373 【光と闇の行方3】
その頃、謙とまいは、自宅のリビングに刑事の二人を招き入れていた。
どこか緊張気味だった空気も、まいがキッチンから持ってきた味噌汁の湯気と、おにぎりの香ばしい匂いで、ふんわりと和らいでいく。
「味噌汁と、おにぎりなんですけど……よかったら召し上がってください」
少しだけ照れたような、でもどこか誇らしげな声でまいが差し出すと、二人の刑事はふと顔を見合わせ、自然に笑った。
「いやぁ、前にも奥さんの差し入れ、いただいたことがあるんです。覚えてますよ」
「そうそう。あのとき、マジで美味しかったんですよね。なあ?」
「はい。橘さんが“俺の友達の彼女が作ってくれたんだから、しっかり味わえ”って言ってて……。でもそんなこと言われなくても、ちゃんと味わいたくなる美味しさでしたよ」
まいはその言葉に目をぱちくりさせたあと、ふいに頬を染めた。
彼女の手に握られていたおたまが、ほんの少し揺れた。
「やだぁ……何言ってるんですか……まだ結婚なんてしてませんよぉ~」
声の調子は冗談っぽくはにかんでいたが、その言葉の奥に、ちょっとだけ嬉しそうな照れがにじんでいた。
頬はほんのり桜色に色づき、まいは目を伏せながらも、どこか嬉しそうだった。
俺はそんなまいの様子をそっと見ていた。
嘘をつけない人だ。嬉しいときには、顔がすぐに教えてくれる。
頬の色も、目元の笑い皺も、……
どれもまっすぐに、気持ちを語っていた。
自然と、俺の口元にも笑みが浮かんだ。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
ふわりと漂う味噌汁の香りの中で、心の奥からふいにそんな想いが溢れてきた。
何気ない会話と、笑顔のある食卓。それだけなのに、こんなにも温かい。
そんな静かな幸福の時間が、部屋をゆっくりと満たしていった。




