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迷走41

「話を戻す。篠田の車の件だが、篠田は本当に自分の車で来なかったのか?」

向坂は最初から気になっていたことを口にした。、

「しつこいな……。あいつが普段会社に乗ってくる車は、赤のアウディだったかの外車だったような記憶があるけど、その時は会社の黒塗りの、おそらくクラウン? だったと記憶してる。それが何か問題あるのか?」

と興味ありげに聞き直す。

「細かい説明は捜査上無理だが、かなり重要な証言になるから確認してる」

「そうか。まあ聞くだけ野暮だな。信じられないなら、さっきも言ったが当時一緒に居た連中にも聞けばいい。俺が嘘を言う必要もない」

富岡の口調は自信ありげだった。嘘を付いているというふてぶてしさではなく、調べるなら調べてみろという態度に見えた。

「ところで、役員用の車で来たということだが、ということは、運転していた別の人間が居たのか?」

西田が疑問を挟んだ。

「いや、基本的に俺が居た当時のことだが、運転手みたいのは、社長が乗る時に、男の秘書が運転手代わりについて運転するだけ。ただの役員は、同乗者でも居ない限りは自分で運転だよ。その時も篠田が自分で運転してきたはずだ」

「それで、篠田は工事現場にあった、誰かのジープを借りて自分で運転して出て行ったんだな?」

「向坂さんよ、ああ、言った通りだ。なんかわからんが、会社のクラウンじゃいけないところに出かけたのかもな。作業着に着替えたのを考えても」

富岡の指摘は刑事達の考えるところでもあった。そしてあの常紋トンネル付近の砂利道と山道の様子が西田の脳裏に浮かんだ。警察車両がそうだったように、セダンタイプの車でも普通に通れることは通れるが、砂利を跳ねたりすることを考えると、やはりクラウンのような高級車、しかも会社の車だったとすれば尚更乗り付けるのに躊躇する道だ。北川は自分のそこそこの高級車であそこまで行っていたが、彼は自分の車だったという点がやはり違う。


「作業着に着替えて出て行ったという話だが、何時頃だったかわかるか?」

「昼飯前だったことは確かだ。かと言って工事が始まったばかりでもない。11時ぐらいだったんじゃないか、自信はないけど」

「ところで、突然視察しに来た篠田が他の場所に行った理由はわかるか?」

「それは全く知らんな。言われてみれば不思議な行動だが、こっちはいちいち気にしてなかったよ、当時は」

「帰ってきた時、作業着に汚れみたいのはあったか?」

「いやそこまでちゃんと見てなかったな。疲れた感じはあったけど」

続けざまの満島の的確な質問にも、富岡は淀みなく回答した。最初は嫌々な感じを露骨に表に出していたが、案外刑事との会話を楽しんでいるようにも見えた。

「他に質問はないんか、何でも答えてやるぞ」

富岡は質問を催促する余裕さえ見せてきた。

「時計が失くなったことに気付いてから、2日程湧別の現場に通ってきた篠田だが、その時はどういう様子だったか、もっと詳しく教えてくれ」

西田がそれを受けて、更に話を聞いた。

「さっきも話したけど、まあかなり昂っていた感じだったな。高い時計だったのと、会社から貰った? らしい時計だったし、結果的に見れば北川の時計だったから失くすわけにいかなかったんだろうが、部下の持ち物検査するほどってのは、幾ら性格が悪いたって、普通じゃないよありゃ」

「それについてはわかった。スマンが他のことを聞きたい。例えば服装とか、車とか……」

「ああ、そういうことね。確かに言われてみれば、次の日からは作業服みたいので来てたな。車もクラウンじゃなく、会社が持ってる白のランクル(ランドクルーザー)だったような気がする。西田さん、あんた鋭いね」

「そうか、なるほど……」

西田は富岡の言葉にかなり満足した表情を浮かべた。勿論社交辞令の褒め言葉ではなく、証言の中身についてだったが。


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