なんかに使う奴だったと思う。白磁で焼きもいいし、手触りもいいし、悪いもんじゃなかったが、まあ原価1万もしないね。北見の潰れた高級中華料理店から安値で引き取ったな。仕入帳見ないとわからんが、多分1点1000円ぐらいだったはずだ」

本来ならボッタクリについて一々思うところがあるはずだが、気にせず続けて聞く。

「これを買った男はもしかして、今ご主人が言ったように、『骨壷』という言葉を出して買い求めたの?」

「そうだ。だからよく憶えてる。いきなり店に入ってきた知らない男が、『骨壷あるか?』なんて聞くもんだから、『ウチは葬儀屋の隣だが一応骨董屋だからそんなもんはない』と呆れて言い放つとすぐに出ていこうとした。だけどなんか急に要り用になったからそんなことを言うんだろうと思ったんで、『骨壷はないが、形も色も骨壷みたいなもんならあるよ! 大きさは若干小さいけど』と声を掛けると、『それでいいから5点ぐらいくれ!』と言うもんだから、白磁のそれを見せると『これでいい』と言ったんでね。その食い付きぶりを見て、単価20万であるだけの4口分80万とふっかけてみたら、最初渋い顔したけど、すぐに『それで構わないからくれ』とあっさり言うんで、こっちもびっくりしたんだ。ただ、クレジットカード出したんで、『ウチは現金商売』と言うと、『近くに北見銀行があるか?』と聞いてきたから、遠軽支店の場所を教えてやって、しばらくしたら現金持ってきてね。デカイ紙袋二重にして、壺2口ずつの2袋両手にそれぞれ下げて急いで出て行ったよ。いやあ、あの日みたいなイチゲンの飛び込みの客が、言い値で高いモンを買ってく日はまずないね。でもそういうのだったり、掘り出しモンを安値で仕入れたりするのがこの商売の醍醐味だね。刑事さんにはわからんべ?」

冴島はニンマリした笑顔を見せた。刑事には刑事なりのそういう瞬間があるのだが、一々反論するのも時間の無駄だ。西田は胸ポケットから写真を出した。捜査資料から取り出した写真とダミーの写真2枚だった。

「その壺を買っていった男はこの中にいる?」

店主は出された写真を手にとって確認するとすぐさま、

「この人だよ! 刑事さんよくわかったな! 刑事辞めて超能力者になれや」

と満面の笑顔を見せた。店主が指した写真は、篠田のものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