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迷走34 (時計紛失による、3年後の喜多川の行動への影響説)

「向坂さん、時計よく見てましたね」

「本当に偶然。北川が倒れた時に、預かってた持ち物を家族に引き渡さなきゃならないと思って、確認しておいたんだ。その時に時計を見つけて気になっただけの話だ」

伊坂組の駐車場で車に乗り込むや否や、二人はすぐに「捜査会議」に入った。西田はエンジンを掛けすぐに車を出す。


「北川が実質完璧に近いアリバイがあったにも関わらず、何故あんだけ必死に米田の遺体を探していたのか。そこがどうにもはっきりしなかったが、この取り違えた時計の紛失がキーになっている可能性が出てきたな。失くした時期も、三田の話が本当なら、米田のおそらく行方不明になり直後殺害されたであろう8月10日の可能性が高い。単なる偶然とは思えない」

西田はそれを受けて、

「私が考えるところでは、3年前の92年8月10日、米田を殺害したのは篠田ではないかと。そして篠田はその際に時計を失くした可能性を考え、焦って探したが発見できなかった。おそらく米田が埋められたところも掘り返して探したかもしれない。そして北川は時計が失くなったこと自体に怒ったのではなく、篠田から米田殺害の件に時計紛失が関係している可能性を打ち明けられたことに怒ったと。つまり殺害現場のどこかに、篠田がしていた北川のネーム入りの時計が落ちているか埋まっている可能性があった。そうなると万が一遺体発見と時計の発見がほぼ同時に起こると、北川が一番に疑われる可能性がある。勿論米田の殺害が発覚する可能性は、それほど高いとは思っていなかったので、それほど怒り狂いはしなかった。事実、米田の殺害はこれまで知られることはなかった。ただ、そこに今回の遺骨採集騒動が起きた。北川としては、時計の発見と米田の殺害発覚が同時に起こることを避ける必要があったので、篠田から聞いていた、いや、もしかしたら生前の篠田と一緒に確認していた米田の遺棄現場を探しだして、最低限遺体の回収を図っていた。もしかしたら、時計の再捜索も兼ねていたと。どうでしょう?」

と自分の考えを述べた。

「俺も全く同じ考えだ」

「しかし、そうなると問題もありますね。まず北川には確実なアリバイがあった。いざとなればこれを主張できる。米田の殺害時期はある程度曖昧ですが、北川がアメリカから帰ってくるまで生きていたというのは無理がありますから。時計が同時に遺体周りから出てきたとしても、これは絶対的な切り札です。今回の取調べでもこれを結局使っています」

「北川のアリバイは実際かなり強力で、その意味は北川もわかっていただろう。時計は盗られたとでも言って誤魔化す方法もあった。ただ、北川にとって問題なのは、おそらく佐田の失踪についても、篠田含め関わっている可能性があったということだ。アリバイや時計の紛失含め、周辺を警察に探られると、『痛い』腹を探られることにもなる。これは是非とも避けたいもんじゃないか?」

「なるほど。心理的に、やっかいなことは予防しておきたいという部分は理解できますね」

「時計の問題については、時計が思わぬところから出てきて、北川にとっての当初の心配はなくなった。俺と竹下が喜多川と最初に遭遇した時に、米田の殺害が表沙汰になった割に妙に余裕があったのは、そういう状況がさせたのかもしれない。あの状況では、北川と結びつく情報はなかったからな。しかし、時計から北川に直接振りかかる危機は回避できたが、米田の殺害は西田達遠軽署によって、米田の遺体発見と共に暴かれてしまった事実は残った。今回北川がアリバイの存在を最初から主張しなかったのは、それを主張すると、今度は事件に関係していない北川が、何故あの場所を知っていたのかというところを、俺達が当然突っ込むだろうからと考えると、これまた筋が通る。そうなると篠田から聞いていたであろうことをゲロしないといけなくなる可能性があった。そしてそれは場合によっては佐田の失踪の件まで及ぶかもしれない。色々都合が悪くなる。切り札を切っても、次のやっかいな問題が顔を出すということだ。それでも殺人犯として扱われるよりはマシという弁護士のアドバイスで、やっと警察にその件を訴えた。時計の件で富岡の起訴を止めさせたのも、事件化すると、事情聴取も本格的になるし、色々やっかいだと思ったんじゃないか?」

「確かに時計の件については、そういう推測も成り立ちますね。それにしても、アドバイスしたであろう松田弁護士は何処まで知っているんでしょうね?」

「それはわからない。何かマズイことを北川が抱えていることは、おそらく知っているんじゃないかと思うが」

西田はその言葉に頷きながら、丁度信号が赤になったので車を止め、ギアをニュートラルに入れた。そして、

「ところで、篠田が米田を殺害したとなると、その動機ですね。二人の接点が今は全く見えない。場所的には、何か佐田の失踪と関わっているのかもしれないが、それは8年前ですからね。米田が殺されたのは3年前。タイムラグがある」

と話を変えた。

「そこだ。俺もそこを考えている。そこだけは北川の関与が疑われる前からの、『何故米田が殺されたのか』という大きな謎だな……。しかし、以前からの見立て通り、米田が事件に偶然巻き込まれたとするなら、佐田の失踪事件と篠田の関係、そして米田の失踪した場所、何か繋がっていそうな臭いはプンプンする」

向坂は助手席の窓から吹き込む風に顔を向けながら話した。

「話のついでと言ったらなんですけど、佐田の失踪には今日の三田とか、他の連中は関わってたと思いますか?」

西田は以前より疑問に思っていたことを、話の流れで口にすると、

「少なくとも俺が捜査に加わっていた時には、それらしい話は出てこなかった。だが、捜査の強制打ち切り後に、今度の北川と篠田じゃないが、そういう関与の疑惑が出てきたわけだから、この時点で伊坂組の他の人間が関わっていないか、断定は出来ないだろう。ただ、三田については、そういう臭いはしないな。あれは犯罪を隠すための饒舌さという感じはしない」

向坂はそう言って、視線をフロントガラスの向こうに戻した。



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