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明暗17

 大場にお茶を出させた上で、西田は捜査資料を自分の机から応接セットのテーブルの上に置いた。それには、例の3体の遺体が出た事件の資料も含まれていた。


「さっそくですが。質問させてもらいます」

「どうぞ」

湯呑みにもほとんど手を付けていなかった岡田住職は、ソファーであっても背をきちんと伸ばしたまま西田に正対した。


「まず、この慰霊式について我々警察が関心を持っているのは、とある事件の重要参考人と思われる複数の人物がこれに参加していたようでしてね。まあとある事件と言いましても、住職もご存知でしょうから、隠しても仕方ない。6月に遠軽で発見されました、3年前の行方不明になっていた青年の殺人事件です。それで、その遺体が発見された場所、まあ殺害されたのも同じところだと考えておりますが、それと慰霊式の場所がほぼ同じというのも気になっているところなんですよ。はっきりとは言えないのですが、ひょっとすると式典で何かカギになることがあったのではないか? あくまで刑事の勘という奴ですがね……」

西田は言葉を選びながら喋った。ただ、佐田の件については、まだはっきりしなかったこともあり、話には出さなかった。


「うーん、何かあったのかと言われましてもねえ……。昔の話ということもありますが、特に何か問題があったような記憶はないですよ」

岡田は袈裟の上端を指でつまみながら、懸命に思い出そうとしている様子が見て取れた。


「そうですか。ちょっと抽象的過ぎる聞き方ですね。じゃあ申し訳ないですが、式典がどのように始まりどのように終わったか、一部始終について大まかで結構ですので説明いただけたらと思います。式次第については、この冊子にも載っていますから、お話の参考になるかと思います」

西田はそう言うと、冊子の向きを逆にして岡田の前に出した。


「正直このままの通りですよ。まずは当時の生田原町長の堂岡さん、これが生田原の駅長だった人でもあるんですが、彼の挨拶から始まり、国鉄の旭川管理局の局長の挨拶。そして、それまでに集められた、荼毘に付された遺骨が納められた幾つもの骨壷が並べられましてね。それを町長達が石棺に納骨し、我々が読経を上げた。そして国鉄職員を中心とした出席者が焼香という形ですね。最後に生田原町議会の三好さんが最後の挨拶で締めでした。時間的には2時間程だったと記憶しています」

「その間には特に印象に残ることはない?」

「ないですね。申し訳ないが特別なことは全く思い浮かばないです」

「そうですか……。こちらも具体的なことを聞けないので、そうなると仕方ないですね……」

西田は無念さを滲ませた。伊坂、北川、篠田の3人の出席者と佐田、米田の事件、そして慰霊式典の行われた場所の結びつきが単なる偶然の一致なのか、それとも西田がイメージしているような、まだ浮かび上がってこない関係性があるのか……。見えない糸をたぐり寄せる作業である以上、困難な道のりであることは仕方なかった。


「じゃあ、ついでと言ってはなんですが、もう一つ、ある事件について聞きたいことがありまして。これはもう既に捜査しようがない話なんで、気軽に聞いてください」

と西田は話を変えた。

「同じ年の無縁仏の件ですね?」

「あ、どうして?」

「松野住職からその話も聞いてますから」

「そうでしたか。それなら話は早い」

西田は自分のお茶で乾いた口を潤した。


「警察と生田原町から無縁仏として供養を依頼された後、その遺骨はどうなったんでしょうか? 松野住職は知らないと先日おっしゃってましたが」

「はい。それを松野さんからも聞かれましてね」

岡田も湯呑みに口を付け、一息入れた。


「それこそ、慰霊式で一緒に納骨いたしました」

「え?」

西田は驚きを隠さなかった。いや隠せなかった。

「ちょっと待ってくださいよ。慰霊式はあくまでタコ部屋労働の犠牲者の慰霊式ですよね?」

「はい。勿論存じております」

「一緒に埋葬というか納骨して良かったんですか?」

「私の叔父である総信の判断でした。理由としては、タコ部屋労働の犠牲者ではないという絶対的な確信が警察の方にもなかったということがまずありました。そして次に、寺に無縁仏という形で安置しておくことよりも、慰霊式で他の皆さんにも慰霊してもらった方がいいのではないかということがあったようです」

「まあ、確かにわからんでもないですが……」

西田は完全に納得出来ていたわけではなかった。

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