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迷走65

 田坂によって案内された倉庫は、小村の言う通り地下にあったが、予想していたよりは広いスペースはなく、備品などがほとんどで、捜査資料があるようには一見しただけでは思えないような部屋だった。ただ、かなり小奇麗に整頓されていて、想像していたような雑然とした空間ではなかった。もし目当ての資料があるのなら、案外すんなり見つかりそうな雰囲気すら感じた。

「確か、この辺にあったような気がしたがな」

一番奥に並んでいた金属製のラックに載っているダンボールをガサゴソといじる田坂を横目に、西田と北村も整理されているものを引っ掻き回さない程度に手伝い始めた。すると、大して間も置かず田坂が声を上げた。

「おっ、なんかあったぞ……。上に乗ってるのが昭和47年の資料だから、あるならこの辺りで間違ってないと思うぞ」

田坂がダンボールを床に置いて、中身を取り出しながら指さす。

「小村がさっき言ってたのはこれかな?」

西田もしゃがみこんで資料を手にとった。確かに昭和47年の強盗殺人事件についての資料と物的証拠の一部と思われる、凶器らしき包丁など数点がビニール袋に入ってダンボールの中に収納されていた。おそらく、被害者に返却する必要がなかったものの中から、更に一部が保管されていたのだろう。捜査過程の報告書を簡単に見た限り、最終的には懲役15年で決まった事件のようだ。

「それなりに大きな事件はとってありそうですね」

「北村の言うとおりだと思う。ここはそう凶悪事件は多くないから、そういうでかいヤマに関してのものはとってあるかもしれない。ただ、俺達が探してるのは立件されなかったからなあ……」

西田はため息を付いた。

「とにかくここにあるダンボール全部ひっくり返してなかったら、その時諦めりゃいいんじゃないの? お前たちがそれでも探したいって言うから探してるんだから、そんなこと今更言われても困るぞ」

田坂は若干不機嫌そうな物言いになった。

「そうでした……」

西田は反省の弁を述べると、再び手を動かし始めた。証拠物件が多いものはダンボール1つか2つに対して事件1つだったが、証拠物件が保管されていなかったり、少なかったり小さかったりしたものは、複数の事件が1つのダンボールにまとめられていた。北村と協力して丁寧に分別していく。田坂はダンボールをラックから下ろす役目に専念していた。


 作業開始から20分程経った頃だろうか、報告書を調べていた北村が、

「これじゃないですかね!」

と突然床にしゃがんだ状態から立ち上がった。西田はそれを見て自分も立ち上がると、北村から奪うように報告書を手にとって、中身を確認した。


「間違いない。捜査開始が昭和52年の7月14日木曜日で、国鉄の職員から連絡があり、遺体(遺骨)3体分確認とある。それにしても、よく残ってたなあ!」

思わず感嘆の声をあげる。田坂も西田の横から覗き見した。

「おまえら運があるな。普通なくなってるぞ、こんな発覚時点からすら時効すら過ぎたようなもんは。逆に言えば、事件件数が少ないからこそ出来た技でもある」

少々自虐気味な発言だったが、田坂の言うことは実際正しいと2人も思っていた。

「一緒に遺体が身につけていた衣服や物品みたいな証拠物もここに入ってますね」

北村は横にあったダンボールを持ち上げると、西田に中身を見せた。確かに土で汚れているが、衣服らしきものが複数のビニール袋に入っており、そのビニール袋には、「昭和52年7月14日 身元不明遺体着衣物件」とマジックで書かれていた。

「捜査報告書だけでなく、証拠物件も残ってたか」

西田は衣服が入ったビニールの1つを手に取ると、ビニールに薄く積もっていた埃を払った。ダンボールの蓋が閉められていたので、中は割と綺麗なままだった。ただ、ダンボール自体は埃や蜘蛛の巣で少々汚れがあり、やはり年月の積み重ねは隠せなかった。

「ここで見ててもラチが開かないだろ? 刑事課に戻ってちゃんと確認したらどうだ? 俺もいつまでも付き合ってる訳にはいかないし」

田坂の提案に2人も頷いた。ダンボール計3箱を北村が2箱、西田が1箱持って倉庫から出ると、警務課の前で田坂と別れ、そのまま刑事課へと引き返した。


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