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第二十七話EX1 私がゲームが得意だったのはきっとこの時のためだったんだと思う



長い長い幸せな夏季休暇も終わり、普通ならば大学に行きたくないという人が多い……が、私は違う!!!

なぜなら、今日からほとんど毎日、陽太くんと隣の席で講義を受けられるから!!!!!!!!!!!


むしろ夏季休暇中はゲームのイベントやらネ友の誘いとかで中々誘えなくて結局、最初に行った水族館と海だけ……ってあれ? 意外と十分楽しんで……いーやいやいや、本当なら祭りも行きたかったから全然足りないよ!!!!

けど、ちょうど祭りの日にゲームのオンイベがあって外に出られなかったし……。

あぁ、陽太くんの浴衣姿……見たかった……け、けど、ま、まぁ、実質? 裸も見てるし……?

か、体も触りっこしちゃって??? んへ、んへへへへ。


おっと、いけないいけない!

陽太くんの前じゃ絶対にこんな顔見せられないよ!


まぁ、これからはまた変わらず陽太くんと一緒に講義を受けて一緒に帰ろう~! ……と、思っていたのに……。


「はぁ、はぁ、馬場先輩~、これここに置いておきますね!」

「ウォ~! 藍原氏~~美少女の手も借りたいと思ってたんじゃ~!! 感謝するヨ!!」


どうして……どうして私たちは美研で手伝いをしているの!????


いや……きっかけは覚えてる……。

講義終わりにたまたま水連大に来てた森先輩と遭遇したら、なんか成り行きで手伝いをしてほしいって頼まれて……そこからは荷物運びとか画材の整理とか部屋の掃除とか……私美研のメンバーじゃないんですけど!? と、思ったけれど……。


「これ、こっちに置いたほうがいいですか?」

「おぉ、そうだね! 遠野君ありがとう!」

「いえいえ!!」


陽太くんのあんなに幸せそうな顔見れるならいいかと思っちゃうんだよね……。

え、なに、陽太くんこういうの好きなんだ? かわいいね? んへへ。

じゃ、じゃあ私の部屋も掃除してもらっちゃったりしていいカナ??? へへ、なんつって。


ってまぁ妄想もそこらに……気になったことが一つあるんだけど……。

私は近くにいた先輩っぽい美研の人に思わず声をかけた。


「あの、燕尾先輩って今日来てないんですか?」


そう。私の因縁の相手の一人……燕尾先輩はこの美研に所属しているはず。

にもかかわらず彼女の姿は見えないから少し違和感というか……。

いや、陽太くんが来てるからいないほうがいいんだけどね? 一応よ! 一応!


「あ~、司先輩すか? 先輩は基本家で作品を仕上げる人なんであんまりこっち来ないんすよね~。……まぁ、少し事件もあったんでそれかもしれないすけど……」


そうなんだ……ていうか事件って?―――と、私がその件についてちょうど聞こうとしたその時。

同時に美研の扉が勢いよく開かれて二人の、見覚えのある女性が現れた。


「よォ美術研究部! 今年も忙しそうだなぁ!!」

「つっても私らは来ちまうけどなぁ!!」


え、あれって……。


結構前に体験しに行ったゲーム研究部の内藤先輩と筒井先輩、だよね!?

何やってんの!?

あ、森先輩が行った……さすがに怒られるんじゃ……?


「やっぱり、そろそろ来る頃だと思っていたよ、万年二位の……あ~、なんてトコでしたっけ?」


ええええ!? 森先輩って煽る人なの!?

どういう状況!?


「あ!? オイ、森! そりゃ喧嘩売りすぎだろ!? ライン越えだよ今のは!!」

「そうだよ……私らゲーム研究部だって毎年頑張ってはいるんだ、頑張っては!!!」


いやそれはそう!!!?

あんな言い分じゃ先輩たちも流石に怒るでしょ……って、いや、その前にこの状況は何!?

