表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/184

第142話 何もしなくていい子だから

「さっきまでと雰囲気が全然違う……」

「第二階層はどうやら森林タイプのようね」


 階段を降りた僕たちを待っていたのは、鬱蒼と木々が生え茂った森の中だった。

 見上げてみると天井らしき岩肌が見えるので、一応ダンジョンの中だと分かるけれど、それがなければどこかの森に迷い込んだようにしか思えない。


「洞窟と違って、全方位に敵が潜んでいる可能性がある」


 確かに狭い洞窟なら、魔物が来る方向も限られているけど、こうした開けていながらも遮蔽物の多いところは、普通の冒険者にとってはなかなか探索するのに厄介な場所だろう。


「ふふっふ、こういうときこそ、わたしのギフト【狩人の嗅覚】の真価が発揮されるのよ」


 アニィが自信満々に胸を張る。


「と、言っている傍から、さっそく魔物らしきものが近づいてきたわ」


 アニィが指をさす方向。

 まさにそこから木々が揺れる音が聞こえてきて、警戒していると、そこに現れたのは、全長一メートルを超す巨大な蜘蛛だった。


 タラントラと呼ばれる蜘蛛の魔物である。


「くもおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

「ぐべっ!」


 突然、アニィが叫んで僕に飛びついてきた。


 そうだった。

 アニィは虫が大の苦手なのだ。


「ほい」

「~~~~ッ!?」

「こここ、こっちくんなああああっ!」


 と、アニィは真っ青な顔で怒鳴りつけるけれど、タラントラはすでにセナの剣で真っ二つにされている。


「大丈夫だよ、アニィちゃん! もう倒したから!」

「ほ、ほんとに……?」


 僕に抱きついたまま、恐る恐る振り返るアニィ。


「あっ、ちょっと待っ――」


 慌てて止めようとしたけれど、遅かった。


「ぎいやあああああああああああああああああああああっ!?」


 断末魔のような悲鳴が轟き、耳がキンとなった。


「見ない方がいいって言おうとしたのに……」

「何でー? やっつけたのにー」

「虫が苦手なのって、グロテスクだからだよ。むしろかえってグロくなっちゃったから……」


 アニィが見てしまったのは、両断された蜘蛛である。

 生きていたときの方がまだマシで、僕だって見たくないくらいだ。


「も、燃やしておきますね」


 サラッサさんが雷撃で焼き尽くしてくれた。


「ううう……」


 けれどその後も、今のがトラウマになってしまったのか、アニィはまったく役に立たず、菜園の真ん中に蹲ってしまった。

 最初の自信はどこにいったのか……いや、それは言わないでおこう。


「ですが、アニィさんに頼れない分、気を付けて進まないといけないですね……」


 そう言っている傍から、茂みからまた別のタラントラが飛び出し、襲い掛かってきた。

 ただし結界に激突し、ひっくり返ってしまったけれど。


「……前言撤回していいですか? ジオさんの結界があれば心配なさそうですね……」

「よかったね、アニィちゃん! アニィちゃんは何もしなくて大丈夫そうだよ!」

「ううう……どうせわたしなんて、何の役にも立たないもん……」


 追い打ちをかけるようなことを言う妹を、僕は咎める。


「こら、言い方ってものがあるだろ」

「ほえ? 何もしなくていいって、最高だと思うけど……?」


 こいつの価値観、ほんとどうにかならないものかな……?


 森林型の階層では、主に昆虫系や獣系、それから植物系の魔物が多く出現した。

 樹木がいきなり動き出したときには驚いたけれど、どうやらトレントという木の魔物らしい。


 アニィがいないため奇襲にまったく気づけないものの、菜園の結界のお陰で攻撃を受けることは一度もなかった。


 やがて、この階層もゴールへと近づいてくる。


「ボスがいるみたいだけど……アニィがこんな状態だし、やめておいた方がいいかな?」

「事前に得た情報だと、トレントの親玉のようですね」

「アニィ、昆虫でなければ大丈夫?」


 シーファさんが訊くと、アニィは蹲ったまま頭を縦に振った。


「あはは……どうせわたしは何もしなくていい子だから……」


 自嘲気味の笑いが零れる。

 ……完全にメンタルをやられてしまったみたいだ。


「いいなー、あたしも何もしなくていい子になりたーい」

「お前は戦え」


 そうして僕たちはボスがいる場所へとやってきた。

 ちょっと開けた空間があって、その真ん中に巨大な樹木が立っている。


「あれがこの階層のボス、エルダートレントです」


 僕たちが近づいていくと、生い茂った葉っぱを揺らして動き出した。

 幹の洞の部分が目や口のように現れ、ゴホーゴホーと不気味な音を鳴らす。


 さらに手下のトレントたちがどこからともなく集まってくる。

 こちらは木の根っこを足のように蠢かせて移動するけれど、どうやらエルダートレントはその場から動くことはないらしい。


 その代わり、枝を鞭のように振るったり、大きな木の実を飛ばしたりして攻撃してくる。

 もちろんすべて結界で弾いてしまう。


「あれ? なんか結界に張り付いて……うわっ?」


 エルダートレントが飛ばしてくるのは木の実だけかと思いきや、その中には虫の魔物もいた。

 幸い目を瞑っているアニィには見えていないけれど、どうやら敏感にそれを察知したらしく、


「無理無理無理いいいいいっ! 虫イヤああああああっ!」

「大丈夫だよ、アニィちゃん。小っちゃい虫だから」

「そう言う問題じゃないわよおおおおおおっ!」


 小さいと言っても、人間の頭くらいの大きさはあるけどね……。


【宣伝】

今月12日に『無職の英雄』の漫画版3巻が発売されます!(↓に書影)

1~2巻ともどもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

栽培チートコミカライズ
発売中!!!
― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者でここまで虫嫌いは致命的な気もするんだけど
[一言] このまま家庭菜園で下に進んだら階層無視して最下層行けそうな気がする。 とっとと攻略して素敵な女性たちとイチャイチャしましょうね。
[良い点] 展開がすごく面白いです [一言] これからも頑張ってください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