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13 初稿修正~初校アップ! そして、〆切りを破ったこと。

 初稿をあげてからの改稿案は、4月中旬になる頃に返ってきた。〆切りは約5日後。

 どうやら今回の編集Sさんは、「文章をわかりやすくする」方針というよりも、「文章を誰が読んでもわかるようにする」方針をとっているらしい。『意味はわかるのですが……』という注釈の後に、『誰が読んでもわかるように直して』という直しが結構ある。


 たとえば、文中にこういう表現があったとしよう。



『「それもいいかもね」

 彼女はいたずらっぽく笑い、べっと舌を出した』



 ここで作家が伝えたいのは「肯定でも否定でもない、でも肯定に近く読ませるようなニュアンス」なのだが、こういうところは、徹底的に直される。「肯定なのか、否定なのか? 曖昧にするなら、他の文でフォローをして下さい」。そういう指示が来ることが往々にある。『「行間」で読ませたい作家』『はっきりとわかるようにしたい編集者』この差は歴然としていて、商業誌としては、その「わかりやすさ」の方を強く推される。

 こうして、『わかりやすく、読みやすい』文章を書く技術が格段に向上させられる。


 自分では商業作品において「わかりやすさ」の重要性は理解しているつもりであり、できるだけシンプルに、わかりやすく書いたつもりなのだが、編集Sさんは「初見で見て、理解できるかどうか」に、徹底的にこだわっているようだった。やはりその点、読み慣れると自作を読むのは軽く流してしまう作家に対して、心を砕いて指摘する編集者の腕というのが、如実に顕わにされるところである。むしろ編集者の腕の大半は、ここにこそ集約されることなのかも知れない。


 それでも思ったより直すところは少ないが、それでも中規模くらいの直しはいくつかある。直しというのはたいていそうであるように、一カ所を直すと、芋ずる式に直さなければいけないところが出てくる。

 結果、改稿は単行本半分くらいに手を入れなければならない状態になっていた。


 とにかく、改稿を進めるが、どうしても納得できない点、ひとつ直すとひとつ矛盾が出てしまう点がある。それはわかっているのだが、またまた書けなくなった。

 どうしても筆が進まない。

 

 徹夜する。一文字も進まない。

 そうして、日数だけが過ぎていく。


 私はさすがに呻き、黒木先生にSOSを送った。


私『〆切り、間に合いません』

黒木『ここでTwitterやっている暇があるなら、書くのです』

私『ひどい!』

黒木『スパルタです』


 絶望して、肌先生にSOSを送った。


私『【急募】文庫本半分の量の改稿を二日でこなさなくてはならないので、編集者から逃げる方法』

肌『なんでそうなったんです?!』


 肌先生は驚いて、何とか私のパニックを治めてくれた。ううむ、やはり女性の方が優しいものなのだろうか……肌先生の付き合いが尋常でなく良いからかも知れないが……。


 そんなこんなで、愚痴を言いながらも、〆切り間際になってスイッチが入った。

 逆に言うと、〆切り前まで、毎日徹夜をするが、やはり一文字も進まなかった。

 一日中書く時間があっても、〆切りがないと、筆が進まない。

 『〆切りは偉大』と言ってしまえばそうなのだが、その実態は、私がどうしようもない作家であるということだ。どうやっても専業にはなれそうもない。


 修正を加えられた初稿に直しを入れて4月中旬一杯を使って、原稿を返す。


 これで、もう一回赤が入って返ってきて、4月下旬には、最後にそれを返したらゲラに起こしてもらう流れとなった。


 進行はつつがなく(?)行われているように思えた。

 だが、やはり爆弾というのは仕込まれているものなのだ。


 再び返ってきた原稿には、衝撃の一文が示されていた。


 本作のストーリーは、ヒロイン・柊が不登校をしているところから始まる。

 それを何とか悩みを解消するように、主人公・明智が猫の身体を酷使して、何とか解決に乗り出すのだが……という流れ。


 しかし、以下の一文で、その設定が音を立てて崩れた。


『重大なことに気づいてしまいました。柊が一学期から不登校をしていると言うことだと、留年が確定していることになります』


 NOOOOOOOOOOOOOOO!!


 そ、そうか、高校には『留年』という制度があるんだ!?

 出席日数が3分の1無かったら、そりゃ、留年確定だよな?

 かといって不登校設定を崩すと物語が崩壊する。


 どうすりゃ良い? どうすりゃ良いんだ!?


