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明暗19

 小村から写真を受け取ると、

「昭和52年当時の若い写真じゃないんで、判別が付くかどうかわかりませんが」

と言って岡田に呈示した。しばらく写真を眺めていた住職だったが、

「いやあ、その頃より年齢を重ねているのは確かなので、はっきりとは言えませんが、このお二人より男前というと失礼ですけれども、かなり二枚目の方だったので、今でもこういう顔にはならないのではないかと」

と口ごもった。

「そうですか……。となると残りのもう一人、種村と言う人物なのかな。ちょっと待って下さいね。今確認したい人がいますので、電話します」

西田はそう言うと、近くの机から電話を掛けた。相手は奥田だった。絶対に自宅に居るという確信はなかったが、電話に出た奥さんが奥田を呼び出してくれた。


「この前はどうもありがとうございました。ちょっとその件に関係することで電話させてもらったんですが」

西田は切り出した。

「おう。前も言ったべ?気兼ねなく何でも聞いてくれや」

「じゃあ遠慮なく。遺骨採集に際に、3体の遺体を発見した話で、その発見者である、北川、篠田の他に種村 正敏という方が居ましたが、その人って、若い頃は結構男前でしたか?」

突拍子もない西田の質問に、奥田は、

「ええ? 今何て言ったんだべか?」

と聞き直してきた。聞き取れていたかもしれないが、意味が通らなかったのかもしれない。同じことをもう一度繰り返すと、

「言いたいことがよく理解できないんだが、確かに種村は若い時は結構モテたと思うな。ただあいつは糞真面目だから女遊びみたいなことはしなかったな。同僚の若い奴らがいつも『おまえはおかしい』と言ってたな」

と答えた。この時点で、ほぼ間違いなく種村が弘安寺に来たのだろうと考えた。

「そうですか。それで種村さんの今の住所か勤め先わかります? ちょっと急ぎで教えてもらいたいんですよ」

と続けた。

「勤め先は、出世して今JRの稚内保線区の区長だったはずだな。NTTに聴いて電話番号聞いて、保線区にかけりゃ一発で通じると思うぞ」

「そうですか。わかりました。ちょっと今急いでるんで、これで切らせてもらいます。スイマセン」

西田は一方的に電話を切ると、NTTの電話番号案内に掛け、稚内保線区の電話番号を調べ、すぐに電話した。奥田の言う通り、「区長の種村さんをお願いします」と言うと、すぐに通じた。


「もしもし? 代わりました。私が種村ですが」

声は西田が想像していたより低い声だったが、構わず西田は話した。

「こちら遠軽警察署の西田と申します。突然で申し訳ないですが、確認したいことがありまして。あの、種村さんは、昭和52年に身元不明の遺体を発見されてますよね?」

「え? ああ、あれですか……。そう言えば管轄が遠軽署でしたね。なるほどその件ですか……。それで今頃になって何かわかったんですか?」

「いえ、そういうわけではないんですが、その後種村さんは、その遺体が安置されているというお寺を訪ねたことは?」

「うーん、言われてみれば訪ねたような気はします。ただ、その時に聞いたら、寺ではなく、別の場所に安置されているということでしてね。詳しいことは説明しきれないんですが」

確かにこの流れを一から説明しようと思ったら、かなり難しいことは間違いないが、幸い西田はそれを完全に把握していたのだから問題ない。

「そうですか。じゃあもう一つ。お寺で『見つけた遺体が、常紋トンネルの慰霊式で既に一緒に納骨されていた』という話を、一緒に発見した北川さんと篠田さんに後からしました? 普通そういう流れになると思うんですが?」

「そういうことまで既にご存知だったんですか……。それなら話は早いですね。はい。したと思います」

種村は力強く言い切った。何かこれが事件に結びつくかどうかはともかく、篠田と北川について知っておくべき情報は全て集めておくというのが今の西田に出来ることだ。西田は満足していた。

「それで、ご迷惑ついでに1つお願いがあるんですが……」

西田は申し訳無さそうに言った。

「警察さんの頼みですから、出来るだけ協力させてもらいます」

さすがに堅物だったというだけあって、突然の要求に対しての口ぶりも丁寧だった。

「それはありがとうございます。若い頃の種村さんの写真、特に種村さんがその事件に関わった昭和52年近辺の写真を遠軽署に送っていただきたいんですよ。種村さんが行った弘安寺に当時居たお坊さんに、種村さんが実際に行ったかどうか最終確認するのに、顔しか憶えてないということなんで」

「あれ? なんか私が疑われてるとかそういうことなんですか?」

「いえ、断じてないです。事件自体が既に明らかに時効ですし、犯罪だったところで、誰も検挙することは出来ません。あ、勿論種村さんについて何か疑っているということも当然ありません」

誤解させないように詳しく説明した。

「そうですか。それなら一安心ですね」

ちょっと笑っているような声が聞こえた後、

「ちょっと遠軽署の住所がわからないんで、教えていただけますか」

と種村は続けた。西田はすぐに宛先を教えると、

「ちょっといつになるかわからないんですが、必ずお返しいたします。種村さんのご自宅の方に返却した方がいいと思うので、こちらにも教えて下さい」

と告げた。そして種村からも返却先を聞き出し、礼を言って電話を切った。

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