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11 書けない!

 筆が止まった。

 今までの好調さが嘘みたいに止まった。


 〆切りの4月上旬までにはまだ時間がある。仕事もしてない。

 一日中、執筆に時間を当てることが出来る。

 一日中、考えることが出来る。

 しかも、今回は『大』がつくにしろ『書き下ろし』ではなく、『改稿』だ。


 だが、筆は止まった。

 物語をどう変えるべきか、考える。だが、一文字も書けない。

 吐き気がして、めまいがした。

 書かなくてはいけないのに、書けない。


 どうしても書けないのだ。再び『神が降りてくる』のを期待したが、執筆の神にはそっぽを向かれたままだった。


 毎日徹夜をした。じっとパソコンと向き合う。一文字も出てこない。


 一日中時間が使えると言っても、昼間は頭の働きが鈍く、夜になってくると頭が冴えてモチベーションがわいてくる。実質、書けるのは夜、深夜だけなのだ。

 

 書けない。一文字も。


 一日中起きているから、夜にしか書けないのに、夜中は眠くなってくる。

 一時間、一時間半、と小刻みに睡眠を取る。


 浅い眠りで、何度も悪夢を見て、跳び上がった。

 締め切りは無情にも迫ってくる。


 はじめの一文字書けば、後は勢いに乗って書ける気はするのだ。

 だが、そのはじめるための一文字が、とてつもなく遠かった。


 でも書けない。Twitterに逃避しつつ、『〆切りに追われる漫画家』の漫画などをKindleで買って、モチベーションを上げようとする。

 ちなみにこのとき出会った、『漫画アシスタントの日常(全三巻)』は、漫画家だけでなく、クリエイターなら絶対読んで損はないと確信している。購入から今まで、何度も何度も繰り返し読んでいるくらいだ。


 そんなこんなで、「書けない」「万策尽きた」と呟きつつ、一文字も書けなかった。


 何より、書くことの詳細が定まっていないことに気づいた。大枠の『改稿方針』は決まっているのだが、それを物語としてストーリーを形作っていく作業がごっそり抜けている。


 北を指し示すコンパスを持って北に向かおうとしても、目の前に崖があったり、越えなければならない山があるのだ。『こういう方向に改稿を』と言っても、路は一本ではない。そのための地図を作ることが急務だった。


 そして、Sさんと約束していた打ち合わせの日。

 私は、改稿する章で「書くべきこと」をとにかく盛り込み、参考資料としてSさんに送った。


 それからである。私は編集Sさんの妙技を見せられることになった。


 『書くべきこと』を送ると、時をほぼ待たずして、Sさんから『改稿案』のワード資料が送られてきた。


 編集Sさんから貰った『改稿案』はわずかA4二枚の、ちょこちょこっとしたアドバイスである。

 それなのに、その効果は絶大だった。


 スイッチが入ったのはそれからだ。今まで悩んでいたのが嘘のように、物語の「流れ」が、脳裏に思い浮かんだ。

 『改稿案』が送られてきてから一時間、パソコンに向かった後には、改稿すべき流れが、一通りできあがっていた。


 それから、『物語の流れ』をSさんに送り、二時間ほど電話で打ち合わせする。


私「ここは、こう書きたいんですよ」

S「でも、それだと○○と矛盾しませんか?」

私「なら、ここを書く順番を入れ替える必要がありますね。それとここのシーン、頭のイメージ的には、こうなんです」

S「なるほど……イメージ的には……ううん、こういうのはどうでしょうか?」

私「あ、なるほど、イイですね。その手があったか……それ、頂きます。それで、このパターンとこのパターン、どちらがイイでしょうか?」

S「そうですね……」


 質疑応答、会話のキャッチボール、これが、商業の――つまり編集がついてくれているときの面白さだ。編集との打ち合わせでは「ここはこうして……」と自ら語る端から驚くほどのアイデアがわいてくる。


 そのアイデアを、むき出しのままに話すと、編集からは「こうしたらどうだろう?」という、さらに練った案が提出される。

 このキャッチボールによって、あれよあれよという間に物語が形作られていく。


 急速に完成していくジグソーパズルのようなものだ。

 たとえば今回、『改稿案』でヒントを得ると、1時間という短時間のうちに今まで手にもしてなかったパズルのピースを多くそろえることが出来た。その時点でストーリーの大まかな流れが、ジグソーパズルの外枠が、あっという間に完成を見た。


 さらには、完成に役立ちそうなピースも打ち合わせ中にどんどんと膨らんでくる。

 ピースがあふれてくる。

 

 湧き出てきたアイデアについて話すと、編集はピースが落ち着くべき場所のアイデアを提供してくれる。それに納得しながら、時には協議を重ねながら、自分でも驚くべき手際の良さでピースを並べていくことが出来る。


 編集が、頭の中にだぶついているピースを置くべき場所についてアドバイスをくれる。


 並べられたピースは一つ一つがかみ合い、また、かみ合わないときは編集と相談し落ち着くべき場所を決め、そうしてピースが完成図に向けて一つ一つ埋まっていく。


 打ち合わせ2時間後には、ここ数日、徹夜を重ねても一文字も書けずにいたプロットの詳細を描き込んだ全体像が完成していた。


 思わずTwitterで「ずっと止まっていた筆が動き出した。やっぱりその道のプロはすげぇ」というようなつぶやきをしてしまったくらいだ。


「それでは、明日の朝までにプロット上げますんで!」


 軽い興奮状態になりながら、私は確約した。

 それから時系列と、書くべきことをずらりとならべ、A4に4~5枚のプロットが瞬く間に完成した。


 Sさんと編集Tさんに送ると、


 Sさんから「イイと思います!」Tさんからは「複雑な流れが上手にまとまっていてイイですね!」という、嬉しい言葉を頂いた。


 後は書くだけだ。〆切りまであと3日。

 もう、書きまくるしかない!


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