迷走64
「何の話だった?」
西田と北村が戻ると、課長は読んでいた夕刊から目線を上げて開口一番尋ねてきた。
「この前聴取させてもらった時に、北村が『遺骨採集やら慰霊式点の際に、何かなかったか?』って質問した時、何も思い浮かばなかったようなんですが、今日たまたま国鉄時代の同僚と話していて、北川と篠田が絡んだある事件の話を思い出したとか」
「ある事件とは?」
「遺骨採集の際に、2人が身元不明の白骨遺体を発見して、警察沙汰になったそうです。しかも、その後の捜査で現場付近から更に一体出てきて騒ぎになったと。ただ、結局事件性についてはっきりしなかったのと、明らかに遺体状況から時効ということで、立件はされなかったと」
「ほう、そんなことが」
「課長、古い捜査資料ってどのくらい保管してますか? 10年ぐらい前のものは刑事課にもありますが、昭和52年ですからそれ以前の奴です」
「ここにないものはないんじゃないのか? ここにないものの在処はわからんぞ。調べてみたいのか?」
「ええ、やはり気になりますよ。なけりゃないで仕方ないですけど。しかも立件しなかった事件となると、処分済みかな」
「望み薄だろう。残念だが」
課長はそう言うと再び夕刊を読み始めた
その話を横で聞いていた小村が、
「係長、1年前ぐらいに、警務課(署内のいわゆる庶務課)の管理してる地下倉庫に入ったことがあったんですが、昭和40年代の事件に関しての報告書があったような記憶があるんですよ。証拠物件なんかも一緒に。立件してないということなんで、課長の言う通り期待薄かもしれないですが、探してみる価値はあるかもしれないですよ」
と情報を入れてくれた。
「なるほど警務課の倉庫か。サンキュー。ちょっと聞いてみるかな……」
西田はそう言うと、警務課へと再び階下に向かった。北村も続いた。
「ちょっと申し訳ない!」
西田が声を張り上げると、警務課の女性職員が応対した。
「倉庫に古い捜査資料があるかどうか調べたいんだが?」
「わかりました。課長! 刑事課の西田係長が倉庫に古い捜査資料があるかどうか知りたいそうです」
既に西田が聞いていた時点でチラチラと視線を向けていた田坂課長が、待ってましたとばかりに席を立ち、2人の元へやってきた。
「西田、古い捜査資料ってのは何年前ぐらいのだ?」
「昭和52年ですね」
「52年!? その辺の年代となると、あったりなかったりするのもあるぞ」
「しかも立件されてないらしいんですよ」
「立件されてない? じゃ望みは限りなく少ないな……。それにしても立件されてないような事件、しかも殺人ですら時効になってるんだから、今更調べる必要があるのか? どんな事件だ?」
「強いて言えば殺人・死体遺棄の可能性があったようですが、当時の時点で時効が確実に絡んだらしいのと、殺人だかよくわからなかったらしく、立件できなかったそうなんですよ」
「ふーん、形跡としてはそれなりにデカイ事件だったんだな。だったらもしかしたらあるかもしれんが……。おい、誰か倉庫の鍵持ってきてくれ!」
田坂は部下に一声掛けると、鍵を受け取り、
「やることもないから、今探してみようか? ここ数日は沢井の話だと最近じゃ珍しく暇らしいから、おまえらも大丈夫だろ?」
と聞いてきた。
「ええ。丁度時間があったんで、渡りに船ですよ」
西田はそう言うと、北村と共に田坂に付いていった。




