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水星の民ですが、地球人と接触しました①

 水星の民は、灼熱と極寒が交互に訪れる環境で進化した存在である。


 彼らの「身体」は、水星表層で生成した金属鉱物と揮発性元素が組み合わさった導電性ゲルで構成されている。内部には金属架橋型核酸様分子があり、これが情報の保持と複製を担う。

 代謝は化学反応によるものではなく、外部電流を直接吸収することで成立する。


 知性は単一個体に宿らず、群体的な記憶の循環として保持される。個体が経験した情報は、群れを構成する他の個体へ即座に拡散され、失われることなく群体全体に刻まれる。


 したがって、彼らにとって「死」は情報の欠損ではなく、痛覚としての記録強化に等しい。


*水星の民


 数百周期の後、彼らは太陽風を推進力とする電磁帆を用いて軌道を移動し、地球圏へと到達した。

彼らの観点からは、地球は「蒼い惑星」であり、厚い大気と強大な電磁活動を持つ天体として観測された。


 特に人工衛星の軌道に存在する金属体は、彼らにとって「不自然な導電体」として強い関心を引いた。


 最初の接触は、衛星外殻に残された周期性を持つ導電痕として現れた。

 彼らの意図は単純である――「ここに存在する」という痕跡を残すこと。

 それは声ではなく、痕跡を通じた挨拶であった。


 数週間後、月軌道上から矩形波の規則正しい信号が放たれた。

 これは人類が設置したビーコンからの送信であり、彼らにとっては「外界が律動を持って応答した」初めての体験であった。


 群体合意は瞬時に成立する。

 ――ここには他者が存在する。

 ――交わりが可能である。


 以後の記録に残る波形には、模倣と変調が加わった。

 応答信号は翻訳困難ながら、人類側は「蒼を夢見、蒼に至った。ここに、金属の民あり」と解読した。


*地球の民


 低軌道衛星の外殻に、焼損痕が報告された。

 それは隕石衝突痕や太陽風によるランダムな帯電放電とは異なり、周期性を持つ線条パターンを形成していた。


 調査にあたった技術者Aは、波形解析の結果をこう記録した。

「自然由来の電流痕では説明できない。パターンは整数比で繰り返され、符号列のように見える」


 同時期、インド洋を走る海底ケーブルに断続的な電流損失が記録された。規模は0.2〜0.3%、だが通信品質に大きな乱れを生じさせ、航空管制や金融システムに影響を与えた。

 絶縁不良や塩水浸透では説明不能。ある仮説が立てられる。


 ――未知の導電体が、外部からケーブルのエネルギーを吸収している。


 国際組織は緊急会合を経て、月軌道上に超低周波電磁ビーコンを設置した。

 送信信号は10秒周期の矩形波。人間の「こんにちは」に対応する最小限の挨拶として設計された。


 三週間後、ビーコンは異常に高いS/N比を持つ応答を受信する。

 その波形は、送信側の信号を模倣しつつ、途中に独自の変調を加えていた。


 通信研究者Bは報告書に記す。


「これは単なるノイズではない。入力信号を学習し、変形して返している。応答性知性の存在を示す」


 解析された符号列は、簡素ながら意味を持つものと推測された。翻訳は困難だが、最初の解読案はこうだった。


 ――「蒼を夢見、蒼に至った。ここに、金属の民あり。」


 歓喜と畏怖が交錯した。ついに地球は、太陽系の他文明と会話したのだ。


 だが、やり取りが続くにつれ、不安が大きくなった。

 水星の民が最も関心を示したのは、「地球の電力網」と「地下鉱物資源」だったからだ。

 彼らにとって電流は食料であり、導電鉱物は住処だった。


 「その資源を分けよ」――それが彼らの第一の要求だった。

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