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明暗11

 刑事全員が切り株の周りに集まると、松沢が拾った木の枝で年輪を指した。

「ほら、やっぱり太くなってますね。米田が埋まってた側の方がより成長してる。日当たりが良いところの木の年輪が南側が太くなるのと同様、栄養分が高い方がより成長するんですよ」

松沢の解説を聞きながら、直属の部下の三浦が、勉強のための資料にするのか、写真をカシャカシャとせわしなく撮っていた。

「確かにかなり年輪が太くなってるな」

沢井以下強行犯係の面々と丸山もしげしげと覗きこんでいたが、松沢はそれ以降言葉を発することもなく、切り株の根本にしゃがみこんで年輪を入念にチェックし始めた。それを不思議そうに黙って見ていた刑事達にも、その行動の理由を察するのにそうは時間が掛からなかった。


「あれ、米田が埋められたのは3年前の夏ですよね?」

吉村がまず第一声を上げた。

「ああ、だからおかしい……」

松沢はゆっくりと立ち上がると、

「全く同じ部分の年輪が、今数えたら、7年前の春から秋に掛けての成長期以降、かなり太くなってます。はっきりわからないけれども、米田が埋まってたのと同じ方向の位置、いやほぼ同じ場所に、栄養分が7年前の春には既にあったということになりますね……。そして4年前ぐらいには一度成長が弱まってる。栄養分がそれ以前よりは少なくなったってことでしょう」

と言った。

「だろうな、見た感じ3年以上前から太くなってるように見えたもんな」

沢井課長も同意した。


「ちょっと待ってください! 松沢主任。7年前の春って言いましたが、それって8年前の秋まで遡れませんかね? 冬場は光合成出来ないですから、栄養分があっても、ほとんど成長できないでしょ?」

竹下は急にまくしたてた。

「う……うーん。言う通りその可能性は十分にあるぞ……。そう言われてみれば、8年前から7年前の冬に掛けての年輪の濃い部分は、その前のよりは多少太いように見える」

勢いにされたかのように松沢は一瞬どもったようになったが、竹下の説に理解を示した。

「そうか! 竹下の言いたいことは、この米田以前にあった栄養分の供給が、佐田の遺体からされていたんじゃないか? そういうことだろ?」

西田は竹下の言った意味に気が付いた。

「ええ、そうなります。そして、もしそうだとすれば、自分が考えた話により説得力が出るんですよ! 木の成長がそれを裏付けられます。佐田の遺体の分解が進んで、土中に供給されるまでに数ヶ月ぐらい掛かるとすると、本格的に木の成長に関わってくるのは、翌年春、7年前の春の成長期からとなるんじゃないかと」

「竹下の推理に客観的証拠が出て来たな」

「課長その通りです! 篠田が佐田を……おそらく殺して埋めていたこの場所を掘り返していた、いや掘り返し終わってた時かもしれない。その時に鉄道写真の撮影に来ていた米田がたまたまそれに出くわした。見られたらマズイものを見られた篠田はツルハシで米田を殺害。そのまま同じ場所に米田を埋めたって言う流れであれば、この年輪の成長の説明が付きます。4年前に成長が鈍ったのは、佐田の遺体の分解が進んで、かなり白骨化したことによる養分供給の低下と考えられます」

竹下らしい理路整然とした説明だった。

「ちょっと待てよ。そうなると佐田の遺体はまだ埋まってるってことになるのか? 当然米田が埋まっていた場所より深いということになるな、場所はほとんど一緒だと見ていいんだろ?」

「課長、そこは正直疑問ですよ。この前米田を発掘した時もその後それより一応深く掘ってみましたからね。まあ50センチ程でしたが、可能性は低いんじゃないですか? 根の位置も米田が埋まっていた位置より更に深いという程でもなかったように思います」

松沢は懐疑的だった。

「ふむ。でも、やはりもう一度深く掘ってみて確認した方がいいんじゃないか?」

「課長がそこまで言うなら、俺は止めません。念入りにやることは悪いわけじゃないんで」

松沢もそれ以上は異を唱えなかった。

「じゃあ早速掘り返すぞ! スコップ持ってこい!

課長の号令で、澤田、大場、黒須、丸山巡査部長がスコップを取りに戻った。

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