第112話 物資輸送
依頼を探そうと掲示板を見ていると、先ほどの女性パーティが近づいてきた。
「ヒドラ討伐、上手くいったみたいね!」
リーダーであるルアさんが明るく声をかけてくる。
依頼を横取りされたことを根に持ったりはしていないみたいだ。
そのことにホッとしていると、
「それで、どうだったかしら? あたしが紹介した宿は?」
そう聞かれて、僕たちは思わず顔を見合わせた。
もちろん紹介された宿には泊まっていない。
そもそも宿が必要なかったからなんだけれど、それを説明することはできないし、そうなるとせっかく教えてもらったのに無視した格好になってしまう。
「(宿が満杯だったから、みたいに嘘を吐いたらどうかな?)」
「(さすがにわざわざ調べたりはしないわよね?)」
そんなふうに僕とアニィが示し合わせていると、シーファさんが口を開いた。
「泊まってない」
はっきりと言っちゃった!?
「……そう……いえ、全然気にしなくていいわよ! どこに泊ろうと自由なんだし! 余計なお節介しちゃったみたいね!」
だけどルアさんはまったく怒った様子もなく、そう言って笑ってくれる。
一瞬、眉根に皺が寄ったように見えたけど……気のせいだよね。
「それより、依頼を探しているみたいね? それならこんなのはどうかしら」
ルアさんがどこからともなく依頼書を取り出し、見せてくる。
それを受け取ったシーファさんが、目を通して首を傾げた。
「物資の輸送?」
「そう。珍しい臨時の依頼よ」
ルアさんは地図を見せながら説明してくれた。
「ここが今あたしたちがいるランダールの街ね。そしてこの辺りにメラっていう村があるの。途中に川があるけれど、ここに橋が架かっているわ。それを渡っていって……距離にしてだいたい十数キロほどかしらね?」
この街から十数キロほどのところにある村へ、必要な物資を輸送するというものらしい。
「少し前に発生した災害の影響で、村で色々と物資が不足してるみたいなの。だけど、途中の道が荒れている関係で、なかなか普通の人間では支援が難しくて、こうして冒険者に依頼が出されたそうよ。少し大変ではあるけれど、その分、報酬はいいわ」
ただ物資を輸送するだけなのに、報酬額はヒドラ討伐とそれほど変わらないものだった。
つまりそれだけ、その村は物資不足に困っている状態なのだろう。
「悪くないわね」
「うん」
物資を運びながら悪路を通って街と村を往復するのは、確かになかなか骨が折れそうだ。
普通の冒険者であれば、幾ら報酬が良くても敬遠するかもしれない。
でも僕たちの場合、自分たちが歩くわけじゃないからね。
そういう意味では、僕らにピッタリな依頼と言えるかもしれない。
もちろん、ルアさんがそれを知ってるはずはないけれど。
「元々はあたしたちが受けようとしてたんだけど、どうしても難しくなっちゃったのよ。で、たまたまあなたたちを見かけたから、声をかけてみたの」
「受けることにする」
「本当っ? ありがとう! 恩に着るわ! なかなか代わってくれるパーティが見つからなくて困っていたの!」
こうして僕たちは物資輸送の依頼を引き受けたのだった。
◇ ◇ ◇
「あはははっ! 上手くいったわ! 確かに地図上だと十数キロだけど、一番近い橋が壊れているから大きく迂回しなければならないのよ! たぶん倍以上の時間がかかるでしょうね!」
憎きパーティへの嫌がらせが成功して、ルアは嗤う。
その目の下には、くっきりと隈ができていた。
「ただでさえ一日がかりの面倒な依頼なのに、きっと往復に二、三日はかかっちゃうはずよ! 一晩かけて、あいつらを貶められそうな依頼を探し続けた甲斐があったわ!」
「「「……」」」
ルア以外のメンバーたちは思った。
その情熱を自分たちの冒険へとぶつけた方がよいのではないか、と。
◇ ◇ ◇
家庭菜園を進ませ、僕たちは依頼の村へと向かっていた。
必要な物資はすべて馬車に積んでいる。
その分、馬車が重たくなっているはずだけど、その影響はまったく感じられない。
ギガゴーレムを乗せてもスムーズに動けるくらいだし、どれくらいの荷重に耐えられるのか、想像もつかない。
「ひひーん」
馬車を引かなくていいキャロは、ただニンジンを貪り食っている。
「川が見えてきた」
「確かこの辺りに橋が架かってるはずよ」
道程の半分を過ぎたあたりで、地図にもある川が見えてきた。
「ちょっと、これどういうこと?」
「アニィ、どうしたんだ?」
「橋が壊れてるのよ」
「え?」
アニィに言われてみてみると、川に架かっているはずの橋が崩落していた。
これでは渡ることができない。
しかも川は流れが速くて深そうなので、川の中を進むというわけにもいかなさそうだ。
「どうしますか?」
「迂回する?」
「でも近い橋はどこにあるのよ」
「すぅすぅ」
どうすべきか、話し合いが始まる。
……おい、セナ、寝るんじゃない。
僕は言った。
「別に迂回する必要はないよ」
「どういうことよ?」
「このまま進んじゃうから。ほら、レッドドラゴン倒したときに見せたでしょ?」
「あっ、そう言えば」
どうやら思い出してくれたらしい。
そう、この家庭菜園、三次元移動というスキルのお陰で、空を飛ぶこともできるのだ。
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