365 【まいと香のやさしい連鎖1】
部屋にひとり残った私は、静かな空間に身を置きながら、ふと自分自身の変化を実感していた。
少し前までの私だったら、謙が部屋を出ていったその瞬間から、不安とあせりで心がざわついていたと思う。
このまま戻ってこなかったらどうしよう――そんなネガティブな想像に支配されていた過去の私。
でも今は違う。
不思議なほど心が穏やかで、まるで体の奥にぬくもりが残っているような安心感がある。
それは、好きな人と一緒にいられるという、ただそれだけのことが、どれほど自分にとってかけがえのないものだったかを心から感じているから。
「一緒にいる」
その当たり前のようで、決して当たり前ではなかった現実。
ほんの数日前まで、私はずっと、謙のそばにいたくて、でもどうしたらいいのかわからなくて、不器用な自分を責めていた。
なのに今、こうして同じ空間にいるだけで、笑ったり、会話を交わしたり、朝ごはんを一緒に食べたり――
それだけで胸の奥が、何度も何度も温かく満たされていく。
久しぶりの謙との生活。
前までは何気なく過ぎていた時間のすべてが、今はどこか新鮮で、ひとつひとつの仕草や言葉にまで意味を感じられる。
昨夜、謙が見せた姿。1人で立っている事も出来ないくらいに….ボロボロで心も身体も
傷だらけだった謙。震える肩。そして、私のことだけを案じていた強くて弱い彼の心。
どれだけ無理をして、どれだけ自分を押し殺して頑張ってきたのか……
その痛みがまっすぐに伝わってきて、私は決して目をそらせなかった。
謙は、私のために、あそこまでになっても立ち続けてくれていた。
その事実は、これから先、どんなに時が経っても絶対に謙の涙、忘れない。
心に焼きついて、私の中にずっと残っていく。
だから、私は決めた。
もう、1人で抱え込ませたりしない。
どんなことが起きても、今度は私が謙の支えになる。
彼が傷ついたら、私が何度でも抱きしめて、癒す。
彼がつまずいたら、何度でも手を差し伸べる。
今までの私は、気を使いすぎて、ただ側にいるだけで精一杯だった。
でも今の私は違う。
ありのままの自分で、ちゃんと隣に立って、謙を愛したい。
本当の意味で、2人で支え合って、生きていきたい。
だから……
お姉ちゃん、見ていてね。
どうか、私たちを見守っていて。
私はもう迷わない。謙と一緒に、前を向いて歩いていくよ。
あなたが残してくれたこの想い、大切に育てていくから….…