陽太くんも当然困惑して……ってあれ!? 他の女の先輩と話してる!?


ちょ、ちょっとそれはいただけませんよォ!?


ちょっとずつ近づいて……いったい何を話して……?


「—――すみません、あれはなんなんですか? ゲーム研究部? って言ってましたけど……」

「え? あ、あ~そっか、と、遠野君?だっけ? は一年生だしまだ知らないよね。えっとね、あれは毎年恒例の行事みたいなもの……っていうか……」


あぁ、なんだ、この状況について聞いてただけか!

それもそうだよね……私でもわかんないもん……。


「えっとね、あ、でも多分もうすぐ彼女らが説明してくれると思うよ?」


え、そうなの?

――と、そう言われて私が内藤さんらゲーム研究部の先輩方に視線を向けると、彼女らは森先輩に向かって人差し指を向けながら叫んだ。


「美術研究部!! ゲーム研究部の我々は今年もまた学際にて勝負を申し込む!!! 条件は変わらず、負けたほうは勝ったほうの言うことに一つ従うこと!!! ただ、それだけだ!!」


おおなんと簡潔で分かりやすい!

……けど、さっきチラッと聞いただけだけど、これ毎年やってんの???

エンタメ性すごいなゲーム研究部……知らなかった……。


「よ、陽太くん、なんかすごいことになってるね?」

「あ、唯……ほんとだね、いやぁ大学ってすごいところなんだなって実感してるよ……って、そういえば、唯ってゲーム好きだったじゃん? ゲーム研究部には入らなかったの?」


え”。

覚えててくれてるの!? ウワォ嬉しッ!!!

あんな些細な出来事だったのに!? 一緒にゲームしたのなんて結構前だよ!?

うわ~~~~~最&高!!!!!


って、いやいや!! 浮かれてないでちゃんと答えないと……。

で、でもなんて答えよう……?

正直に言っちゃえば、陽太くんとの時間が無くなるから入らないようにしてただけだし……。

ウーーーン、ちょっとだけぼかして……。


「あ~……うん、ちょっと気にはなって見学には行ったんだけど、時間が無くなっちゃうからね……」

「じゃああの二人のことも知ってるの?」


あの二人……っていうと、内藤先輩と筒井先輩のことかな?


「もちろん! あの二人はサークルの代表の内藤さんと副代表の筒井さん。内藤さんはプロのスカウトが来るぐらいだし、筒井さんはもうすでにゲーム制作会社に就職が決まってるっていう、二人ともすごい人だよ!」

「……マジ?」


いや、自分で言ってて実績すごいなほんと。

内藤先輩はかなり有名なゲーミングチームだし……筒井先輩だってゲーム好きならだれでも聞いたことがある企業だし……。

結局体験で入ったときは内藤先輩が忙しくて対戦できなかったから一回ぐらいやってみたいな……とは、思ってたんだけど……。


「はっはっは! 今年のゲーム研究部を舐めるなよ森ィ!! 去年とは一味違うぞ!!」

「そーだそーだ! 一味どころか七味違って七変化しちゃうぞ!?」


…本当にゲーム上手いんだよね?????


―――と、そう思っていた時、ふと、内藤先輩と視線が合った。

……え、なに……?


「おやおや、藍原さん。ゲーム研究部の誘いを蹴って美研で彼氏とお楽しみですかな?????」


―――んな!?

なんでそんなことを内藤先輩が……!?


「内藤先輩……いや、べ、別にそんなつもりじゃ……それに、ま、まだ彼氏じゃ……」

「ほォ……? あくまで美研に魂は売っていないと??? ……ふむ……そうだな……ねぇ、君って、美研の子?」

「えっ!? あ、ぼ、僕、ですか? い、いや、違いますけど……」


え。なんで陽太くんに……あれ、なんか嫌な予感が……。


―――そして、その嫌な予感は見事に的中し……。


「おい森ィ! やっぱり今年の勝利報酬は変更だ!!! 今年の勝負に勝ったら、この二人を一週間サークル員に入れる権利を手に入れるってのはどうよ!?」

「「え、えぇぇ~~~~!?」」


私と陽太くんの声が重なった。

いや、え、なにそれ!?

