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迷走49 (斜里・知床での聴取)

ドラマ「HERO」見てたら、丁度被疑者死亡の不起訴の件が出てきてびっくりしましたね。殺人事件クラスの場合には、警察が形式的に書類送検した上で、検察が不起訴というのが多いパターンのようです。あくまでテクニカルなもので、起訴しないかするかは、「検察の裁量権限」というのが理由のようですが、警察側の「意地」も関係しているような気がします

 8月7日、西田は自宅から遠軽署に午前5時には到着して、北見へ出発する準備を整えていた。単身世帯であり、また警察で新聞が見られることもあって、遠軽の自宅では新聞を取っていない西田だったが、朝一で配達されてきた、道内有力紙の「北海道日報」の朝刊に軽く目を通すと、昨日の連続強姦殺人が一面だった。テレビニュースではかなり夕方から騒ぎになっていたが、時間的に夕刊には間に合わなかったので、朝刊のトップニュースになっていた。今頃向坂や北見方面本部の他の連中も、そろそろ動き出し始める時間だろうと、西田は思いやった。こういう事件では、世間的にも警察的にも短期間の解決を要求されるので、所轄含めかなり忙しい捜査になるはずだ。娘を持つ身としても、仲間の奮闘を願わずにいられなかった。


 そしてコンビニのパンで朝食を済ませ、午前6時前には北見へ向かった。1時間ちょっとで、方面本部庁舎前で満島を拾うと、斜里の観光地・ウトロの先にある、伊坂組の橋脚工事の現場に向かった。道中、満島に聞く限り、やはり他の捜査員達はかなり殺気立っているらしく、自分たちの「ヤマ」とは若干雰囲気が違うようだった。勿論、同じ殺人事件ではあるが、力の入れようが変わってくることは否定できなかった。そして居残りの北村は、西田とは逆に今頃遠軽署に着いているはずだろう。


 観光シーズンだけにある程度渋滞していることは覚悟していたが、時間帯もあってか、道路はそれほど混んでは居なかった。やはりお盆前の月曜ということも影響していたようだ。透明度の高いオホーツク海沿い国道を進み、知床観光の拠点である、ホテルなどが集中するウトロ地区を更に進むと、目的の現場が見えてきた。谷を渡る橋脚の架替工事のようだった。建設車両と作業員のモノと思われる乗用車が数台駐車されていた、プレハブの建設事務所の前にある駐車場に車を駐め、ガラガラとアルミの戸を先行した満島が開けた。すると、

「あれ、北見の刑事さん?」

中から中年の男性が二人に声を掛けてきた。昨日の伊坂組への協力要請の連絡が、きちんとこちらの現場にも来ていたのか、こちらから名乗る必要もなかったようだ。

「はい、どうも忙しいとこスミマセン」

西田はそう言いながら軽く会釈し警察手帳を見せた。満島も後ろから遠慮がちに提示した。そして各々名前を名乗り、軽く自己紹介した。


「思ったより早かったですね。昼ごろかと思ってたんですが。男性は名刺を出しながら、腕時計を確認していた。名刺には、「現場代理人 近藤 隆義」と記されていた。

「現場代理人……」

西田が戸惑ったように呟くと、

「ああ、正式名が現場代理人って言うだけで、一般的には現場監督って奴ですよ」

と、近藤はよくあることらしく、淡々と言った。

「なるほど。警察でも色々一般に呼ばれてるのとは違う呼称がありますが、あれと同じですか」

「ええ、そういうことです。まあ、お疲れでしょうから、取り敢えず座ってください」

近藤は西田達にそう言うと、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して二人の前に置いた。自分の分はお茶のペットボトルだった。

「大体の話は昨日、うちの三田から聞いてます。最大限協力するように言われてますから。それにしても死んだ篠田が何かやったんですか? 北川の件でも警察の捜索入ったって先日聞きましたし。その北川も倒れたらしいですね、警察で? 何かこっちに居る間に、うちの会社自体が警察に疑われてるみたいで……」

「会社全体と言うわけじゃないですよ。まあ詳しいことは言えませんが色々ありまして……。それから三田副社長には先日も世話になりました」

西田は缶コーヒーを開け一口すすった。

「しかし驚きましたよ。あの日の話が警察さんにとって何か重要な話になってるとは。亡くなった専務が何か生前に事件に関わってたんですか? 副社長も具体的にはよくはわかってないみたいでしたが、刑事さんたちの食い付きから見て、そうに違いないと言ってましたよ」

「具体的には喋れませんが、お察しの通りです」

西田は缶コーヒーをテーブルに置くと、メモ帳を取り出した。

「それでですね、我々が近藤さんにお聞きしたいのは、92年の8月10日から12日の3日間に掛けての篠田専務の行動と様子についてなんですよ」

「ええ、聞いてます。さすがに日にちこそ憶えてませんでしたが、三田から連絡を受けて、その日のことはこちらもよく印象に残ってますから、ちょっとびっくりしたんです」

「ほう、印象に」

「というのもですね、工期に遅れが出ていたから専務が見にやって来たんですが、こちらもこっぴどく怒られましてね。当日の午前中から酷い目にあったんですよ。ところが昼前でしたか、うちの社長、社長と言っても先代ですが、社長から現場に電話がかかってきまして、それから専務が大慌てで現場から出て行ったので」

「社長から電話ですか。具体的な内容はわかりますか?」

満島が満を持して聞く。西田も初出の証言だったので、気になる内容だった。

「さすがにわかりません。専務は私を叱責した後、工事の現場を見に事務所を出て行ったんですが、その後に社長から『専務がそっちに行っていると思うが、急いで呼んで来い」という電話が掛かってきまして、私は専務を呼びに行ったわけです。そして専務が電話を受けたわけですが……」

そこまで言うと、近藤は自分のペットボトルのお茶に口をつけた。


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