367 【優しい午後1】
「刑事さんたちって、食事はどうしてるんですか?」
ふと気になって、そんな質問を口にしてみた。
隣を歩く刑事さんは、少し驚いたように目を細め、すぐに苦笑を浮かべた。
「めちゃくちゃですよ。食べられるときに食べる、って感じです。下手すると一日まともに食事できないこともあります。大抵は……コンビニ飯ですね」
「えぇ……それは大変ですね」
想像以上の過酷さに、自然と眉が下がる。
その働きぶりに思わず敬意がわいてきて、思いつくままに言葉が出た。
「……あとで、何か差し入れ、持ってきますよ」
そう言った瞬間、刑事さんがふと立ち止まり、こちらを見た。
「もしかして……前におにぎり、差し入れしてくれた方じゃないですか?」
「どうだろう?…… うーん、ちょっわからないですね」
思い返してみたけれど、はっきりと分からず少し照れ笑いしながら答えた。
刑事さんは「そうですか」と軽く笑って、また歩き出す。
私たちはそんな他愛のない会話をしながら、のんびりとスーパーにたどり着いた。
日差しはまだやわらかく、どこか穏やかな午後だった。
「さてさて、何を買うんだっけなぁ」
そう独りごとを呟きながら、謙はポケットからメモを取り出して目を通す。
まいが几帳面な文字で書いた買い物リスト。
それをひとつひとつ確認しながら、スーパーの通路をゆっくりと歩いた。
まずは鮮魚コーナーで切り身の魚を選び、次に精肉売り場で鶏肉と豚肉をカゴに入れる。
野菜売り場では、トマト、ほうれん草、人参、それから玉ねぎ。
「まい、何を作るつもりなんだろうなぁ」
なんて思いながら、手際よく商品を選んでいった。
豆腐に納豆、牛乳、卵。
気がつけば、買い物カゴはもうパンパンだった。
「まい、買いすぎるなって言ってたのに……」
思わず笑いがこぼれる。
でも、なんだか楽しいもんだ。
こうして誰かのために買い物をするのは、ずいぶん久しぶりだったからなぁ〜
ちらりとメモの下の方を見ると、「もし余裕があればお酒も」と書かれていた。
「これ以上は無理かもなぁ……酒類は後でもう一回来るしかないか」
カゴの重さを確かめながら、苦笑いしてつぶやく。
そのままレジへと進み、カゴをレジの所に置いた。
レジの音が心地よく響くなか、謙の心には不思議な満足感が広がっていた。




