明暗18
「私の記憶では、叔父は遠軽警察署と生田原町にそのことについて、きちんと事前に問い合わせていたと思いますよ。さすがに最終的に自分で勝手に決めて実行したということはなかったと思います」
「そうだったんですか。当時の捜査資料には弘安寺に預けたということまでしか載っていなかったものですから」
西田もさすがにそういうプロセスを経ているなら文句をつける道理を持たなかった。
「ところで遺骨もタコ部屋労働の人達と一緒にしちゃいました?」
「いえ、それはしていません。さすがに名前がわからないとは言え、はっきりと個別にわかれている遺骨を混ぜるのは仏道に反すると思いますし、叔父もそう考えたのでしょう。もしかしたら警察のアドバイスもあったのかもしれませんが、タコ部屋労働の方達のものとは分けております。警察から預かった骨壷のままで、納骨させていただきました。確か私の記憶では、その3体もどれがどのご遺体のものだったか区別が付くようになっていたはずです」
「そうですか。それなら全く問題ないです。いや、仮に問題があったとしても、今更どうにかなるような事件ではないので、意味がないと言われればそれまでですがね。それで、区別が付くようになっていたとありますが、具体的にはどのような?」
「弘安寺にある帳面に、それぞれの骨壷に甲・乙・丙と警察が記したものの他に、叔父が簡単な戒名を付けて同様に記したことが記帳されていたはずです。そういう帳面はちゃんと管理してありましたし、松野住職も几帳面な方ですから今でもあるはずですよ」
岡田は松野の方を向くと、岡田も
「戻ってから調べてみないと何とも言えませんが、かなり古いものもありますから、多分大丈夫でしょう」
と話した。
「それは安心しました。先日、どうも一体については特定出来たので、もしこれから先、運良く遺族、と言っても結婚はしていなかったそうですから、遠い親戚となってしまうんでしょうが、そういう方が見つかった場合に引き渡せますからね。まあないでしょうがね……」
「寺川さんの証言でしたね」
松野が補足した。
「しかし、当時出席していた人達も、まさか無関係の可能性が高い人が納骨されていたとは思ってなかったでしょう」
「いや、私どもも騙すつもりなど、当然一切ありませんでしたよ」
西田は皮肉を言ったつもりはなかったが、岡田住職は口調こそ穏やかだが憤慨していたかもしれない。
「ああ、別に変な意味はないですから。失礼しました」
平謝りすると、
「何も気にしていませんよ」
と笑みを浮かべて、
「ただ、出席していた方の中には、後からですが、そういうことがあったと知った人もいましたね」
と続けた。
「それはどういうことなんですか?」
西田は聞かずにいられなかった。
「お名前は忘れましたが、何でもその無縁仏のご遺体を見つけたという国鉄職員の方が、わざわざ慰霊式からちょっと経った頃、慰霊式が9月末でしたから10月ぐらいだったかなあ、『警察から聞いてきた』ということで、わざわざお参りに訪れていただきまして。そこで、『実は』という話をすると、まさかその慰霊式の時点で結果的にお参りしていたとは思っていなかったようで、かなり驚いていた様子でした」
「無縁仏を見つけた国鉄職員!? そうなると3名いたはずですよ! ちょっと待って下さい。あ、こ、ここだここ。この3名の中にその人物の記憶に合致する人物は?」
それで何がわかるというわけでもなかったが、捜査資料の該当箇所をめくって提示する。西田としては内心北川か篠田であれば、これを端緒に何か掴めるかもしれないと期待していた。
「今拝見しただけで、合致するかどうかと言われると……。顔なら憶えていますが」
岡田にそう告げられた西田は小村に、
「小村、北川と篠田の捜査で集めた資料の写真あったよな? ちょっと持ってきてくれ!」
と呼びかけた。




