第44話
「ルーネ様。やはりお似合いですね」
ニュナが用意してくれたメイド服に袖を通した私は自分の様子を眺めていた。
「そ、そうですかね?」
……正直自分では似合っているのかの判断はつきにくい。ニュナの言葉を信じる他なかった。
普段とは違う格好。おまけに普段はあまり履かないスカートというのもあって、少し違和感がある。
私はニュナとともにアトリエから屋敷へと移動する。
屋敷内はさすがに舞踏会前ということもあって慌ただしかった。
すでに内装などに関してはほとんど準備が終わっている状況だ。
けど、今だって舞踏会参加者たちの出入りが行われている。その対応に、使用人たちは奔走している様子だった。
「それではルーネ様。事前にお伝えしていた通り、厨房から料理を運ぶお手伝いをお願いします」
「分かりました!」
「私は別の場所で仕事の手伝いを行いますので、何かございましたら近くのメイドに聞いてください。そこから私のもとへと連絡が来るようにはしていますから」
「はい。ニュナも頑張ってください」
ぺこり、と私は頭を下げる。
それから私は厨房内へと向かった。
料理長のビントさんを中心に料理人たちが忙しそうに料理を作っていた。
「ルーネ、今日はこっちで手伝いをするって聞いていたけど、失敗しないでよ?」
冗談めかしく笑ってくるビントさん。私は軽く胸を張り、こくりと頷いた。
「もちろんです」
……それから少し待機していると、料理が出来上がっていく。舞踏会開始の時間が着々と迫っているのだろう。
ワゴンへと料理が乗せられていく。
私はそれを掴み、他のメイドと共に舞踏会会場へと向かっていく。
会場にて、他のメイドに引き渡すのが私たちの作業になる。
その途中……廊下を歩いていると、それはもうきらびやかな世界が広がっていた。
いつも以上に廊下の明かりは強くなっていた。見れば、魔石灯と呼ばれる魔力を利用して光を放つ魔道具の数が増えていた。
物理的に光源を確保して、明るくしているのだろう。
さらにいえば、装飾などもされている。それらはあくまで控えめながらも、普段とは違う空気を出すにはもってこいのものだった。
……私はそんな空間を見惚れるようにして歩いていた。
「あれ、舞踏会とかって初めてなんだったっけ?」
一緒に歩いていたメイドが首を傾げてくる。
「はい、そうですね……」
「……たぶん大丈夫だと思うけど、貴族の舞踏会によってはメイドさんも狙われるから気を付けてね?」
「狙われるとは……?」
「男性貴族に色々誘われるってこと」
「……そ、そうなんですね」
そういうこともあるんだ。
でも、確かにメイドから貴族の側室になったという話も聞いたことがある。
私はメイドとともに通路を歩いていき、それから会場の裏口へと着いた。
そこではバルーズ様を含め、使用人たち数名がいた。
私がワゴンを使用人に渡しながらその様子を眺めていた。
……バルーズ様も普段以上に着飾っていた。真剣な眼差しで使用人たちと話をしていた彼の目尻がぴくりとこちらを向いた。
「ルーネか」
「とても似合っていますね、バルーズ様」
「……ニュナから聞いてはいたが本当にメイドの手伝いをしていたんだな」
「いけませんでしたか?」
「いや、こちらとしても人手はあって越したことはないんだが……ほら、せっかくの休日だろ?」
「あくまでこれは趣味みたいなものですからね。それに、一度舞踏会の様子を見てみたいなぁ、と思いまして」
「なるほどな。まあ、まだ始まってはいないが少し見ていくか?」
バルーズ様はそういって僅かに開いていた扉を示した。
……会場は廊下以上に明るかった。
廊下の装飾が控えめだったのは、恐らくこの会場の絢爛さをアピールするためのものだったのだろう。
すでに会場入りしている貴族もそれなりにいて、内部ではメイドたちが飲み物を配るために歩いている。
料理に関しても前菜などがすでにテーブルに並んでいる。近くでメイドが待機していて、貴族たちが食べたいと申したときには皿によそっているようだった。
これからさらに人が増えていくのだろう。
「……このような形だな。舞踏会会場はあの奥になっている。こちらでは談笑と立食を、隣では音楽に合わせてダンスを踊ることになっている」
「……そうなんですね、なるほど」
す、凄い……。
これが貴族の日常なんだ。
でも、みんな動きや雰囲気のすべてから、高貴さがにじみ出ている。生まれも育ちもいいんだっていうのがよく分かる。
それこそお嬢様たちなんて、みんな上品に談笑をしているものだからやっぱり参加して様子を見るという選択肢を選ばなくて良かったと思った。
「ああ、そういえば……ルーネ。もしも見つけたらでいいんだ。この子を発見したら教えてくれないか?」
そういって彼は一枚の似顔絵のようなものを取り出した。
可愛らしい女性がそこには描かれていた。
「……こちらは?」
「伯爵家のアイリーンだ。……俺の知り合いでもあってな。客室から姿を消してしまって今大急ぎで探しているところなんだ」
「分かりました。もしも見つかったら報告しますね」
「ああ、頼むよ」
そういって彼はこちらにその似顔絵を渡してきた。
私はその顔をじっと眺めながら、裏口を後にした。
そして、一度アトリエへと戻った私は――。
「……アイリーン様?」
私の家の前で膝を抱えて眠っていたアイリーン様を発見した。
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