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迷走36

「向坂、おまえには旭川西署と名寄の富岡のところに事情聴取に行ってもらいたい。やはりこれについては、向坂が適任というか、資格があると思う。どうだ?」

倉野は向坂を富岡の聴取に指名したが、至って順当な考えだった。ここで北見方面本部の刑事を指名していたら、時計の件からここまで引き出した「功労者」を愚弄することになる。

「わかりました。全精力を上げて、富岡を聴取してきます」

向坂はきっぱりと言い切った。倉野はその後特に付け加えることはなかったが、何も言わなかったということは、当然相棒の竹下が一緒に行くことになるだろう。西田も竹下にとって良かったと感じていた。しかし、直後それは裏切られることになった。

「そうそう、向坂には今回は満島をサポートとして付けることにする。満島は北見の前は旭川西署に居たので、話を聞くのも色々と円滑にいくと思う。それが理由だ。そういうわけで、スマンが竹下は今回はこっちに残ってくれ。満島はよろしく頼む」

と倉野の口から予想外の発言が出てきたからだ。更に、

「そうだ、折角だから西田にも行ってもらうかな。今回のネタ発掘には西田も関わってたからな。3人体制は異例だが、今回は重要だからいいだろ。それで問題ないですね、本部長?」

倉野のお伺いに大友は黙って頷いた。


 一連の流れを見聞きしていた西田は、自分のことよりもまず近くにいた竹下の様子を窺ってしまった。竹下は特に不満そうな顔はしていなかったが、内心忸怩たる思いがあるのではないかと西田は竹下を思いやった。捜査本部の方針に楯突いた竹下への意趣返しかとも訝った(いぶかった)が、大友と倉野がそこまで狭量な人物だとは思えない。単純に満島の起用は、倉野が言った通りなのだろうと解釈することにした。


「さっき確認したところ、富岡の公判が明日予定されているようだから、最速で明日8月4日の午後に旭川西署、明後日に名寄という日程が良いかと思う。会議の前に向坂達から聞いた時点で、西署とは簡単な打ち合わせはしておいたが、後でもう一度きちんと詰めておくから、その後また3人には連絡させてもらう。というわけで急で申し訳ないがよろしく頼む」

倉野はそう短く言うと、次の議題である北川の病状の説明と聴取続行可能性の話題に移った。


 

 捜査会議終了後、西田は竹下に、

「スマンな」

と一声掛けたが、竹下は、

「係長が謝るようなことはないですし、自分も別になんとも思ってませんよ。倉野さんの言うことも理屈はあってますから」

と特に気にしていない口ぶりだった。

「それならいいんだが……」

西田はそれ以上言及するのもかえって悪いかと考え、この話はもうやめようと決めた。


 

 その後、向坂と西田は満島と軽く打ち合わせをすることにした。満島は当初より捜査本部に居たが、向坂と西田は勿論、遠軽署のメンバーとも直接絡むことはなかったので、お互い顔を知っている程度の関係だったからだ。

 満島は西田より若干若い35歳で、昨年まで旭川西署の捜査一課に居た、富良野出身の刑事だった。刑事キャリアは8年程度で高卒採用のようだったが、なかなか理知的な考えの持ち主のように西田には思えた。ひとまず、性格もさっぱりしたタイプで、付き合いが短くても、コミュニケーションが難しいタイプではないことは確実だった。


 最終的に倉野と西署、名寄拘置所の打ち合わせで、当初の予定通り、明日午後に西署、明後日に名寄拘置所と立ち寄ることが決まった。


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