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明暗8

「はっきり言っちゃうと、突然行方不明になったらしいと言うこと。事情を順を追って細かく説明しないといけないから、面倒な話かもしれないが……。私は昭和2年、1927年生まれなんだけど、尋常小学校を卒業して、1940年には旭川の旧制中学に入ったんですよ。近い北見じゃなくて旭川にしたのは、父親がレベルの高い方がいいという理由だったけれど。それで、その頃には小学校時代に遊びに行ってたその山師の小屋には行けなくなっていて。その山師の名前は仙崎 大志郎とか言ったかな……。うちの人間は親しみを込めて『仙人』って呼んでましたよ。私達は『仙さん』って呼んでましたね。まあそういう稼業の人だから、50越えて結婚もしてなかったらしく、格好もそんなにちゃんとした人じゃなかったけど、そういう暮らしをしてた割に、人格はかなり温厚でね。生まれは信州だったと言っていたようだけど、出自もはっきりしない人に祖父が土地を貸したのも、そんな人柄を認めたせいかもしれない。使ってた若い流れ者みたいな人達にも、さっきも言ったように優しかった。私が遊びに行くと『坊っちゃん』と呼んで色々構ってくれました。使用人の若い人達も遊んでくれましてね。一平ちゃんなんかも一緒に行ったことがある」

寺川は懐かしい目をしながら思い出を語った。横山もそれにうなづきながら懐かしそうに聞いていた。


「それで中学に通い始めて2年もしなかった頃、確かお盆で帰省していた時だったかな、『仙さん』のところに行ってみようとすると、父親から『仙さん達が神かくしにあったように、突然居なくなってしまった』と聞かされましてね。だから昭和16年、1941年の夏になるのかな……。金鉱山整備令が出る前のことになりますな。本当に突然のことだったらしいですよ。まあ毎日顔合わせてるわけじゃないからいつ消えたのかは、よくわからなかったようですが」

「俺はずっと生田原に居たけど、仙さんが消えたのは大ちゃんのおやじさんから聞いて知ったな。さすがに小学出てからは、遊びに行くこともほとんどなかったから」

横山も補足した。

「そんなに突然消えたのに、放っておいたんですか?」

「まあ半分うちが雇ったみたいな人が消えたわけだから、そう思うのも不思議ないかもしれないが、『そういう』人たちですからね。ある意味警察なんかに照会すると、かえって彼らにとって厄介なことになりかないという配慮があったんじゃないかと思います。こっちも何か盗られたとかそういうことはないから、被害もなかったことも放置した理由の1つでしょう」


 寺川は歯切れの悪い言い方になっていたが、流れ者的な人の行方不明を警察に報告することは、場合によっては一種の「密告」になりかねないことを、寺川の祖父や父親は考慮したと言いたいのだろう。事実として、タコ部屋労働から逃げた人足・工夫を、警察がむしろ取り締まったなど、立場が弱い人間にとって必ずしも警察が味方ではなかった時代性を考えれば、そういう発想に至ったとしても不思議ではなかったのだろう。


「それにね、仙さんは格好はみすぼらしかったかもしれないが、お金はそこそこ持ってたはずですから、突然消えた理由はわからなくても、食うに困ることはないだろうという安心感もあったんじゃないかと」

「やっぱり砂金掘りでそれなりに儲けていた?」

「そうなりますね、西田さん。人を雇える程だったこともあるし、歯も自分の採ったものかは知らないが、金歯が入ってたぐらいですから、貧乏ってことはない。笑うとキラっと光ったのを思い出しますよ」

「金歯?」

西田は「昔話」の中にも重要なキーワードを聞き逃すことはなかった。

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