374 【静かな狂気】
薄暗い部屋の片隅で、男は無造作に携帯電話を手に取ると、静かに番号を押し始めた。
機械的に、だがどこか楽しげに。
コール音が数回鳴り、やがて相手が出る。
「……お前か? 俺だ」
低く押し殺した声。だがその奥に、冷たい笑みがにじんでいた。
「高木といつも一緒にいる奴の番号、教えろ」
『誰のことかわからない』
「帰りに、毎日一緒に帰ってるだろ? あの男と女だよ」
『……』
「いつまで待たせるつもりだ? なあ……早く調べとけよ。わかったらすぐ教えろ」
男はそこでわざと、ゆっくりと息を吸い込んだ。
そして――吐息に混じるように、不気味な笑いを漏らした。
「ククッ……早けりゃ早いほどいいんだよ。祭りが始まるからなぁ……ハァァ、ハァァ……ヒヒヒヒッ」
『お前……何を考えてるんだ』
「さてなあ……どうなるかは、見てからのお楽しみってやつだな。だから、早くしろよ。待ってるからなぁ」
再び、奇妙な笑い声が混じる。
「じゃあな……ハハッ、ヒヒヒヒッ……」
プツッ。
無機質な音と共に電話が切れた。
「高木……」
暗闇の中、ぽつりと呟いたその声は、まるで地の底から這い上がるように重く湿っていた。
男はゆっくりと口元を吊り上げると、壁に貼りつけた写真を爪でなぞるようにして、狂ったように笑い出した。
「ククク……ジワジワとなぁ……お前の周りから、ひとつずつ可愛がってやるよ。優しくな。ふふっ、ふふふふっ……!」
目が血走り、顔は笑っているのにどこか泣いているようでもあり――その異様な表情には、もはや人間らしさの欠片すらなかった。
「お前、どうなるかなぁ……震えるかな、叫ぶかな……」
声が次第に上ずり、吐息が荒くなる。
「祭りだぞ? せっかくの……お前のための祭りだ。楽しまなきゃ損だろぉ? なぁ、高木ぃ〜」
壁に拳を打ちつけながら、男は笑い出す。
その笑いは、喉の奥でからからと乾いた音を立て、次第に壊れていく。
「後悔しても遅いからなぁ……今さら昔のこと、思い出して震えてんじゃねぇだろうなぁ?」
笑いが止まらない。
「今度は俺が……あの代償、たっぷりお前に味合わせてやるんだ……骨の髄までなぁ……ハハッ、ハァァッ……アアッ、ハァハァ、ヒィヒィヒィ……!!」
男は肩を震わせながら笑い続けた。
その声は暗い部屋の静寂を裂き、どこまでも歪んで響いていく。
「高木ぃ〜、高木ぃ〜」
いつも読んで頂きありがとうございます。
渚、体調不良のため、少し、お休みさせて頂います。
突然ですみません。
必ず再開致しますので、それまで待ってて下さい
茅ヶ崎渚




