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月の民ですが、地球で進化し水星の民と出会う③
二十世紀、科学者は真実に近づいた。
地震計は二つの波を記録した。
一つは穏やかで調和的な共鳴波。
一つは鋭く振幅を増す捕食波。
都市で起こる停電や集団昏睡事件は、この捕食波の直後に頻発していた。 一方で医学者は共存の徒が送る「安定波」に注目し、不整脈患者がそれに触れたとき、心拍が落ち着くことを確認した。
共存の徒のリズムは「心拍同期療法」に似る。外部からの規則的リズムが心臓や神経の動作を安定化させる現象は医学的に確認されており、臨床応用可能と考えられる。
──月の民は、脅威であり資源でもあった。
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現代の月の民は、三つに分かれている。
都市の影に潜み、人間を「歩く発電機」と見る捕食派。
森に残り、人間を「共に歌う存在」と見る共存派。
水辺に棲み、潮流や魚群と響き合う水生派。
満月が昇るたび、彼らは一斉に目覚める。
その光は、捕食と共存の比率を定める。
未来を決めるのは彼らではなく、人類の選択なのだ。




