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第二十四話EX 茜色の空と溢れる想い



私、藍原 唯は悩んでいる。

悩みの種? そんなのわかるでしょう?


「はぁ~~~~~、陽太くんに会いたい……」


私は大きなため息を吐きながら、机の上に置いた青色のイルカのキーホルダーを眺める。


水族館に行った日から今日までで何日経った???

有難いことに友達からも遊びに誘われるから暇してるわけじゃないけど……。


なんで……どうして陽太くんから連絡が来ないの……?

も、もしかして他の女と予定があったり……?


……うん、あり得る。

燕尾さんも笹草さんも私と同じぐらい陽太くんのことが好きである以上、彼を誘わないとは考えにくい……。


まぁ? 水族館っていうお洒落なところに行ったのは私だけかもしれないけどね??


……なんて、いくら自分の中で自慢をしてたとしても、実際にこの夏季休暇中、一日しか彼と会っていない以上、関係が進展するわけがないことぐらいわかってはいるんだけどね……。


でも、でも~~~~。


「さ、さすがに海に誘うのは下心あるって思われるかな……?」


夏といえば海、という安直な考えのもと、もしかしたら陽太くんのほうから海に行きたいと言われるかもしれないと思って買ってしまった水着を一切使わないのは……なんかもったいない気がするし……。

かといって、海に誘ったら、「え、もしかして裸見たいの?」と思われかねない……!


いや、見たいよ???? そりゃ見れるなら。

同学生の、しかも好きな人の水着とか普通に見たいよね???

あれ、見たいな???

えぇい、海行きませんか、っと、送信~!


……はぁ、気恥ずかしさも全て欲の前には無力なのね……。


でも、陽太くんの水着姿が見れるなら……私の生涯に、一片の悔いはない……。


あっできれば触ったりできればもっと良いケド―――。





さて。

私、藍原 唯は今、再び悩んでいる。


結果的に言えば、私は陽太くんを海へと誘うことに成功し、なんと今日、その海へと来ている。

そして、着替え終わった私の目の前には、海を眺める水着姿の―――オッ、良いッ……。


色白で細身なのに男の子らしい程良い筋肉……いつもは消極的な陽太くんでも、否が応でも男の子なんだなと思い知らせるその背中……エッッ……!


……ん? ていうか、これって生の背中、だよね????

え、陽太くん……まさか私と来るからってそんな無防備な恰好で……?

危機感なさすぎじゃない……? 襲われるかもしれないよ? 私に。

いや、え。ほんとに???? 生背中ってことは、反対側は生お腹……えっ、待ってそれは―――。


―――っとと、危ない……まだまだパーティーは始まったばかりだというのに、ここで鼻血なんか出したらすべてが水の泡だ……海だけにね?


ふぅ……まずは最初が肝心だから……。

男の子は服装を褒められると嬉しいらしいから、まずはそこを褒める。

そしたら、すかさず気を遣えるアピールをするために、日焼け止めの確認。

そこから流れるように海へ行くことを提案し、海で水のかけあいっこをしたり……いや、でも男の子に急に水をかけるのはどうなんだ……? 嫌がられたりしないだろうか……。

ネットでも海水はべたつくからあまりとは書いてあったけれど……か、軽く足元にするぐらいならいいよね?


……よし、行くぞ……!


「お、お待たせ……あっ、そ、その、み、水着……似合ってるね……! よ、陽太くん!」

「いや、全然!」


オワッタ。

なんで?

なんであんなにシミュレーションしたのにこんなどもっちゃうワケ????

もっとスマートに言えなかったの????

えん……。


「あ、藍原さんも……その、か、可愛い、ね……!」


……エン?

エ、カワイイ? ワタシガ?


おいおい、何馬鹿なことを言って……。

どう考えても陽太くんのほうが可愛いでしょうがッ!!!!!

ていうかなんですかその、そ、その水着の位置はッ!?

もうちょっと上に引き上げてくれないと布面積的にもう見えちゃうよ!?

見せてるの!?!?

ラッシュガードもつけないで……ほ、他の女も見てるのにぃ……。


いや、ていうかお腹、胸……アッ、やばい、見すぎると不自然かな!?

で、でも~~~~!!!


「あっ、じゃ、じゃあちょっと、海、入ってみる……?」


うっ……ぜ、絶対見てるのバレたよこれ……。

で、でも何も言ってこないってことは見てもイイってことだよね? そうだよね?

そうなのか? いやそうに違いない!!!!


……にしても……。


「えっ、あぁ……そ、あ~……その、陽太くんは大丈夫……?」


本当にそんな恰好でいいの?