 迷ったあげく、黒木先生に相談した。


私『〆切りが、〆切りが、〆切りが……』

黒木『時間は有限。頑張って下さい。ではまた(無慈悲)』


 絶望の味を覚えながら、三坂しほ先生に相談した。


私『やばいです。柊不登校設定でしたが、これ、一学期休んでたら留年確定』

三坂しほ先生『!!!! 私も気づきませんでした。すみません。3年生と言うことなら、1学期休んでも……こじつけ感半端ないですけど』

私『ですよねー……』


 結局答えは出ず、ひたすら考えに考え、やはり設定を調整し、全体の改稿を行うことにした。WEB版当初から、誰1人として気づかなかった、現役女子高生作家さんすら気づかなかった、絶望的な穴。


 だが、とりあえず睡眠を取り、頭を整理すると、やはり全体の修正は必要なものの、不登校の時期を修正することで、何とか調整できる道を思いついた。


 そうだ。そう変えると、逆に物語に深みが出る。心情的にも、ヒロイン・柊の立場的にも、納得できる方向に持って行ける。私は自分の思いつきに、意気込みを新たにする。


 「私もなかなかやるな……!」などと悦に浸っていたわけではなく、冷や汗だらだらである。


 とはいえ、またも筆が止まる。

 今は無職と言うことで、時間は腐るほどある。

 だが……書けないのだ。

 具体的に言うと、締め切り3日前くらいにならなるまで、一文字も進まない。


 努力はしているのだ。徹夜を重ね、睡眠も2,3時間の細切れしか取っていない。


 でも書けない。一文字も書けないのだ。

 一文字書けば、後は雪崩で書ける。そのことは今まで何度も学んできた。

 それなのに、書けない。


 これはもう、スランプとかそういうものではない。

 『怠け病』そう言っても良いかもしれない。


 小説家は、専業になれば書きまくれる、という思っている方もいらっしゃるかも知れない。


 よく、受賞したり書籍化が決定すると仕事を辞めてしまう人がいる。

 一般的には、『今の時代、「専業では食えないから」と編集に止められるから』という理由が大きいが、もう一つの理由として、ここで書いているようなこともまた、わきまえていて欲しい。本当に売れっ子になるくらいにならなければ、作家は兼業の方が良い。


 断言しよう。書く時間があろうと無かろうと、書けないときは書けない。

 時間があったところで、余裕を持って書けはしない。むしろ兼業作家の方が限られた時間に煽られ、筆が進むという逆転現象が往々にして起こりえる。

 結局悩み抜いた末、書かねばならない〆切り直前になって、ようやく筆が動き出すものなのだ。私だけかも知れないが。


 時間が迫ってくる。もう時間が無い。


 カタリ。もう進退窮まって、一文字書く。

 カタ……カタ……単語が完成されていく。

 カタ……カタタ……カタタタタ……単語は文章になり、行になり、パラグラフになる。


 もう止まらなかった。

 一文字書くことで、道は開ける。

 それまでパソコンの前で唸って一文字も書けなかったのが、『〆切り』に追い立てられ、一文字書くことで、文章が流れ出す。


 そこからは、一気だった。途中2,3時間の睡眠を挟んだものの、寝食を忘れて書きまくった。


 以前の作品、「あなたの未練、お聴きします」は、〆切りギリギリまで引っ張った結果、誤植が多く生まれる結果となってしまった。


 だが、今回は同じ轍を踏まない。

 初校を上げるまでに、誤植も、矛盾も、すべて潰してやる。


 始めから終わりまで三度推敲し、徹底的に矛盾を潰した。

 学校の校内地図を作り、キャラクターの位置関係を把握した。


 もう、間違いは起こさない。出版後に誤植を発見することほど悔しいことはない。

 もちろん、前作と比べ、今回はタイトなスケジュールと言うことで、直す回数は圧倒的に少ない。それなら、直しの手が加わらないくらい完成度の高い原稿を返してやる。


「もう、直すところはないです」


 初校までに、そう言われるような原稿を仕上げてやる。


 そんな意気込みで、睡眠不足の目を充血させながら文章を見返した。


 そして、〆切り30分前。

 一分を争う状況に身を置きながら、それでも最後の最後まで、手を加え、またその箇所を徹底的に推敲した。


 〆切りは、正午ジャスト。


 カタカタとキーボードを打ちながら、推敲を執念深く続けていく。『俺と柊は』という箇所を読み上げて、『柊と俺は』の方が良いな、など、細かな文章の前後の入れ替えまで、入念に。


 そうして、焦りつつもできあがった原稿を、急いで送信する。


 送信時刻は12:01分。



 ――〆切り1分オーバー。

 やりきった感はあるが、やはり悔しいと言えば、そうだったかも知れない。

 締め切りを守れないというのは、作家として失格だ。でも、何か1分を競っちゃった俺かっこいいとか、編集泣かせなことも感じていたというのは嘘ではない。


 編集Sさんから、「原稿受け取りました!」のメールが来て、身体の力みは、一気に解放された。


 間に合った! ……次こそ、〆切りギリギリにならないように気をつけよう!


 初稿のアップの時誓ったことと同様のそれを新たに胸に秘めると、ベッドにバタン、と横になった。



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