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明暗4

 玄関を出て全員が揃ったところで、

「ところで、和尚は自分の車で行くんですか?それとも俺らのに乗りますか?」

と横山が聞いた。

「自分の車で行くつもりですが?」

と松野住職は自分の軽の四駆を指した。

「ちょっと待って下さい。既に警察の車両が3台行ってますから、ここから更に警察で2台、そちらで2台の合計7台となると、スペース的に厳しいかもしれないですね」

西田は現場手前の駐車出来る場所の広さを気にした。

「そうですか……。じゃあ私は誰かの車に乗せてもらった方が良さそうです」

「警我々の車両に乗ったらいかがでしょう?」

沢井が会話に入った。

「なんか西田が住職にも伺いたいことがあったようなんで、こちらとしても都合が良いですし」

確かに西田としても、現地まで行く間に、松野に色々聞ければ時間の節約にもなる。

「わかりました。じゃあ警察の方の車に乗らせていただきます」

「じゃあこちらへ」

西田は住職を自分の車の後部座席に案内した。

「それじゃあ私が先導しますんで。沢井課長達が殿しんがりでお願いします」

丸山はそう言うと自分のパトカーに乗り込みエンジンを掛けた。それを見た西田が運転席に乗り込もうとすると、沢井が手で制した。

「おまえは後部座席で住職に話聞いてろ。運転は俺がするから」

「いや、それはさすがに申し訳ない」

「いいから。後ろに居たら、当時の資料を見せたりすることも出来るんだから」

沢井の言ったことは、好意というだけでなく、理にかなっていたので、西田は結局受け入れることにした。


 

 その後すぐに、丸山の四駆パトカーを先頭にして、横山と寺川、内田の3人が乗った四駆、沢井、西田と松野住職が乗った覆面パトカーの3台はゆっくりと横山の家を後にし、常紋トンネルを目指した。いつものように空いた国道を、一旦生田原市街に向かい、そこから山道を折り返す形で現場に向かうことになる。


「ところで、西田さんでしたか、何か私にお聞きになりたいことがあるようですが?」

出発してから数分も立つと、松野が西田に話しかけた。タイミングをうかがっていた西田は相手からのアプローチを機に話し始めた。

「そうでした。じゃあお言葉に甘えて早速……」

西田はそう言うと、カバンの中から慰霊式典の出席リストの冊子を取り出した。

「今回松野住職が供養する慰霊碑と納骨された石棺ですが、この昭和52年に国鉄職員を中心にして行われた、タコ部屋労働犠牲者の遺骨収拾で集められたものを納骨したんですよね? そしてここに載っている、当時の弘安寺の「岡田 総信」住職と僧侶の「岡田 興隆」、多分この方は名前から察するに、今、遠軽にある弘恩寺の住職をしている方だと思いますが、このお二人で供養したということですね?」

「ええ、その通りです。私もそう聞いて供養について引き継いでますから。それから興隆が今、弘恩寺の住職だということも事実です。」

「失礼ですが、松野住職とこの岡田さんとはどういうご関係なんでしょう? また、ここに載っている両岡田さんは親子関係のように思えるんですよねえ」

「えーっとですね、岡田 興隆と岡田 総信は甥と叔父の関係なんです」

西田は思わず、

「あ、そうだったんですか」

と口にした。

「ええ。そしてその岡田 興隆と私が、たまたま得度のために修行に行った山形県の仙龍寺で同期だったんです。私は僧職とは無関係の、東京の一般家庭に生まれましたが、大学卒業後就職したものの、どうも企業利益追求と人間関係の疲れから、サラリーマンという生き方に疑問を持ってしまいましてね。迷った挙句、社会人になってから3年めに出家という形になったのです。そこで仏門に入ったのが仙龍寺ということだったんですよ。彼は大学卒業後すぐに仏門に入ったので、私の方が3つ上ですが、僧職としては同期ということになります」

松野が立派な僧侶だという評判が立つのも、「なんとなく継いだ」からではなく、自分の真摯な意志によるものだと考えれば、腑に落ちるものだった。


「それで弘安寺の岡田住職夫妻にはお子さんがいらっしゃらなかったので、住職が亡くなった後は興隆がしばらく住職として継いでいたんです。ただ彼の実家である、遠軽の弘恩寺、実は弘安寺は本寺院である弘恩寺から昔分院した寺なんですが、弘恩寺の住職であった彼の父上が今度は亡くなり、彼が継ぐ必要が出て来たのです。そこで知り合いの私にお鉢が回ってきたということですね。先程も言ったように、一般家庭の出身でして、継ぐべき寺もなく、単に住職が居る寺に雇われという形で勤めていたわけですから、『それならば住職として生田原に住んでみては?』と連絡を受けまして、お引き受けしたという次第です」

「そういうことだったんですか。よくわかりました。ということは、松野住職より、遠軽の岡田住職に聞いた方が、やはり当時のことはわかるんでしょうね」

「断定は出来ませんが、慰霊式にも出席しているようですから、その通りなのではないでしょうか」

「やはりそうなりますよね」

西田は松野の話を聞いて、先日考えたように、やはり岡田住職に話を一度聞く必要があると再確認した。


「他に私に聞きたい話はありませんか?」

そう言われて、西田はさっき寺川に聞いた事件で、3人の遺体が結局弘安寺に無縁仏として安置されたことを聞かなくてはと思った。

「さっき寺川さんに聞いていた話と関連するんですが、その見つかった3人の遺骨が、結局は荼毘に付されて、弘安寺に無縁仏として預けられたという話を聞いています。住職はご存知ですか?」

「いえ、それについては初耳です。寺にも遺骨はないはずですね。あったら当然知っています」

松野は、「彼にしては」語気を強めた。

「そうですか。そうなると、これも当時を知っている弘恩寺の岡田住職に聞いた方がいいですね」

という西田の発言に、松野住職は

「そう思いますよ」

と同意し、静かに目を閉じた。


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