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迷走54

 だが完全に黙っているという選択肢は、相手に協力してもらうことを考えれば、やはり無理があるだろうと、西田は増田の発言から再認識させられた。どこまで明かすか、難しいさじ加減が必要だ。しかし、警察が篠田について今更調べており、しかも念入りとなると、それなりの事件だということは、相手も既にわかっているはずだ。しかも調べれば調べるほど、何を調べているかもバレていく。どちらにしても、結局は相手にバレるのは時間の問題だと西田は覚悟を決めた。


「篠田さんとある殺人事件の関係を調べています」

「殺人!? 篠田専務が人殺しをしでかしたんですか?」

 いきなり刑事の口から「殺人」という言葉が発せられたことに、二人はかなり動揺した様子を見せた。特に近藤は、かなり驚いて飲んでいたお茶にむせ、西田に聞き返した程だった。

「そいつはえらいこった。刑事さん本当だべな?」

増田は目を丸くして西田に確認したが、西田も真剣な顔でそれを肯定した。

「まいったなこれは……。俺が売ったツルハシで人が死んでたのか……」

しばし呆然とした増田だったが、なんとか気を取り直したように、

「それじゃあ、すぐに今あるツルハシを見せないと。確認してもらうべ……」

と言うと、やおら立ち上がって、西田達を案内しようとした。刑事二人と近藤も増田の後を付いていく。西田達も駐めていた駐車場の端にあった車は、パジェロだった。こういうオフロード系の車がお気に入りなのか、必要なのかわからないが、買い替えた後も同車車種なのは事実だ。後部ドアを開けると、そこには数点の工具が積まれていた。おそらく、ジープにも同様に積んであったのだろう。


「これだよ。同じ奴のはずだ」

増田が手にとって渡してくれたツルハシを、念入りに確認する西田と満島。これまたかなり状態が良く、ほとんど使っていないのは明らかだった。増田がこれまで発言したことが事実なら、おそらく「傷」はほぼ一致するはずだ。無論、製造工程などが違った場合には、そうとは言い切れないが、その場合には、ツルハシの柄に張ってあるメーカーに直接確認するしかない。

「申し訳ないが、これしばらく警察に貸してもらえませんか?」

「いやいや、勿論持っていってもらって結構だ。特に使うこともないし」

西田の申し出に、一も二もなく快諾した増田だったが、実態は快諾というより、自分が証拠を犯人に売ったかもしれないという後ろめたさから、NOとは言えないという気分だったのかもしれない。ただ、勿論その過去の行為に悪気などあるはずもなく、西田はむしろ増田の証言含めた協力に、感謝しかなかった。


 12日については増田は篠田と一切コンタクトしてなかったということで、今回の聴取はここまでに止め、鑑定のために借りた代替品のツルハシを持ち、西田達は北見方面本部へ向かった。米田の頭蓋骨から型取りした創傷部分の模型が鑑識課に置いてあるからだ。


 同時に、かなり大きな「収穫」があったので、鑑定前に概要を無線で署に連絡すると、沢井課長は急な進展にかなり驚いていたが、西田が想像していたよりは冷静な態度を取った。実際のところ、もうちょっと喜んでくれてもいいと思ったぐらいだった。


 2時間とちょっとで北見に到着し、北見方面本部の建物に西田と満島は入っていった。しかし、いつもの活気はなく、かなり静謐な雰囲気に包まれていた。先日までの空気と違ったことで、異次元の世界に迷い込んだかのような錯覚を西田は感じたが、よく考えれば連続女性殺人の捜査の為、相当数の刑事が北見署にある特別捜査本部に出払っているせいだと気付いた。

 廊下で先日まで一緒に捜査していた宝来という刑事と出くわした。方面本部付で捜査本部から送られてくる情報を整理するため残っているらしい。捜査状況を尋ねると、腐乱死体の方も強姦の痕はあったが、特定できていないとのこと。失踪届が出てない可能性が高いようだ。思ったより長引くことも考慮しているようで、しばらくは方面本部からの協力を期待するのはやめた方がいいと西田は悟った。


 鑑識課の部屋に入り、鑑識課主任であり、米田殺害事件の担当鑑識官の柴田に、増田から借りてきたツルハシを渡す。柴田は、二人の話を聞きながら、ツルハシより二人の顔をジロジロ見ていたが、話を聞き終えるや、

「本当かねえ、これが凶器と同じツルハシなの?」

と、お得意の無意識な憎まれ口を叩いたが、持ってきた模型の傷口の部分とツルハシと合わせる。

「ほう。こいつは驚いた。ピッタリ一致してるよ! 今すぐ確定というわけにはいかないが、こりゃ間違いないだろうなあ。お手柄だねえ。おめでとう」

余り本心から褒めているようには思えない口ぶりだが、真意は違うはずだ。西田と満島は文字通りの意味に受け取っておくことにした。

「それで、この後の展開はどうなるんだ? 死んだ篠田とか言う男が米田を殺害した確率がグンとアップしただろうけど、お決まりの書類送検という形?」

「柴田さん、凶器がおそらくこのツルハシと同じモノだということが証明できただけで、篠田が実際に殺害現場に行ったかもはっきりしてない。俺は行ったと考えてますがね……。客観的には、そこはまだせいぜい『行っただろう』という段階ですから、そこをなんとかして証明しないと厳しいんじゃないかと思いますよ。極端な話、誰かにツルハシを又貸しして、そいつが米田を殺したって論理も、ありえなくもないですから。情況証拠は確実に篠田の犯行を示しつつありますが……」

「西田の言うこともわかるが、あくまでも机上の可能性の話で、普通なら借りた篠田の犯行だよな、実際問題。ここまで来たら、後はなんとかなるんじゃないの? 結局は不起訴って結末になるのはわかりきってるけど」

「相手が故人であっても、不起訴でもそこは慎重にやります」

「そいつは刑事の鑑ってやつだ。取り敢えず、これ預かっておくから。報告書は数日掛かるかもしれない。わかってると思うが、ただいま女子高生殺しでこちらも手一杯」

柴田はぶっきらぼうにそう言うと、ツルハシと模型を持って奥に消えた。


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