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第26話 鍛冶工房を守れ 2

「これは……き、金鉱石ですかーっ? しかもかなり金の含有量が高そうですよーっ? 一体どこで手に入れたんですかー?」

「僕の菜園で栽培したものです」

「さささ、菜園で!? 鉱石まで作れるんですかーっ!?」

「最近できるようになりました」

「ふぇぇぇ……」


 リルカリリアさんは呆けている。


「こ、この大きさなら凄い価値になりますよー……」

「どれくらい売れば借金を返せそうですかね?」


 そう。

 僕はこの金鉱石を売り、そのお金でシーファさんを助けるようと考えたのだ。


「いえいえいえーっ、さすがにそれは難しいですーっ!」

「え? どうしてですか?」


 思いがけず否定され、僕は聞き返した。


「さすがに食料品とはわけが違うですー。少量ならともかく、大量に売ったら間違いなく出所を怪しまれますよー。金が採れるような鉱山は国や領主が管理してますしー、下手をすると盗掘したと疑われてしまうですー」

「そうなんですか……じゃあ、宝石も難しいですよね……」

「宝石もダメですねー」


 そうか……難しいか……。


「ミスリルも……」

「えっ? もしかしてミスリルも採れるんですかー?」

「あ、はい」

「それはありかもしれませんよーっ!」

「え、でも、盗掘かと思われるんじゃ……」

「いえいえー、ミスリルは普通の鉱石とは違うですー。魔力の濃い場所でしか採れなくてですねー、逆に言えば魔力が濃ければー、鉱山でなくてもどこでも手に入るんですよー。それこそ、ダンジョンなどでもー」


 つまりミスリルが採掘できる場所は、必ずしも国や領主が管理しているわけではない、ということだろうか。


「じゃあ、ミスリルなら問題ない……?」

「もちろん希少な金属ですのでー、あまりに多ければ怪しまれますー」

「そうですか……」

「でもでもー、わたくし一つ、いいアイデアを思い付いたですよー」








 そして後日、僕はリルカリリアさんと一緒にシーファさんの家の工房を訪れた。


「お邪魔します」

「こんにちわですー」


 工房に入ると、職人たちがいるにもかかわらず、中はシンと静まり返っていた。

 まるで葬儀のときのような雰囲気である。

 やはり期間内にお金を集めることはできなかったようだ。


 シーファさんの姿もあった。


「ジオ? どうしたの?」

「あ、シーファさん。実はちょっとお父さんに紹介したい方がいまして」

「?」


 僕はシーファさんのお父さんにリルカリリアさんのことを紹介した。


「この人は商人のリルカリリアさん。工房に仕事を依頼したいそうなんです」

「はじめましてー、リルカリリアと申しますですー」


 親父さんは訝しげな顔をした。

 睡眠不足なのか、目の下には大きな隈がある。


「いや、仕事と言われても、うちはもう今日には潰れちまうんだが……」

「いえいえー、実はですねー、依頼主のご厚意でー、前払いでも構わないとのことでしてー」

「本当か……? だが、とても借金を返せるとは……」


 それでも親父さんは詳しい話を聞こうとする。

 藁にも縋りたい思いなのだろう。


「依頼内容はですねー……その前にこちらを見ていただいた方が早いかもしれませんねー」


 そう言ってリルカリリアさんが魔法の袋の中から取り出したのは、僕の菜園で収穫したミスリル鉱石だった。

 それも大量だ。


「なっ……こいつはミスリル鉱石かっ? しかもなんて量だ……っ!」


 ミスリル鉱石は魔力を帯びており、淡く発光している。


「これでですねー、剣と防具一式、二百セットを発注したいんですー」

「に、二百セット!?」


 親父さんは仰天した。


「し、しかし、ミスリルはただでさえ加工が難しい……相当な値段になっちまうが……それに、納品まで時間が……」

「どちらも問題ないですー。一セット当たりー、これくらいのお値段でいかがでしょうかー?」

「っ!? こ、こんなに!?」

「はいですー。その代わり、どれだけ時間がかかっても構いませんのでー、手抜きなしでお願いしますねー」

「そ、それはもちろんだ! 俺はこう見えて【鍛冶技巧】のギフトを持っている! 腕だけなら誰にも負けやしない!」


 親父さんは自信満々に胸を叩いた。


「お願いしますー。ではこれ、代金ですねー」


 リルカリリアさんはそう言って、何でもないように何枚もの白金貨をぽんと出した。


「これは……白金貨……本物だ……」

「もちろん本物ですー」


 確か、白金貨は金貨のうん十倍の価値があり、貴族や大商人ぐらいしか使わないと言われている。

 僕も初めて見た。


「ごくり……」


 親父さんの喉が鳴る。

 恐る恐る手を伸ばしたそのとき、職人の一人が声を上げた。


「お、親方! また騙されたりしないですよね!?」

「依頼主っていったい誰なんですか!」


 リルカリリアさんが「そうでしたー」と頷いて、


「実はですねー、依頼主さんは――」

「邪魔するぜ」


 無遠慮に工房内に入ってきたのは、先日のスキンヘッドだった。

 そして工房内を見回しながら、嗤う。


「金は準備できたんだろうなァ? って、聞くまでもなかったなァ、ハハハッ!」


 するとリルカリリアさんがいつもの笑顔でスキンヘッドに挨拶する。


「どうもですー」

「ああ? 何だ、お前は?」

「わたくしはですねー、商人のリルカリリアと言いましてー、今、こちらと商談をしているところなのですよー」

「ハッ、商人のくせに見る目がねぇな。ここの工房は今日で潰れるんだよ」

「いえいえー、ご心配は要りませんよー」


 リルカリリアさんはそう一蹴すると、先ほどの白金貨を親父さんに渡す。


「い、いいのか?」

「もちろんですー」


 訝しそうな顔をするスキンヘッドへ、親父さんは受け取った白金貨のうち何枚かを見せた。


「うちの借金は金貨500枚。これで足りるな?」

「何だと……?」


 スキンヘッドは信じられないというふうに顔を歪めたのだった。


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