表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/827

迷走31 (篠田による時計紛失)

 翌日の8月3日、北見方面本部で覆面パトカーを借りた二人は、午前中だけの伊坂組への非公認捜査活動に入った。過去、篠田の部下だった社員や同僚だった役員などに話を聞いた。社長の伊坂については、相変わらず社に居なかったので聴取できなかった。ただ、先代の大吉が2年前の1993年12月に死んでいて、今の2代目社長である息子の政光が東京の大手建設会社を辞めて社長になったのが93年5月ということもあり、基本的に事件とは関係なさそうということで、これまで同様特に事情聴取を無理にする必要もないという理由もあった。


 役員では、北川、篠田と同じく専務として過去に同僚で、今は副社長の三田が、北川逮捕時の捜索の時と同様応対した。まず向坂は北川が警察で倒れた件について、三田に説明をし、同時に謝罪した。三田も当然状況は知っていたようではあるが、特に警察に文句を言うことはなかった。というより、いちいち警察との関係を悪くするメリットもないと考えていたのかもしれない。篠田の人柄については、三田は悪くは言わなかったが、出世については、やはりよく理由はわからないと言葉を濁した。ただ、何か隠しているというより、本当にわからないだけだろうという雰囲気を、向坂も西田も感じ取ってはいた。


 それなりの時間を費やして篠田について聞き込みをしたが、社員同様三田からも、今まで以上の話を聞くことは出来ず、諦めかけてそろそろ方面本部に戻ろうかと思った時、向坂の目に三田の腕時計が留まった。北川の時計と同じものに見えた。

「あれ、その時計は……」

「刑事さん、何か?」

「その時計って、伊坂組の記念贈答品の時計ですか?」

「ええ、その通りです……。あれ、刑事さん、どうしてうちの会社で配ったものってわかったんですか!?」

三田は超能力者でも見るように、向坂の顔をまじまじと見つめた。

「ああ、驚くのもわかりますよ。ただ、それがわかったのは種も仕掛けもなく、北川さんの時計の裏に、「伊坂組40周年記念」ってのが彫ってあったからですよ。で、それと同じのを三田さんがしてたのが見えた。そういうことです」

「ああ、そういうことでしたか。それならそうと言ってもらわないと」

三田は安心したかのように一息つくと、自分から外して見せた。西田は当然初めて見る時計だ。三田から時計を受け取って、食い入るように見ていた西田が、

「ロイヤル・フェリペですか。これ高いんですよね?」

と聞くと、

「そうですねえ。私も配られたものをもらっただけなんで、幾らしたかは実際に聞いたわけではないんですが、時計に詳しい人に見てもらったら、おそらく100万はしたんじゃないかって話でした。まあ特にあの頃はバブル末期だったので、もっとしたかもしれないですけどね」

と三田は答えた。

「100万ですか……。それを社員さんに配ったんですか?」

西田は驚きを口にした。

「いや、一般社員にも別の記念品を配ったような記憶がありますが、ただの置き時計みたいなもんだったはずです。これと同じのをもらったのは、当時の部長クラス以上の社員と役員でしたかね……。それにしてもバブルってこともありましたが、やっぱり先代の大吉社長は創業者なんで、そういう豪快なところがありましたよ。戦後の1950年に身一つで起業して、ここまでにしたんですから。当時は一人親方みたいなもんで、国鉄の保線なんかから始めて、今じゃそういう大して金にならないことはやめて、公共事業や大規模建設から住宅建設までやっちゃってるわけでね。2年前の12月に亡くなりましたが、すごいバイタリティのある人でした。ワンマンでもありましたが……。その年の春から継いだ息子の政光社長も、そのうち貫禄が付いてくれるといいんですがね……」

三田は含みのある言い方をして懐古した。

「それで、北川さんもその時計をもらったというわけですね?」

向坂は横道にそれた話を修正するために、確認した。

「そうですね。丁度北川と篠田の二人が部長から専務に就任した年の5月になりますか、この時計が配られたのは。90年の5月が丁度伊坂組の40周年だったので」

三田が答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