水星の民ですが、地球人と接触しました③
*地球の民
複数の灰白色の個体が接触し、ケーブルに付着した。
すると導電ゲルの表面から内部構造にかけて、外部電流を吸収する挙動が観測された。
彼らの身体は微弱な電場を発しながら安定していた。
しかし、その直後に事故が起こる。
ケーブル接続部で局所的な渦電流が発生、絶縁不良が重なりアーク放電が発生。
数体の個体が瞬時に高温に曝され、ゲルは崩壊し、金属骨格は残骸となった。
実験担当の技術者Aは、後日こう書き残した。
「彼らは、死んだ。実験系の不具合だ。しかし群全体の記憶に“毒”として刻まれてしまった」
群体記憶に「人類は電流を毒に変えた」という強烈な印象が刻まれてしまった。
その誤解は瞬く間に共有された。
彼らにとって記憶は個体のものではなく「群れ全体の財産」である。ひとつの恐怖は即座に「全員の敵意」へと変わる。
事故以降、ビーコンに返される応答波形には、常に特定の符号列が付与されるようになった。
翻訳案では「毒」「害」と解釈される。
*水星の民
群体合意は更新された――蒼の民は毒を与える存在。
だが群体は即座に適応する。
痛みは学習であり、学習は飢えを強める。
電流吸収の効率は、むしろ増した。
蒼の民はさらに強い電場を放った。
閃光が深海を駆け抜け、水星の民の幾つかは崩れ、痛覚を残して消えた。
だが、我らの応答は単純である。
痛み=欠乏=奪取の強化。
電流をより速く、より深く吸収せよ。
我らは理解する。
――この惑星は、我らにとって飽和の食卓である。




