迷走39
旭川西署での担当刑事からの聴取は、さすが同じ刑事の間で行われただけに、一切無駄なく進み、思ったより早く終えることが出来た。一方で、事件に直接結びつくような話は、翌日の富岡への直接聴取に期待せざるを得ない程度の成果しかなかった。その後は刑事同士の井戸端会議のようノリの会話に終始したが、さすがに都市部の警察だけに、忙しい様子が見て取れたので、無駄な時間に付き合わせるわけにもいかず、早めの退散を西田達は選択した。遅い昼食を旭川ラーメンの老舗で取ると、満島の案内で旭川市内を軽く回った。本日中に拘置所の富岡に聴取するのは無理なため、やるべき仕事は既に終わったこともあった。観光気分というのは不謹慎だったが、休日返上で捜査に当たってきた刑事達にとってみれば、束の間の休息だったことは否定できない。
夕方になると、本日の名寄の宿泊先に向かうため、ようやく旭川市内を後にした。大雪連峰を右手後方に見ながら、3人の車は一路北へ進んだ。
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名寄市は旭川から70キロ程北にある、旭川同様盆地地形の道北の中核市である。地形の影響で、夏暑く、冬寒いという典型的な盆地気候である。自衛隊の駐屯地もあり、そういう点でもミニ旭川と言えるかもしれない。産業は基本的に農業であり、もち米の生産で有名である。
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「それにしても拘置所はなんでわざわざ名寄に作ったんだか。以前旭川に居た時にもよく思ったもんだが……」
向坂の言うことももっともだった。確かに北海道第二の都市に拘置所がなく、70キロも離れた場所に拘置所があるというのは、理解できない設定だ。普段「代用監獄」を批判する弁護士ですら、旭川市内の所轄に勾留されている方が、接見には便利だと内心思っているかもしれない。西田も旭川勤務の経験はないが、先輩の刑事から、そういう話は聞いていただけに、向坂の指摘には同意せざるを得なかった。
そうこう話している間に三浦綾子の小説「塩狩峠」で有名な、国道40号の塩狩峠を越え、旭川から2時間程で名寄市内に入った。夏真っ盛りとは言え、7時過ぎになるとそろそろ夜の帳が下りる時期になってきていた。気温も盆地らしく、ウインドウを開けていると、昼間の暑さからは考えられない、半袖だと少々肌寒く感じる程にまで低下していた。程なく市内中心部の予約していたビジネスホテルにチェックインした。そしてホテルから捜査本部に聴取の報告書をファックスで送り、当日の業務を終えた。その後は名寄市内の繁華街に繰り出し、夕食を済ませると、3人は明日の職務に支障をきたさない程度に飲み、親睦を深めた。




