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迷走66

 箱を1つだけしか持っていなかった西田が刑事課室のドアを開けると、先に竹下が声を掛けてきた。

「あれ? あったんですか、目当てのものが!?」

「ああ、運良く色々残ってた」

まだ夕刊を読んでいた沢井もその会話を聞きつけると、それを置いて席を立ち西田の元へ寄ってきた。

「あったのか! どれ、ちょっと見せてみろ」

「これですね」

西田と北村は机にダンボールを置くと、中から資料を取り出して見せた。手にとってパラパラと報告書をめくり、証拠物件を覗きこんでいた沢井は、

「立件すらしなかったのに、ここまでちゃんと取っておくとは、先輩刑事に感謝すべきなのか、はたまたたまたま放置されていただけなのか……」

と口にした。

「田坂課長は、遠軽署が大して事件がないからとも言ってましたよ」

と西田が冗談めかして言うと、

「それは言わなくてもわかってる」

と苦笑した。竹下始め、小村、澤田、黒須、満島も色々手にとって見ていたが、証拠物件よりも報告書に興味を示した。中身以上に古い報告書の書式が気になったようだ。実際問題、ほどんど書き方に変わりはなく、彼らも拍子抜けしていたように西田には思えた。しかし、いつまでも後輩達の物見遊山に付き合っているほど気の長い西田ではなかった。

「おい、もういいか? さっさと詳細を調べたいんだが」

西田はそう言うと、各々が自分の机に戻った。

 西田は捜査報告書を自分の机に置き、詳細をチェックし始めた。北村ももう一冊あった報告書を手に取り席に着いた。


※※※※※※※


 昭和52年7月14日午後1時、生田原町国鉄石北本線常紋トンネル生田原方向300m付近で、白骨化した遺体2体を非番だった国鉄職員3名(北川友之・篠田道義・種村正敏)が、慰霊のためにタコ部屋労働者の遺骸採取時に偶然発見。国鉄の保線区に無線で連絡。保線区より通報を受け、遠軽署刑事課並びに鑑識が現場に急行。遺体の確認並びに周辺の捜索で、午後4時半遺体発見のすぐ横から更なる1体の男性の白骨遺体を発掘。場所的近接性、遺体状況から、先の2体とほぼ同時期に埋葬されたものと推測。殺人事件の可能性を考慮し、捜査本部を立てることも考えられたが、かなり前の埋葬であり時効が絡むことと、死因が危害行為によるものか、更なる考察が必要との判断で、取り敢えずそのままの形で捜査が続行された。


 最初の2体を発見した3名の証言によれば、「沢の付近で2つの大きな石が並べて立ててあり、自然状態でのものとは思えなかったため、ひょっとするとタコ部屋労働者の埋葬跡ではないかと推測。掘ってみるとそれぞれから1体ずつの白骨化した遺体を発見」したとのこと。


 その後の鑑識と北見方面本部科捜研の鑑定によれば、「1体は40~60代前後の男性で身長は160前後、死因は不明。もう一体は20~40代前後の男性で、身長は165前後、死因は遺体頭部に陥没骨折痕があったので、それが死因となった可能性が高い。ただ、陥没が事故によるものか人為的なものかは不明。いずれの遺体もかなり年月が経ってあることが一瞥してわかり、着衣を見ても、捜査開始当初は戦前から昭和30年代程度の可能性が高いと見ていた


とまず記してあった。


 それぞれの遺体の写真も貼っており、特に中年~老年らしき「甲」と命名された遺体の写真を見ると、下顎の拡大部分もあり、そこには前歯の部分の金歯が写っていた。西田は歯科について詳しいわけではないが、かなり前の時代の金歯ということで、それなりに金があった人間ではなかったかということをそこから読み取った。報告書にも、「その後の歯科医療関係者への参考聴取の結果、当時としてはかなり高い金額が発生したと思われ、それなりの経済的余裕が当時あったか、またはそれ以前には経済的余裕があった人物と推測される」とあった。


 少なくとも、タコ部屋労働の犠牲者であるならば、そのようなことはなかっただろうと西田は思っていたが、報告書の続きを見ると、「タコ部屋労働者には、富裕者が落ちぶれた者もたまにいたらしく」とあり、それだけでタコ部屋労働の犠牲者であることを否定する材料にはならなかったようだ。また、「しっかり埋葬されていたことは、雑な扱いで埋められれた多くの犠牲者との違いが際立っていたが、後に詳細に報告する、警察の捜査により発見されたもう1体の白骨遺体は、かなり雑な埋葬をされていたので、3件が関連しているという前提では、否定するまではいかない」とも書いてあった。そちらの分の報告書は今北村が熟読中のため、西田は詳細は後回しにすることにした。


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