第三十三話 ミナトくん
「森先輩~! この暗幕かかってる作品って、誰の作品なんです?」
僕は美術研究部の作品を学館から鳳仙大学に運ぶお手伝いをするために、サークルの部室にいた。
そしてそこで、大きめの暗幕がかけられている一つの作品らしきものを見つけたので問いかけた。
結構大きめの作品っぽいよな……薄いから絵、なのかな?
「あぁ、聞いてない? それは君らを紹介してくれた司……燕尾の作品だよ」
おぉ~~~~!!!
コレが!?
……って、さっき入り口で燕尾先輩から美研所属だって聞いてなかったら驚きで作品落としてたな絶対……あぶなかった……。
けど、これがあの人の作品か~~~~!
どんなの書いてるのか見てみたいけど……!
りょっ、両手がふさがっていて見れないっ!!!!! くそう!!!
「あれ、ていうか、燕尾先輩って家で描いてきたんですよね? 普通にそのまま大学にもっていけばいいんじゃないですか?」
「あぁ~、そうしてもいいんだけど、それだと大学の入講証を取らないといけないから面倒なんだよね……だからこっちに持ってきてから一気に搬入するってわけだよ」
あぁなるほど、てっきり自分の作品描けたのをみんなに見せたくて持ってきたのかと思ったけど、さすがにそんな子供っぽくないよなあの人は。
さて、と、よいしょ~~~!
―――と、燕尾先輩の作品を鳳仙大学OBの人の車に載せたその時、ふと、自分のズボンのポケットに入れた携帯が震えるのを感じて手に取る。
あれ? 藍原さんからだ……。
なんかここに来るなり誰かに呼び出されたとかでどっか行っちゃったけど、用事が終わったんだろうか?
えっと、なになに?
ん? 学館の四階……階段を上がって右奥の部屋で待ってる……って……。
―――えっ!????
いや、これ、え????
いやいや、さすがにね? 違う、よね?
でも、この感じは……まさか、こ、こ、告白デワ!?
イヤイヤイヤイヤ、流石に最近の笹草さんの出来事のせいでそう思いやすくなってるだけだって!
……。
……で、でも、海での一件もあるし……も、もしやワンチャンもあるのでは……!?
グワァ~~~~~~! でもどうしよう!!!
となると結局また傷つける人が一人増えるワケでェ~~~~~~!!!
……今は考えても仕方ない、か……。
とりあえず向かおう……。
◆
えっと、四階の、右側の一番奥の部屋……か……。
……。
……。
いや、あの、めっっちゃ疲れたんですけど……。
これから起こる楽しみもあるんだけど、ちょ、ちょっと、息切れが……。
ふぅ~~~~~~~。
よし、行こう。
えっと、まず最初になんていうべきか……?
用事終わった?とか? まぁこれが一番無難だよな。
そのあとは雑談をしつつ、どうしたの? って、うん、完璧だな!
……さて、ではいざ……出陣!!!!
「藍原さん、用事は……って、え、え、燕尾先輩!? な、ど、どうしてここに?」
「あ、あぁ、遠野君……さ、さっき振り、だね」
えぇ!?
もしかして連絡先見間違えたか!?
いや、確かに藍原さんから呼び出されてるな……!?
え、あ、藍原さんは燕尾さんが美研にいるって知ってたのか!?
というか、知り合ったのって多分、藍原さんと買い物に行ったときだよな……?
え、いや、待ってどういうこと????
「あの、藍原さん見ませんでした? 呼び出されたんですけど……」
藍原さんの姿は……ないな?
ど、ドッキリ????
「あ、あぁ~、いや、あの、ぼ、僕が藍原さんに、た、頼んだんだ……その……君をここに連れてくるように……」
燕尾先輩が?
それなら直接言ってくれたらいいのに……あ、携帯の充電切れちゃったとかかな。
「それで、どうしたんですか? 燕尾先輩の作品ならさっきちゃんと積みましたよ。……本当は見たかったですけど、後で見ることにしますね」
「あぁ、そうだったんだ、ありがとう……」
……。
……。
……。
え、いや、なにこの沈黙。
気まずいのは入り口で出会った時からそうだったけどなんかさっきよりも圧倒的に沈黙が苦しいんですけど……?
あ~~~、ど、どうしようかな……。
話題、と言ったら正直、もうあと一個しかないというか……。
アレ、聞いてもいいんだろうか……。
いやぁ~~~、でも気まずい中さらに気まずい話をぶち込むのは如何なものか……。
というか、どうしたんですかって今僕聞いたよね????
何か話したいことがあるって……え、お付き合い報告、的な……?
ま、まさか燕尾さん自身を使ったNTRを見せつけられるっていうのか!?
「……実はその……遠野君に話が、あって……」
「は、はい……」
うんそうだろうね、という突っ込みができる雰囲気ではなさそうだ……!
「これは……その……最低な話だから……もし、もし君が不快に感じたら、僕のことをビンタでもなんでもしてくれて構わない……」
……はい????
