妄想がだめなら脅してみよう
お読みいただき、本当にありがとうございます。
沢山感想を頂き、とても嬉しく拝見しています。
この場を借りてお礼申し上げます<m(__)m>
今回は法律もどきの会話が出てきますが、設定がガバガバです。
専門家の方、一家言ある方、どうぞご容赦くださいませ。
未知の国の事として、ゆるーくスルーして下されば幸いです。
「言いたい事はそれだけかしら?」
拍手と共に私が発した言葉に、さっと顔に朱を走らせたラシェル殿下が口を開こうとした瞬間、呼吸を拾い言葉を封じる。
「ラシェル王太子殿下の素晴らしい妄想劇場の興奮も冷めやらぬところではありますが、これからは現実の話を致しましょう」
今度は私の演説の番だわ。
馬鹿げた持論を展開されると話が進まないもの。
「トーネット伯爵様、少し質問してもよろしいでしょうか」
トーネット伯爵は、恭しく胸に手を当てて頷いてくれた。
「伯爵家が公爵家に対して度重なる不敬を働き、謝罪もない場合の罰はどの様な内容になりますか?」
トーネット伯爵に問いかけると、傍らの法律書を開いて読み上げてくれた。
「罰金と共に三年間の貴族牢への収監です」
ラシェル殿下が口を開きかけるも声を出すタイミングはすべて奪う。
「公爵家の私有地、若しくは占有地に無断で侵入した場合は?」
「侵入だけなら発覚次第拘束されて事情聴取により罰が決まりますが、ほとんどの場合その貴族家の牢への収監でしょう。立場や立ち入った場所、その理由によっては処刑もあり得ます」
トーネット伯爵は法律書のページを軽やかに次々とめくりながらテンポよく答えてくれる。
「では、公爵家の財産を無断で持ち出す行為に対しての罰はどうでしょう」
さあ、発言を許してあげるわ。尤も、ご自分の首を絞めるだけでしょうけれど。
「だから!たかが制服や小さなヘアピンなどの事をとやかく言うなと言ってるじゃないか!あれらは僕がメグに下賜したものだ!だいたい部屋に入ったからって何だというんだ!公爵家の分際で王太子のこの僕に逆らうな!」
やっと発言が出来たラシェル殿下は、顔を真っ赤にして声を荒らげた。
微笑む私を睨みつけて肩で息をし、興奮状態のラシェル殿下は周囲が静まり返った事に気付いていない。
大変よくできました。またしても満点を差し上げるわ。
「つまり、グラーシュ公爵家の占有私室に無断で侵入したことも、そこにあったグラーシュ公爵家の紋章入りの制服と宝石付きのヘアピンを、王太子殿下の命令により接収して他家に下賜したことも、お認めになったということですね」
言い募ろうとするラシェル殿下の言葉を封じてトーネット伯爵に問いかける。
「大筋は認められたという事ですので、続いて質問させて下さい。
王族に財産を強制的に召し上げられた今回の場合は [接収] という事で良いのかしら?我がグラーシュ家に落ち度はないので罰を伴う [没収] であるはずはないわ。王家による貴族家の財産の接収についてと、王太子殿下にその行使が許されているかどうかを教えて下さい」
頷いたトーネット伯爵は華麗な手さばきで法律書をめくり、その答弁は淀みない。
マルコムが食い入るように見つめているわ。弟子入りを希望しそうな勢いね。
これが終ったらマルコムへのご指導をお願いしてみましょう。
「先ず、王家による貴族家財産の接収についてですが、わがトーラント国では王家が権力を利用して強制的に行う接収は戦時下や災害など有事の際に限られ、それは王命として下されます。国王不在の場合の摂政に就任していない限り王太子殿下が独断で行う事は認められていません」
書物から顔を上げたトーネット伯爵は更に続けた。
「そもそも、接収した物品は有事の際に国のために使う物であり、王族が気に入りの貴族家に下賜するなどの場合は接収には当たりません」
私は頬に手を当て首を傾げて聞きました。
「それでは、何と言えばいいのでしょうか?」
「今回の場合は、高位貴族が集団で侵入し、逆らえない使用人しかいない場所での行為ですので [収奪] が妥当かと。そして下賜されたと主張する者についても、その場に同時に侵入した事と証拠となるそれらの物品をその場で身に着けた事が当事者たちの証言からも証明されておりますので共犯です。
また、グラーシュ公爵家の紋章の入った物は決して贈られる事はなく、他家の者が所持していれば盗品と見做すと、王家を含め全貴族家に周知されておりますし、実際にグラーシュ公爵家から盗難の被害届も出ております。
グラーシュ公爵家の紋章入りの制服を身に着けているヘイデン伯爵令嬢は現段階で窃盗の容疑者です」
ラシェル殿下が声を出そうと息を吸い込んだタイミングで畳みかけるように発言していく。
息を吸い込むばかりで言葉にならずイライラと歯噛みをする様子を目の端で捉えながら、トーネット伯爵との議論を続けていく。
「ヘイデン伯爵令嬢は下賜されたと主張していると聞きましたが、その場合、収奪して下賜した方と、下賜された物品が盗難品になると分かっていて身に着けた方、どちらに非があるのでしょうか」
「明らかに他者の物であると分かっていながら自身の物とした時点で窃盗は確定、同罪でしょう。
見ていて止めなかった者たちも幇助と言えますね。そもそも同時に部屋に入った時点で不当な侵入と見做されますので無罪という事はあり得ません」
ラシェル殿下がこちらを睨みつけて口を開いた。
少しは言い分を聞いて差し上げなくてはね。
「もういい加減にしてくれないか。僕たちを止めなかったのが幇助というなら、あの場に居た使用人たちだって同罪だ。
王太子である僕を陥れた反逆罪であの場に居た使用人全員の処刑を命ずる。
馬鹿な公女の駒にされた使用人たちが気の毒でならないよ。
さあ、さっさとこの下らない訴えを取り下げて僕たちを解放するんだ。
頭を床にこすりつけて謝れば、使用人たちの処刑については考えてやってもいい」
勝ち誇った笑みを浮かべたラシェル殿下が私を睥睨している。




