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迷走55

 遠軽署に戻ると、西田と満島による報告もそこそこに、篠田の書類送検のために、どう「詰める」かが話し合われた。沢井課長も西田同様、「篠田が実際に殺害現場に行ったかどうか」或いは「実際に篠田が殺害したか」をどう証明するかが難しいという認識だった。


「ジープの廃棄は、今回の聴取で唯一の大きな失望結果だな……。凶器のツルハシは代替品の入手が可能だったから、増田の証言含めてなんとかギリギリで踏みとどまったが」

課長は渋い顔でそう漏らした。既に死んでいるとは言え、ホシを追い詰めつつあったからこそ、篠田の死亡とジープの廃棄は残念な事実だったが、1ヶ月前までのことを考えれば、相当の進展を見ていることは明らかだった。だからこそ、最後の「王手」が見当たらないことがもどかしい。考えが浮かばないまま会議は続いた中、竹下がおもむろに口を開いた。


「伊坂、死んだ先代社長の伊坂ですけど、今回の証言で、篠田に当日電話を掛けてきたんですよね? その内容ついてはわからないということですが……」

「その通りだが? 竹下は何かあるのか?」

「係長としては、それについてどう思いますか?」

「どう思うと言われても困る。言い争っていたというのだから、それなりのことなんだろう」

「篠田と意識不明の北川は佐田の失踪事件に関与している可能性が高いというのが、我々が向坂さんから得た情報を加味した結果ですが、その電話がそれと関係しているという可能性はどうでしょう?」

「主任、しかし、佐田の事件は8年前、今回の篠田の行動は3年前ですよ?」

小村が疑問を投げかけた。

「証言を聞く限り、『そんなわけはない』とか『確認する』とかそういう話になっていたようです。勿論純粋な仕事の話の可能性は否定できませんが、その後の篠田の行動を見ると、仕事というにしては、不可解な行動が目立つような気がします。かなり飛躍した推理になりますが、もしかすると、『確認する』というのは、佐田の遺体を確認することだったんじゃないかと」


 竹下の推理に西田は竹下の顔を思わず二度見してしまった。沢井課長、小村、澤田、吉村、黒須、大場の他の遠軽署員6名、満島、北村の北見方面本部の2名の計8名も竹下に視線を集中させた。


「随分、大胆な発想だな」

課長は椅子を回転させて横向きになった。

「そもそもですが、米田が殺されたのは、状況から見て、たまたま何かに巻き込まれたからというのが、これまでの捜査から出た有力な仮説です。何に巻き込まれたかという点においては、最も可能性が高いのは、『犯罪の現場にでくわした』でしたね?」

竹下は周りから反応が出ないことなど構わず続けた。

「その『犯罪の現場に遭遇』とは、8年前に篠田が、いやこれには北川始め、他にも共犯がいた可能性がありますが、佐田を殺して捨てた遺体を、3年前に再び掘り当てた、丁度その場面だったんじゃないか? そういうことです。なにしろあの場所は篠田と北川にとっても昔から土地鑑のある場所ですから、佐田の遺体の遺棄場所としてはありえますよね?」

「その説には、問題があるように思えますな」

満島が間をおかずに異を唱えた。

「まず、佐田が殺されていたとして、その遺体を再確認する必要がどうしてあったかがわからないということ。少なくとも佐田の失踪から5年は事件を隠蔽できていたのは確かですから。伊坂と篠田のやりとりから見て、それなりの重大な何かがあったのは間違いないとしても、それが佐田の遺体の確認と結びつくかどうか。そして仮にそうだったとして、その確認する理由は何か? 推理としては面白いが、そこにまで至る過程に無理があるように思えます」

「伊坂と篠田に共通しているのは、佐田の失踪に何か関わっていそうだということはその通りだが、そこから今回発覚した事実を直接結びつけるのには、まだ弱い気がする。1つの可能性としては考慮しても良いとは思うが……」

西田も満島に同調した。

「竹下、ちょっといいか?」

沢井が再び正面に向き直って竹下に喋りかけた。

「仮に竹下の推理の通りだったとしてだ、問題は佐田の遺体はどこにあるかということになる。どう考える?」

「米田が目撃後すぐに殺害されたと言う想定が一番説得力があるのは自明ですから、それを前提とすると、必然的に米田の遺体があった場所と佐田の遺体があった場所はそう離れてはないと言えるのでは?」

「うーん……」

沢井はうめくように声を絞りだすと、今度は背もたれにもたれかかって天井を見上げた。


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