12 初稿アップ!
プロットも完成した。イイと言って貰えた。
改稿の方向は定まった。
〆切りまであと3日しかない。
後はもう、書きまくるしかない!
……はずだったのだが、プリントアウトしたプロットを傍らに、パソコンを目の前にすると、やはり筆はまったく進まなかった。
何か引っかかる。プロットでは決めたものの、ヒロインと高校生たちの『女性心理』が読めない。プロットではこう決めたが、実際にこんなことありえることなのか?
ちなみに、とびらのさんから指摘があった、主人公・明智の容姿の描写について三坂しほ先生に相談したのがこの頃。
私「明智の描写なんですが、こんな感じでどうでしょうか? 女性の視点から見て、セクシーに感じますか?」
三坂しほ先生「雰囲気や容姿は伝わってきます! でも、本当に疲れたサラリーマンという感じですね。この、「痩せている」という部分、「筋肉がそぎ落とされた」って変えるのはどうでしょう? その方が、セクシーに感じます」
私「『筋肉が』……? 女性は、そういうところを見るんですね」
三坂先生「そうです! 細マッチョ、女性には大人気ですよ!」
との意見をもらい、やはり女性はわからんと頭を抱えた。
パソコンを目の前にする。書けない。苦しい。死にたくなってくる。
そんな悪循環に陥り、大学時代の女性の友達に『死ぬべきなのだ』とLINEを送った。徹夜徹夜で、まともに寝てない中、頭はぼんやりしていた。
この友達には、『〆切りが――!』とか、『もうおしまいだ』とか、そんなことばかり送っている。
すると、今回ばかりはさすがに心配したのか、LINEで通話をよこしてきた。
「ああ、もしもし」
「もしもーし、小山くん?」
「うん、どした?」
「いや、どしたじゃないよ。寝て無くて、〆切りきつくて死にたいんでしょ?」
「あー、まあ。端的に言って死にたい」
「それじゃ、どうしたもこうしたもないじゃん。作品のことで悩んでるの? 寝なよ。寝ないとおかしくなっちゃうよ?」
「うん、あ、そうだ。ねえ、今時の女子高生のことについて相談乗ってくれない? 女性の目線というのが、どうしてもつかめなくて」
「良いけど……役立つかな~? それより寝なよ」
「いやいや、やはりスクールカウンセラーの立場からも意見をくれると、大変助かります」
そう、彼女は臨床心理士で、スクールカウンセラーでもある。
高校生の心の機微について相談するのは、もってこいの相手だった。
「~という物語なんだけど、女の子が、こんな風にいじめに走るとか、あり得る?」
「ありえるよ。むしろふつーにありえすぎるよ、小山くん」
「おおー、私が捉えていた女性像というのも、結構的を射ていたんだね」
「それどころじゃないよ。女の子の場合、もっと酷いよ? 男の子にもあるけどね」
「と、いうと……?」
「女子のいじめって言うのはね……」
一通り聞いた後、身の毛がよだつ。
「こえーな、女ってこえーな! そんな人間関係なんだ?」
「ふっふっふ、小山くん、女は怖いのだよ。それにスクールカーストとか、いじめとか、普通にあるよ?」
「そうなった場合、その子はどうするの? 乗り越える方法として」
「うーん、保健室登校とかかなあ……」
「保健室登校かあ……」
「それでもそれは、良い風に転んだ場合ね」
「なるほど……うん、何か、神が降りてきた感じがする。書けそうだよ」
「いや、だめだって。寝れないって言うから心配して電話かけたんだから。寝るんだよ?」
「ああ、わかってます。寝ます。とりあえず、風呂に入って、リフレッシュしてくる」
「お風呂入って暖まって、ちゃんと寝るんだよ? 1日3時間しか寝てないとか、危ないからね?」
「ありがとう、わかったよ」
アイデアが、最後のピースが、ようやくハマった。実際の高校生の心理。女の子の心理。
それらを文章に落とし込むための知識が手に入った。
お風呂にお湯を入れ、柚の香りのバブを入れて、リフレッシュする。
お風呂から上がると、パソコンに向かい、友人に感謝のLINEを送った。
『キタ――! 神降りてきたよ! ありがとう!』
『いや、寝るんだって! 寝なさい!』
『わかってる! これで書けるよ! 相談乗ってくれてありがとう!』
もちろん寝ない。神が降りてきたのに、取り逃してはもったいない。
そうして、止まっていた筆は進み出した。
遠かった一文字を書き出すと、ダムの堤防が決壊するように、言葉があふれた。
ピアニストが鍵盤で音楽を奏でるように、キーボードに踊る指が、物語を奏でていく。
改稿作業、加筆修正とはつまり、現在ある原稿に、どうやって加筆分を辻褄が合うように話を持って行くかという作業だ。現在ある物語の枠内に収まるように書き、新たに構築したストーリーは前後矛盾無く、さらに面白くなるように上積みし、枠組みを拡大させていく。
この削除と加筆の矛盾した作業から最適解を見つけ、結果的に『この物語』という枠組みを大きく拡大し、また、大きくスリム化しながらその新たな枠組みに落とし込む。
大胆に増築し、細心の注意を持って削るわけだ。
まして今回は、一章の丸々3分の2を書き下ろすような改稿だ。
残り3日間で、約3万字。1日1万字ペースで書かなければいけない。
今はとにかく、書くことだ。
プロットをストーリーレベルに落とし込んで、表現を構築し、綴っていく。
そうして、睡眠を削り、ただ原稿と向かい合った結果、何とか初稿は完成した。
ちなみにこの間、長時間椅子に座って腰が痛くなり、また最悪なことに風邪っぽくもなり、息抜きにベッドでTwitterに逃避することが多かったのだが、その時にも、仲間の作家さんには助けられた。
私「【急募】締め切りの守り方」
三坂しほ先生「回答:恋人のように常に頭に思い浮かべておく」
私「【考察】私たち、少し距離を置いた方が良いかも知れないね」
三坂先生「【考察2】でもそんなことをしたら、貴方は私の事をすっかり忘れてしまうのでしょう?」
私「【敗北】負けました」
私「黒木センセー、書けない――」
黒木先生「Twitterやってないで、書くのです」
私「でも……書けな……」
黒木先生「スパルタなのです」
あけちともあき先生「いけるいける! 頑張って!」
私「はい、頑張ります(泣)」
私「肌せんせー、進捗0文字です!」
編乃肌先生「ほ、本当に大丈夫ですか? 出版社に相談した方が良いかも」
私「3時間で5000字書けば余裕です」
肌先生「そうですか。フレーフレー」
私「ありがとうございます!」
ちなみにこの時期Twitterをやっていたら、出版から2年近くマイナビ出版からは放置されていた私のTwitterの『あなたの未練、お聴きします』の宣伝固定ツイートが突然リツイートされた。めちゃくちゃ怖かった。
そんなこんな会って、四苦八苦しながらも、何はともあれ、初稿完成。
後は、編集に赤を入れて返してもらうまでは自由時間だ!
とにもかくにも、寝る!
泥のように寝る!
ファイルを送った〆切り翌日。本当に18時間、死んだように寝てしまったのは、言うまでもないことだったかも知れない。