え、なに、ビンタ? え、何急に、びっくりした~~~。
え、聞き間違いじゃないよね??? 不快に感じたらビンタ……???
な、なにかの性癖だったりする……のかな……?
いやしようとは思わないけどさ……!?
何、今日そういう話!?
ま、まぁ最後までとりあえず聞いてみるか……。
「遠野君は、あの水族館の時……最後の出来事を覚えているだろうか?」
最後のっていうと……え、やっぱりその話するんだ!?
「ま、まぁ、覚えて、ますケド……ミナトくん、でしたっけ?」
「あっ、あぁ……そう……その、ミナトくんについてというか……ま、まずはこれを見てくれないだろうか!?」
と、そう言うや、燕尾先輩は自分の携帯の画面を僕の目の前に差し出し―――ってこれマジでNTR動画あるんです!?
キャ~~~~~~~~っ……って……エ、ナニコレ……。
「……ゲ、ゲーム、ですか?」
見せられたのは、よくあるUIが描かれた画面。
右には編成やら募集だの、ソシャゲではよく見る画面。
そして、ホーム画面と呼ばれるその画面の右端で、体を揺らしている黒髪の少年?
あ、切り替わった。
……で、え、これが何……?
「僕は、あの水族館の一件まで……実は、本当に最低だけど……このゲームのキャラ……ミナトくんに、遠野君を重ねていたんだ……!」
――――?????
いやまぁ、わかるといえばわかるし、わからないといえばわからないな???
えっと、僕が勘違いしていたミナトくんとやらはゲームのキャラで?
「えっと、僕が、この筋肉ムキムキの赤毛の青年だと思って接してたってことです……?」
エ、ソレ、結構ショックなんだけど……。
燕尾さんにはあぁ見えてたってことだよね……???
「えっ……? あぁ!いや、こっちじゃなくて、最初の、この黒髪の……!」
ん~?
あぁ、こっちか。まぁそれならまだいいんだけど……。
いや、でもこれ……。
「ショタってやつじゃないですか? 僕はもう大学生ですし……」
「……うん、だから、本人に似ている、というより、この男の子が成長した姿を重ねてた……っていうか……本当にごめん……」
そう言ってうなだれる燕尾先輩を見る……けど。
いや、え、なにこれ。
ちょっと情報を整理しよう。
え~っと、まず燕尾先輩は僕のことを、このゲームのキャラであるミナトくんの成長した姿と重ねて接していて?
だからあの水族館の時にその名前を呼んでしまっていて?
それに対して申し訳ないと、謝罪している……ってこと?
……う~~~~~~~ん。
「え、燕尾先輩、そんなんであんな気まずくしてたんですか?」
「――――っえ?」
「いや、だって推しに似てる~的なのってよくあるじゃないですか。……まぁ水族館に行くまでずっとそう思われてたってのはびっくりしましたけど、別に僕はなんとも……っていうか、寧ろ、推しの行動と違うこととかあったんじゃないですか? ホラ、解釈違いっていうんでしたっけ。大丈夫でした?」
「え、あぁ、いや、それは、うん……全然問題ない、けど……」
まさか燕尾先輩が連絡してこなかったのが、こんなしょうもない出来事だったなんて……。
ミナトくんって、ゲームのキャラだったんかい!!!!
紛らわしっ!!!!!!
あれ? ていうか、よくよく考えたらさ。
「燕尾先輩って、ミナトくん推しってことは好きなんですよね? 僕のことはどう思ってるんです?」
推しに重ねてるから好きという感情なんだろうか。
それともあくまで推しという感覚?
友達やバイトの後輩って感じじゃなさそうだったし……。
あれ、なんで燕尾先輩顔赤くして……。
……ん?
あれ?
僕いま、変なこと聞いてない?????
単純な疑問だったけど、これ、普通に告白誘導尋問じゃない???
「え、っと……僕は……」
うわぁ!? めっちゃ悩んでくれてる!?
「いやいや!!! やっぱ言わなくて大丈夫です!!! というか、そんなんで僕が怒ると思ってたんですか? そこは少し心外ですね~」
「あっ、そう、だよね……本当に申し訳ない……」
「いやいや! 怒ってるんじゃないんですって!!」
なんかずっとしょんぼりしてるなぁ。
……いや、っていうか、こんなしょんぼりしてる燕尾先輩見るの新鮮じゃない?
いっつもキリっとしているし、意外な一面というか……もしかして、こっちが素だったり?
え~、それってなんか。
「なんか……可愛らしいですね!」
「―――えぇっ!? そ、そん、えぇ!?」
……アレ。もしかして僕、いま声に出してました???????
「あっいや、ちがっ、いや違くはないけど、あの、そのえ~~~っと」
うわぁあああああ!?!?
どうしよう!?
どうすれば!?
どうするんだ!?
とりあえず弁明をっ!!!
「え、燕尾先輩は元から可愛いですもんね!!!!」
――――ん?????????




