明暗27
生活安全課の室内に入ると、西田は下山課長のデスクに真っ直ぐ突き進んだ。勢いよく向かってきた西田に面食らったような下山だったが、
「刑事課の西田がウチに何の用だ?」
と一呼吸置いてからゆっくりと言った。
「忙しいところ申し訳ないです。古物担当、ちょっと貸してもらえませんかね?」
「古物担当? 窃盗関連だと強行犯じゃなくて盗犯係だと思うが? 強盗か?」
「言え、窃盗でも強盗でもないんですが、骨董店に聞き込みしたいんで、顔馴染みが居た方が円滑に進むと考えまして」
西田の説明を受けて、下山はあっさりとそれを受け入れたか、
「おい、栄村、宮部、ちょっと来い!」
と担当者を呼んだ。
「課長、何か?」
西田も面識がある栄村主任が、西田に視線をやりながら聞いた。
「強行犯の西田が、古物商担当に協力して欲しいと言ってきてる」
下山も西田を見ながら告げた。
「西田係長、協力というのは?」
「栄村、署の近くにある葬儀場の横の骨董店……」
そう西田が言いかけたところで、
「ああ、冴島骨董店ですか? ええ、勿論ウチが担当してますよ。特にこの宮部があそこの店主とは懇意です。何か調べたいことでも?」
と遮って言うと、宮部の背中を押して西田の前に出した。
「そういうことなら、宮部君? ちょっと俺の聞き込みの際に口利きしてもらえないかな? 警察手帳出して聞くのもいいが、やはり知り合いが居たほうが相手の心証も良いだろうし」
と西田が切り出した。
「はい。勿論喜んで! 刑事課に協力できるなんて光栄です!」
やや緊張気味に姿勢を正した宮部は、20代前半のかなり若手に見えた。
「じゃあ下村課長、ちょっとこの宮部君を1時間も掛からないと思いますが、今から貸してもらえませんかね?」
「栄村と下山が問題ないなら、俺も異存はない」
下山はそう言うと、栄村と宮部を確認した。二人共黙って頷いたのを見て、
「問題ないみたいだから、すぐ連れてってくれ。宮部! 足手まといになるんじゃないぞ!」
「そんなに大したことじゃないですから」
課長の心配を笑って否定すると、西田は宮部を伴って駐車場へと向かった。
「あれ、車で行くんですか? てっきり自転車かと」
宮部は少々驚いた様子だったが、
「ああ、確かに大した距離じゃないが、俺は聞き込みの後、遠軽スキー場に行かなきゃならんのでな。勿論君を署に送り届けてからだが」
と説明した。
「運転は西田係長に任せていいんですか?」
と恐る恐る聞いてきた宮部に、
「ああ、気にするな。どうせこの後も一人だから自分で運転するんだ」
と言って運転席に乗り込んだ。そして会話する間もなく、あっという間に反対車線の冴島骨董店の駐車場に滑り込み、宮部を先頭にして西田も暖簾をくぐった。
「どうもー」
宮部が愛想よく声を掛けると、奥から店主らしき中年のメガネを掛けた男が出迎えた。
「何だ、宮部さんかい。客かと思ったよ。がっかりさせないでくれ。古物の買い取りのチェックなら1ヶ月前にしたばかりだべ?」
「いや、今日はそういうことじゃなく、ちょっと他の担当の刑事さんが、冴島さんに聞きたいことがあるって言うんで、俺が仲介というか紹介というか……。こちらウチの刑事の西田係長」
店主の毒舌の入った挨拶にも構わず、宮部が西田を紹介した。西田は一応警察手帳を呈示して挨拶した。
「刑事さんがウチに用があるって? 昔盗品買い取った時以来だなあ。あれはかれこれ20年前ぐらいだったべか……」
店主はメガネを右手で上下させながら、しげしげと西田を見た。
「いや、自分は盗品関係の担当じゃないんですよ。今日はそういう話ではなく、無関係なことでお話を聴きたくて」
と冴島に言った。




