第56話 ララ視点
あたしたちの薬屋は、とてもじゃないが営業できるような状況ではなかった。
……店を開けたままでは、正直言って赤字にしかならない。
赤字どころの話ではなかったが。
あたしたちはすっかり汚れてしまった部屋でお互い顔を見合わせる。
「ねぇ、ララ……」
深刻そうな声で妹のリフェアがあたしの名前を呼んだ。
彼女の表情に、あたしはリフェアの言いたいことはなんとなく理解出来ていた。
「どうしたのよ?」
「も、もう無理……このままだとあたしたち、死んじゃう……」
「……そ、そうね」
リフェアの言う通りだった。
あたしたちはロクに収入を得られず、残っていたお金もなくなってしまった。
この状況では、もはや生活するのは無理だろう。
そして、あたしたちには他にお金を稼ぐ手段が一切ない。
……魔物を狩る冒険者のような生活が出来るはずもなく、他に何かめぼしい稼ぎ口があるわけでもない。
他にも……体を使って稼ぐ方法もあるのだろうが……とてもじゃないが、そんなことは絶対に嫌だった。
となれば、取れる手段は限られている。
「ね、ねえ……ルーネに戻ってきてもらおうよ。……た、たぶん、この惨状になったのってルーネがいなくなったからなんだし」
くいくいとリフェアが服を掴んでくる。
……やっぱり、それしかないよね。
戻ってきてもらえるかどうかは分からないけど、今のあたしたちに出来ることってこれくらいしかない。
「……でも、正直いって戻ってきてくれるかどうか分からないわよ? だって、あたしたちって……今のこんな格好になるようなことをルーネにしてきたのよ?」
……ルーネが家を出てから今に至るまでに、自分たちが行ってきたことについて理解した。
現状理解したのはこうだ。
……あたしたちは、考えていた以上にポーション作りの才能がないということ。
そして、同時に……ルーネがこれまで一人でこの家を支え続けてくれていたこと。
少なくとも、幼い頃はルーネよりも才能があったはずなんだけどなぁ。ルーネとポーションの飲み比べをしたときは、いつもルーネの質が低いなと思っていた。
でも、今は違う。
……努力し続けたあの子は、何もしなかったあたしたちを遥かに超えていってしまった。
……母の言葉が今なら分かる。
大した努力もせず、その時の気分だけでポーションを作っていたあたしたちには、ルーネの足元にも及ばないということ。
今でも時々、ルーネに並ぶほどのポーションが作れることはあるけど、それはたまたまなのよね。
世間でも、運良く能力以上のポーションが作れる人はいるらしいわ。
「そ、そうだけど……あ、謝ってどうにかならない……?」
リフェアもたぶん、どうにもならないと思っているんだろうけど……それでもすがるようにそう言った。
「ならないと思うけど、でもどっちにしろそれ以外の手段はないわね。……公爵様の御屋敷に行ってみましょうか」
「……うん」
こくりとリフェアは頷いた。……まったく元気がない。
せめて姉として……リフェアの責任くらいはとる必要があるわよね。
リフェアは人に流されやすい子で、彼女をこっち側に引き込んだのはあたしの責任だ。
「……服、どうしよう」
公爵様に会いに行くわけではないんだけど、それでもこんな服装で行くのはさすがに失礼ではないだろうか?
で、でもまともに洗濯することもできないため、これ以上まともな服を持っていない。
八方ふさがりだった。
「ら、ララ……なんとか洗濯とかできない……?」
「出来ないって言っているでしょ? だから、もう……このまま行くしかないわ!」
「で、でもこんな格好で外なんて歩きたくない……」
汚れで濁った色をしている服をつかみ、リフェアが顔を顰める。
ちょっと持ち上げないでよ! 臭いがあるから!
リフェアの持ち上げた服に、あたしは鼻をつまんで対応する。
「し、仕方ないでしょ……! こ、これがあたしたちの……今の精一杯なのよ……。それに、今更取り繕う必要もないでしょう?」
「そ、そうだね……」
着飾る余裕なんてない。
あたしたちは、今の服のまま外へと出た。
近くを通っていった人がぎょっとした目を向けてきて、リフェアが落ち込んだ様子で顔を落とす。
あたしはそんなリフェアを守るように、前を歩いていった。
新連載になります。↓ 下のリンクから読んでみてください!
宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~どうやら俺は宮廷一の鍛冶師だったようだ。俺を追放した奴らは今さら困り果てているが、もう遅い。俺は隣国で公爵令嬢に溺愛されながらのんびり生きます~
https://book1.adouzi.eu.org/n8836gp/
世界最高の精霊術師 ~双子だからと虐げられていた私は、実は精霊たちに溺愛されていたようです。私を追放してしまった家は……後悔してももう遅いです~
https://book1.adouzi.eu.org/n8840gp/