気づいてるかわかんないけど周りの女の人みんな陽太くんのこと見てるよ????

私としては嫌だけど……どうしよう……私相手だから気を許してくれてるのかなって思うと嬉しくて指摘できないし……な、なにより私が見たいから……ぐぅ、欲望めっ。


「え、ごめん、何かあった?」


うそ!? 自覚なしだったの!?

え、えぇ~~~!!! ど、どうしよう……。なんて言ったらいいかな……!?

その格好でいいのって? そんなのセクハラじゃんっ!!!!!

あぁ~~~頭がグルグルして全然回らない……いや、グルグル回ってはいるんだけど……ってそんなことはどうでもよくて!

えぇと、えぇとっ!!!


「い、いや~……その、何かってわけじゃないし……あのっ、別に下心とかないんだけど……ほんとにね!? ひ、日焼け止めとかって大丈夫なのかな~って……」

「あぁ! 忘れてたよ、ありがとう……!」


あっぶな~~~~~!

良かった~~~とりあえずシミュレーションしておいて助かった……。

これでしばらく落ち着く時間を―――。


「えーっと、ごめん……藍原さんって、日焼け止めって今持ってたりする? 多分忘れちゃって……」


―――ッ!?


「うぇ!? あ、いや、持っ……てる、けど、私のでいいの?」


待って?

私の日焼け止めが? 陽太くんの体に塗られる、ってコト?

いやいやそんなのもう実質濃厚接触じゃん?

イインデスカ??????


「藍原さんさえ良かったら借りたいなって……あ、もちろん後で新品買って返すからさ!」

「いやいやいや! それは大丈夫だよ!! 大丈夫!!! じゃ、じゃあ……その……あの……」

「……え、っと……どうかした?」


うぅ~~~~~~ぜ、絶対これ言ったら引かれると思う……。

け、けど……ここまで来たら、言っちゃってもいいんじゃないのかな!?

陽太くんが悪いんだからね!? そ、そんな、裸みたいな恰好で来るからっ!

言っちゃうよ!? 言うからね!?


「……そ、その、ほら、あの~…………せ、背中、塗ってあげようか~? なんて……い、言ってみちゃったりして……?」


うわぁあああ~~~~~~~――――。





これは夢。

私の欲望が見せている夢に違いない。


でなければ、私の手が、男の子の、それも好きな男の子の生背中に触れていることなんてあり得ない。

でも、私の手の感触が、熱が、そして何より、彼の心臓の音が、これは夢じゃないと物語っている。


「ど、どうかな……っ! つ、冷たくない……!?」

「ア……ハイ……ダイジョブ、デス……」


あぁ、柔らかい……すべすべ……は、初めて触ったけどこんな感触なのか……。

うわっ、これ骨だよね? さ、触っちゃったけどいいの?

こんなの涎と鼻血が出ちゃうっ。

あぁ、こんなとこまで……えっ、これどこまで下触っていいの?

出てるところは全部触っていいところなの????


っていうか、今うつ伏せだから何も見えてないんだよね???

に、匂いとか嗅いだらバレるかな……?

いやぁ~~~~どうしよう!?

顔少しだけ近づけて……きゃぁ~~~~~~~~!!


あぁ、永遠に塗っていたい……。

陽太くんの背中がグランドキャニオンみたいに大きかったら……。

あぁ、もう終わってしまう……楽しかったよ……マイドリーム―――。


「ありがとう、藍原さん……! あの、よかったら僕も藍原さんの背中に塗ってあげようか?」


……いまなんて?


「うぇえ!? えっ、いや、えぇ~!?」


そ、それってえっちなお店とかのやつじゃないんですか!?

健全ですか!? 私の心は不純ですけどいいんですか!? 無料ですか!?


「大丈夫大丈夫、僕が塗ってあげたいだけだから!」


―――ワオ。

”The Dream is back.”。夢が返ってきた。


「あっ、え、それなら……お、お願いしよう、かな……」


こ、こんなチャンス逃す人がいるならそれは大馬鹿者だと思う。

好きな男の子が、私の体に触れる……。


触れる……? 本当に? 現実、なんだよね?


あっ、うつ伏せになったから何も見えない……。

うわうわうわ、何も見えないからか余計に緊張する!?

いいのかな? いいんだよね? もうここから嫌だって言っても遅いからね!?


「じゃ、じゃあ、お願い、ね~?」

「……うぃす……」


あぁ、来るんだ……!

ど、どこから触るのかな……。

肩? 腰? 背骨?

