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明暗20

 西田は再びソファーに座ると、

「大変お待たせいたしました。若い頃の写真送ってもらえるということですので、届いてから、弘恩寺の方に写真を持って確認しに行かせていただきますんで」

と頭を掻きながら言った。

「何かそのことが西田さんの中で大きなことになってるみたいですね」

と松野が話に入った。

「うーん、微妙なところです。ただ、出来るだけあらゆる情報を集めておくことが、難航している捜査においては重要なことでして。今回の件はやはりその慰霊式が何か関わっているような気がしてならないんですよ。そして今日の話で、微妙に無縁仏の件が気になってきましてね。勿論確率は高くないんですが、確認しておくべき情報は全部調べておくのが、今自分に出来ることですから」

西田は滑らかに自説を語った。すると、お茶を飲んでいた岡田は湯呑みをゆっくりテーブルに置いて口を開いた。

「ほう。まるで修行ですね。警察の捜査も」

岡田は感心したかのような口ぶりだった。単なる社交辞令というわけでもなさそうに西田には思えた。

「いえいえ。当たり前ですが僧侶の方の修行のようには行かないです。人間の欲望渦巻く事件を調べるわけですから、刑事もまたそういうものに知らず知らずに巻き込まれている。そういうもんだと思います」

「それを認識出来ているだけでも十分です。大変なお仕事ですよ」

松野の話を聞いていた岡田も、

「そうですね」

と短く同意した。


 そして必要なことは取り敢えず聴き終わったこともあり、西田はそのまま2人の住職に帰宅してもらうことにした。元々帰宅前に無理に引き止めた以上、余り長い間居てもらうのも気が引けたのだ。


 玄関先で見送る西田の前から、大きな寺院の住職が乗るにおよそ似つかわしくない、松野の軽自動車に同乗して駐車場から出て行った2人を前に、何故か清々しい気分になった。それは新たな事実を掴んだことからだけではなかっただろう。


 そしてその後課長に得られた粗方の情報を報告した。課長も何か引っかかる部分があったようだが、今回の新情報が何か捜査に影響するのかしないのかについては、懐疑的な見方をしていると西田は感じた。西田自体、それに明確に反論するだけの根拠がないことは、自認していたにせよ。


※※※※※※※

 

 8月25日金曜日午前中の捜査会議において、いよいよ沢井課長は、薬物による佐田の遺体完全消去処理を洗うという捜査をひとまず止めることを決断した。これ以上やったところで時間の無駄という判断をしたのだろう。これについては西田も竹下も賢明なものだと考えていた。残念ながら、最初の矢は完全にへし折られたという結末を迎えた。


 こうなってくると次の矢をどう放つかということになるが、捜査方針を立てた際の会議でも、名案が思い浮かばなかったこともあり、捜査会議は低調な雰囲気のまま進んだ。やはり、あの現場より、移動のリスクを負ってまではるかに見つかりづらい場所、となるとなかなか簡単には出てこなかった。


 篠田が米田を殺害したと思われる8月10日に限定しない場合には、時間制約は緩くなるが、そうなればなったで行動範囲は一気に広がってしまう。海や河川、湖沼なども割と近隣に散らばっているので、殺害当日に限らず、そういう場所も考慮に値するとは言えたが、果たしてそれが現場より「安全」と言えるのかは、やはり大きな疑問符が付いていた。掘り返した際に見つかったことは考えられたが、十分に埋まった状態では、あの常紋トンネル付近の現場でずっと見つからなかったわけだから、その「実績」を「破棄」するのは、ちょっとやそっとのメリットでは案外出来ない決断だろう。


 結論としては、行動範囲の広がりを考慮すると、篠田は佐田の遺体を持って8月10日当日に移動してもらっていた方が、捜査としてはありがたいぐらいの、なんとも煮え切らないものだった。刑事達のイライラしながら吐くタバコの煙が刑事課に充満し始めていた。


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