一週間とはいえ、こ、これで私らのサークルが決まるの!?

ちょ、ちょっと面白いと思ってしまった自分がいる! けど!


「いやいや、流石に私らの一存じゃそれは決められないでしょう……? ねぇ? 君たちもこんなの嫌だろう?」


さっすが森先輩! そうだそうだ!! 陽太くんに迷惑かけたら先輩でも許さないからね!!! 

……け、けど……これって……よくよく考えたら、陽太くんと一緒のサークルに入れる、ってことだよね……?

あれ? そう考えたら悪い提案じゃなくない???


「わ、私はいい、ですけど……よ、陽太くんは、どう?」


陽太くんはどうなんだろう……。

私は嬉しいけど、陽太くんが忙しいなら……。


「あ、いいですよ。僕もそれで」

「マ、マジ???? うおぉ~~~!!! 盛り上がってきたな、筒井!? それじゃそういうことだからな、美術研究部! 約束は守れよ!? 首を伸ばして待ってるんだな!!!!」

「部長!! それ首を洗ってと混ざってるよ!? って、逃げ足足はっや!? そ、それじゃ、精々首を洗ってな!!!」


ーーと、陽太くんの答えを皮切りに、まるで嵐のように颯爽とゲーム研究部の二人は立ち去って行った。

……こ、小物ムーブすぎるわね……ゲーム研究部……。


「遠野君、藍原さん……本当にいいのかい? まぁ、彼女らもあくまで権利と言っていたから流石に無理に引き入れないとは思うけど……」


うーん、そういわれてもなぁ。

正直、陽太くんがいいって言ってくれたなら私は特に……。


「あ、私は全然……」

「僕もまぁ……美研の人は優しいし、それにゲームも好きなんで、どっちに入っても得かなって」

「そ、そう……? ……いや、ありがとう。そう言ってもらえると私も少しは気が楽になるよ」


ただ、少しだけ私にも気がかりが……ってその前に何の勝負なんだろう?


「って、そういえば毎年恒例って聞きましたけど、何の勝負なんですか?」


あら先に聞いてくれた。さっすが陽太くん。やっさし~~~!!


「私もそこまでは知らなくて……」

「そうだよね、うーん……ちょっと難しい話になるんだけど、この学館って、君らの通う水連大学と私らの鳳仙大学の二つで共同で使ってるんだけどね? 学祭ともなるとさすがに大学が違うから共同で作品を出すわけにはいかないんだ。要は同じサークルとはいえ別大学名義で作品を出展しなければいけないってこと。……と、それに目を付けたゲーム研究部がね? 各大学で出した提出物が得た評価数が多いほうが勝ちってゲームを持ち掛けてきて、そこからそういう勝負が続いているって話なんだ」


ほへ~~~そういう感じなんだ。

あれ? けど……。


「それじゃ、水連大学と鳳仙大学の勝負で、美研とゲー研の勝負じゃないんじゃないですか?」

「ふふ、まぁそこはお祭り仕様でね……? 今は私たち美研のメンバーは鳳仙大所属が多いから鳳仙側、そしてゲー研のメンバーは水連大所属が多いから水連側、という風に分けて勝負をしているんだよ」


へ~、そういうことだったんだ……。

じゃあ鳳仙大のほうが評価が高ければ、私たちは美研に一週間。

水連大のほうが評価が高ければ、私たちはゲー研に一週間お試しで入れられる、ってわけね。

っていうか、あの、森先輩?


「だから……君たち水連大には悪いけど、美研に入ってもらうために鳳仙大を応援してもらうからね!!!!」


ちょ、ちょっとだけ顔が怖いですよ、先輩―――!





