第82話 魔法付与 2
「えええっ? ちょっ、お兄ちゃん、何か変なの出た!」
「な、何したんだよっ!?」
「あたし知らないもん! 剣振ったらこうなっただけ!」
確かにセナの言う通り、菜園に向かって剣を振っただけだ。
なのに菜園はハリケーンが通った後のようにぐちゃぐちゃになってしまっている。
もし塀がなかったら、隣の家にまで被害が出ていたかもしれない。
「というか、考えられるのは……」
僕はセナの剣を見る。
セナも自分が持つそれを見やって、
「これのせい?」
「だよなぁ」
それから僕たちは同時にミランダさんへと視線を転じた。
「お、おう。まぁ、ちょっと〝飛刃〟っていう特殊効果を付与させてもらったんだ」
「飛刃?」
「ああ。読んで字のごとく、斬撃を衝撃波として前方に飛ばすことを可能にする効果だ」
「それ、結構不便じゃないですか?」
下手をしたら味方を巻き込んでしまいかねない諸刃の剣だ。
「その心配はねぇよ。慣れてくればある程度、コントロールできるようになるはずだからな」
「あ、ほんとだー」
早速セナが試している。
先ほどと同じ速度で剣を振っても、軽い風が起こる程度になっていた。
「……ところでよ、テメェ、冒険者を始めたばかりだって言ってたよな?」
「うん、そだよー」
「剣を扱った経験は?」
「今までなかったー」
「そ、そうか……ちなみに、ギフトは何だ?」
「剣ちんのちょー愛?」
「【剣神の寵愛】だろ」
自分のギフトすらちゃんと言えない妹に僕は呆れるしかない。
「……は?」
◇ ◇ ◇
(おいおい、マジかよ……? 何だ、今の衝撃波は……?)
ミランダは驚愕していた。
彼女がミスリルの剣に付与したのは、〝飛刃〟という特殊効果だ。
これがあれば、敵との間合いを無視した攻撃が可能になるし、複数の敵へ一度にダメージを与えたり、奇襲で敵を怯ませたりと、かなり戦闘の幅が広がることになる。
ただし衝撃波の威力は、剣士自身の能力に比例する。
素人だとせいぜいそよ風を起こす程度の効果しかない。
だが目の前で見せられた衝撃波の威力は、もはや新米の域ではない。
熟練のレベルだ。
しかも見た感じ全力というわけではなく、軽く振ったような印象だった。
それでこの有様なのである。
もし本気を出していれば……?
ミランダは戦慄すら覚える。
「……ところでよ、テメェ、冒険者を始めたばかりだって言ってたよな?」
「うん、そだよー」
「剣を扱った経験は?」
「今までなかったー」
「そ、そうか……ちなみに、ギフトは何だ?」
「剣ちんのちょー愛?」
「【剣神の寵愛】だろ」
「……は?」
ミランダは自分の耳を疑った。
だが生憎と聞き間違いなどではない。
(【剣神の寵愛】……だと?)
そんな超レアギフトを持つ少女が、まさかこんなところにいるなど予想できるはずもない。
(ちょ、ちょっと気張り過ぎちまったかもな……。そうと知ってたら、もうちょっと制限したんだけどよ……)
ちなみに彼女の全力の魔法付与によって、ミスリルの剣は国宝級、あるいはそれ以上の一品と化している。
〝飛刃〟以外にも、強力な付与を幾つも施した結果だ。
(とんでもない奴にとんでもない剣を与えちまったな……。下手したらソロで超A級すら倒せるんじゃねぇか?)
今さらながら後悔するミランダだったが、もはや後の祭りである。
(……まぁ、知らなかったことにしよう)
ミランダは開き直ることにしたのだった。
◇ ◇ ◇
「しょーかくしけん……?」
「ええ、昇格試験よ」
冒険者ギルドの受付嬢カナリアは頷いた。
まだピンときていないのか、間抜け面をしている少女へ、丁寧に説明していく。
「今のセナちゃんのランクはDだけど、これまでの実績や実力を考慮して、Cランクへの昇格が可能になったの。ただ、昇格のためには試験を受け、合格してもらう必要があるのよ」
「ふえー」
Eランクからスタートしたセナのランクは、先日のダンジョン攻略への貢献によってDとなっていた。
冒険者を初めてせいぜいまだ二か月の新人としては、これだけでも異例の速さである。
「ちなみに今Cランクに昇格したら、過去に前例がないくらいの超スピード昇格ね」
Cランク冒険者は、ギルドの中核を担う人員たちだった。
そう簡単に昇格できるものではなく、早くても三、四年をかけて到達するのが普通だ。
なお、三年でBランクになったシーファはもちろん、一年でCランクに至ったアニィも記録的な昇格速度ではあった。
「ほえー」
(……本当に大丈夫かしら、この子?)
不安を覚えつつも、カナリアは「何か聞きたいことある?」と促した。
するとセナは「んー」と少し考えてから、
「Dランクのときは試験なんてなかったよーな?」
「Dランクはある程度依頼をこなしていれば誰でもなれるものだから。だけどCランクには相応の実力が求められるのよ。あと、最低限の知識もね」
「ちしきー?」
「ええ、知識よ。……というわけで、試験の前に幾つか講義を受けてもらう必要があるから、よろしくね?」
講義というものが何かセナには分からなかったが、猛烈に嫌な予感を覚えて「うへぇ」という声が漏れた。
その後、彼女の予感が当たったのは言うまでもない。





