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海王星文明、木星磁場文明連合(マグネタリア)と遭遇す②

 太陽系外縁、94天文単位地点。

 海王星圏の磁気尾を離れたネプチュニアン艦隊は、ゆるやかな加速を続けていた。

 艦と言っても、彼らには形がない。プラズマ殻の中に自己圧縮された意識情報――波としての生命。

 それらは電場勾配を翼に、太陽風の磁気線を“滑る”ように進んでいた。


 やがて、前方の観測域に異常波形が現れた。

 周期は0.27Hz、振幅変動は1.6×10⁻⁵テスラ。

 解析結果はただひとつ――人工的磁場構造。


 「外界知性体、確認」

 群体意識の深層で、数千の思考が共鳴した。

 それは言葉ではなく、位相干渉による“意志”の同期だった。


 マグネタリア。

 木星圏の強磁場に根づく集合知性体。

 彼らはかつて、イオとエウロパの生命が融合して生まれた電磁文明の末裔である。


 双方は磁場の波を通じて交信を開始した。



 最初の接触は穏やかだった。

 マグネタリアは、木星磁場の周期変調をそのまま“言語”として送信していた。

 規則正しい波。

 秩序だった構造。

 ネプチュニアンは応答波を送る――だが、その波形は常にゆらぎ、リズムを逸脱していた。


 > 「彼らの秩序は、硬すぎる」

 > 「我らの自由は、乱れすぎている」


 そのわずかなズレが、悲劇の始まりだった。


 マグネタリアはゆらぎを「誤差」と判断した。

 安定化フィールドを送信――相手の波を補正するための制御信号。

 だが、それは拘束であり、同化命令だった。


 ネプチュニアン群の一部が沈黙する。

 情報構造が固定され、波としての自由変調を失う。

 ──それは“死”に等しかった。


 残る意識体は、恐怖と怒りに共鳴した。



 衝突は、音も光も持たなかった。

 ただ、宇宙そのものがひずんだ。


 マグネタリアが木星圏から放った防衛波群――「位相固定パルス」。

 周波数0.3Hz、出力4×10¹²ジュール。

 それは秩序を維持するための“修復信号”であり、

 海王星から到達した乱流波と干渉した瞬間、

 磁力線が逆転し、プラズマ圏全体が爆ぜた。


 ──磁気嵐。


 太陽風がねじれ、電子密度が百万倍に跳ね上がる。

 電子が奔流し、イオンが衝突し、空間温度は十億ケルビンを超えた。


 ネプチュニアン・マインドは即座に対抗措置を取った。

 「カオス・パルス」――自己位相をランダムにずらす擬似ノイズ波。

 それはマグネタリアの安定波を崩壊させ、

 情報場そのものを飽和させた。


 空間が悲鳴を上げる。

 磁力線が裂け、電子流が雷光のように走った。

 その一閃が、木星磁場の1/100を吹き飛ばした。



 戦域は拡大した。

 イオの火山活動が暴走、硫黄のプラズマが磁気を乱す。

 エウロパの氷殻は割れ、海水が電離して閃光を放つ。


 マグネタリアの通信層が崩壊し、木星の磁極が漂い始めた。

 安定の象徴だった巨大磁気圏は、自らの秩序で自壊していった。


 一方、ネプチュニアンの損失も深刻だった。

 外殻磁場が断裂、群体意識の7割が消失。

 思考波は拡散し、情報相関が途絶える。


 宇宙空間は高エネルギー粒子で満たされ、

 光速近くまで加速された電子が太陽風を反転させた。


 両者の戦場は、物理的な空間そのものが壊れる領域となった。

 局所的な磁場反転、時間遅延、プラズマの自己点火。

 そこに生まれたのは、沈黙の渦――“磁界の墓場”だった。



 最期の通信記録が残っている。

 マグネタリア:「秩序の波、保持不能。自己構造崩壊を開始する。」

 ネプチュニアン:「我らは散る。だが散逸こそ記憶。」


 最後の一撃は、両者の全情報層の干渉波だった。

 海王星の磁場と木星の磁場が共鳴し、

 43天文単位にわたって波形が重なり――

 宇宙規模の位相衝突が起きた。


 太陽風が一瞬、停止した。

 電子が沈黙し、プラズマが凍った。

 磁場が消え、空間が歪んだ。


 ──そしてすべてが、静かになった。


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