「いや~まさか手伝いに来たらこんなことに巻き込まれるなんてねー?」

「ほんと……にしてもゲー研の人らのテンションすごかったな……前もあんな感じだったの?」

「あはは、内藤さんらはいつもテンション高いんだよね……」


手伝いがあらかた終わった後の帰り道、私たちは今日起こった出来事で盛り上がっていた。


……けど、さっきの陽太くんの表情ってやっぱり……。


「ねぇ、陽太くん」

「うん?」

「……もし、美研とゲー研でさ、どっちに入るか選べるんだったら、正直どっちを選んでた?」


やっぱり、私と燕尾先輩で陽太くんをサークルに入れないようにしてたけど。

本当は、サークル活動に入ってみたかったんじゃ……。


「僕はゲー研かな~? 面白そう、ってだけだけど!」


あ……や、っぱり……。


「そ、うなんだ! へ~! ゲー研、ねぇ~?」


そうか……ゲーム研究部……でも、あそこなら……うん。

何とかなるかもしれない。

……そのためには……。


「あっ、陽太くんごめんね!? ちょっと忘れ物してきちゃって……今日は先帰っていいからね!」

「え、あ……うん……」


そう言って私は先ほど帰ってきた道を戻る。

道のりは一度来たから覚えている。

学館に辿り着き、階段を三階まで登っった先の一番右、突き当りの部屋。

そこに―――。


「あの、すみません~?」


私のその声に、部屋の中からドタドタと音が聞こえ、やがて一人の女性が姿を見せた。


「あれ? 君は……確か一回ここに見学に来てくれた人だよね? えっと、藍原さん、だっけ?」

「はい……あの、実はいきなりなんですが、お願いがあって……」

「お願い? ……よ、くわかんないけど、代表と副代表は中にいるから、とりあえず中に入りなよ!」

「あ、はい、ありがとうございます」


そう言って私は部屋の中に入れてもらった。

中に入ると、防音材で壁一面を覆われた異質な廊下。

とはいっても私は一度これを見ているからどういう意図かは理解している。

それらを抜けて、ようやく広い部屋に出ると――。


「う〜ん、やっぱこの技、発生ちょい遅くない? もうワンフレーム早くてもいいかも。じゃないと初動で読み勝てなくなるし、このキャラ強みのコンボが活かせなくない?」

「あ〜いや、でもこのキャラは一応隠しステ入れてて、スタン値をちょっと低くしてるから相手のコンボ途切れさせられるんだよね。ハメキャラ相手なら有利取れる時もあるし、早すぎても強くなっちゃうかも」

「あ〜なるほどね。つっても実際火力と択の通しづらさ考えると一般人には無理だろ〜。その分リーチはもう少し長めでいいんじゃない?」

「それは概ね同意かな。割とやってて差し合いで不利出やすい気がする。私は正直、後はリーチ調整だけで完成してる気がするな~」


……ふむ、いきなり入ってきた私も私だけれど、驚くほど誰もこっちを見ない。

モニターに向かってコントローラーを叩く音と、時折飛び交うゲーム用語。


――ここは、紛れもなくゲーム研究部だ。


「内藤~、アンタにお客だよ~」


と、私を案内してくれた人の一言で、ようやくゲームに夢中だったメンバーの一人――内藤代表が顔を上げた。


「え? 客……? って、おろろ? 藍原さんじゃん! どうしたの? さっきの話のことで何か? え、不満とかあったらごめんね!?」

「あ、いや……その話じゃなくてですね……」


陽太くんがゲーム研究部に入りたいのならば、私のやるべきことは一つしかない。

……いや、そうか! 私がゲームが得意なのはこの時のためだったのか!?


それならば、神が与えてくれたこの力を使わないのは、もったいないよね!


「あの、先に私をゲーム研究部に入れてくれませんか?」


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