あぁ~~~~なんか想像した場所が熱いっ!!!


それに―――。


「じゃ、じゃあ、い、行くよ……?」

「う、うん……お、お願い……」


やばい、これ、やばい雰囲気じゃない????

視界が何もないからか、陽太くんの声がやけに頭に響く……。

どこを見てるんだろう?

どこを触るんだろう?


あぁ、あぁっ! 来るの!? 来るの!?!?


アッ――――。


「あっ……んっ……―――」


ここが……天……国……っ……!


もう……何も言うことは、あるまい……。





「いや~! 楽しかったねっ!」

「うん、砂浜が熱くて太陽の上を歩いているんじゃないかと思ったよ……」

「確かに~! 砂浜でバーベキューができちゃうね!」


私たちは日焼け止めを塗り終えた後、綺麗な貝殻を探したり、砂浜で小さな山を作ったり、そして、浅瀬で水をかけあったりと、充実した一日を終えた。


気づけば太陽は水平線へと落ちていき、夕焼けが海面に大きく広がっていた。


……はぁ~~~本っ当に、楽しい一日だった~~~!

海に来たのなんていつぶりだろう?

見ることはあったけど入ることなんてなかったからな~!


はぁ、綺麗な夕焼けを見ながら男の子と海沿いを歩く……これが、青春……!


そういえば、私は楽しかったけれど、陽太くんはどうなんだろう?

……? 笑ってる?


「ん? 陽太くんなに笑ってるの?」


楽しかったにしては少し思い耽ってたような……。


「ねぇ藍原さん、今更かもしれないけどさ……」

「えっ、い、え、なに???」


え、私何かしてたかな!?

あっ、もしかして縁歩くのって禁止されてたりする!?


「藍原さんって、僕のこと名前で呼ぶじゃん?」


……名前……?

呼ぶけど、それがどうして……。

……あ。


「あ……も、もしかして、い、嫌だった……?」

「いやいやいやいや、違う違う!!!! そうじゃなくて! 名前で呼ばれるの嫌じゃないし、むしろ嬉しいし……っていや、そうじゃなくて……あの、なんていうか……ぼ、僕だけ藍原さんって呼んでるのって、ど、どうなのかな~~って、思って……」


……ん?

名前で呼ぶのは嫌じゃなくて嬉しくて?

陽太くんは私のことを藍原さんと呼ぶ……?

なぞなぞ……?


「……? ど、どういうこと?」

「あ~~~~……っと、その、だから……な、名前……藍原さんのこと……名前で僕も呼んでいいかな、って……思ったん……だけど……」


……え……嘘。

待って? そんなのってあり、なの?

それってつまり、私のことを、名前で呼んでくれるってことで……。

それは、間違いなく今日、今までの関係から進展したってことで……。

てことは、陽太くんは私のことが……?


いやいや、意識したぐらいで、好きとまでは……。


いや、いや、意識した"ぐらい"ってなに?

意識した、ってことは、よ、陽太くんは私のことを女の子として見てくれてるってことだよね?


――勘違いしちゃだめだ。

だって、これ以上好きになっちゃったら……。


どうしたって、気持ちが溢れて―――。


「―――すき……」

「……っえ?」


……っ!?

いま、口に出しちゃった!?!?!?!?!?

やばいやばい!?

ちゃんと聞こえてないよね!?


「あっ、い、今更すぎ~っ!!!って言ったの!! あ、と、ぜ、全然いいよ!? よ、喜んで!(?)」


うわ~~~~~私の馬鹿っ!

こんないい雰囲気になって浮かれたからって口に出しちゃうなんて……!

うう……これで陽太くんが私を意識しちゃったら、当初の予定が……。


……でも、なんで私は取り繕って、自分の想いが伝わらなかったことに、ほっとしているんだろう。

私は誰よりも陽太くんを守りたくて、近くにいたいんじゃないの?

それならいっそ、約束を無視して、二人には内緒で告白しちゃってもいいんじゃ―――。


「それならよかった! ……また来年も行こう、唯!」


―――あぁ、そうだった。

陽太くんは優しい。

それこそ陽太くんは初めの自己紹介で自虐のように言っていた、太陽のように、優しく、私たちのことを考えてくれてるんだ。


いくら汚い考えの私でも、そんな彼の前で、卑怯な真似はできない、よね。


うん、やっぱり想いを伝えるのはまだやめておこう。


……だって、今は……。


「もちろん! 陽太くんとまた来年も行けるの、楽しみにしてるね!」


これが幸せなんだって、実感できているから―――。



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