第十八話EX2 この気持ちに偽りはない。けれど、その気持ちが嘘から始まったとしたら、それは果たして真の愛と言えるのだろうか
すみません、投稿時間が一日ズレていたので遅れて投稿です。
申し訳ありませんでした。
「おぉ~! これは可愛いね!」
「あ~……確かに、か、可愛い、すね……」
僕とミナトくんは互いにそう口にしながら、足元でぺたぺたと歩くペンギンたちを撫でていた。
くそ~~。ペンギンも可愛いけれど、ミナトくんとイルカ見たかったなぁ~~~~。
あわよくばイルカと戯れてくれれば、フェス限イベントカードの再現が見れたのに……。
いや、しかし予約でいっぱいだったのは仕方がない……。
むしろペンギンと戯れているミナトくんを見れているのは僕だけなんだからこっちのほうがよかったまである。
それにしても……可愛すぎるなさすがに。
え、ペンギンはどっちなんだい?
……と、そろそろご飯の時間か。
ふふ、ミナトくんも楽しんで……あれ? いったい何を見て……。
―――あれは、奥のほうで口を開けてるペンギン?
どうしてあの子を……あぁ、いや、そうか。
そうだったな、ミナトくんは困っている子を見たら助けたくなる。
……そんな人だ。
それなら、隣に立つ僕も女を見せないとだね。
「おや、あそこに食べはぐっている子がいるね……お姉さん! あそこのペンギンにもあげてもらえるかい?」
「え? あ~っ、またこんな隅っこに逃げて~! ほらいくよ~! えいっ」
僕の言葉に反応した飼育員は、先ほどまで岩陰でひっそりとしていたペンギンに向かって奇麗な放物線を描くように魚を放り投げた。
その魚は宙をまるで泳ぐかのように、ひらひらと舞いながら、パクッとペンギンの口に収まる。
「おぉ~!!!!」
ふふ、よかった。
こんなんで、とは言わないけれどこれで少し意識してくれたらいいんだけどな、なんて。
「一匹だけ仲間外れなのは悲しいからね」
でも、さっきよりも表情が明るくなっただけよかったかな。
さて、これからどうしようかな……。
ペンギンゾーンが終わったらあと寄るところはお土産コーナーぐらいになるかな……?
ふむ、ここで最後の関門か。
できればペ、ペアのキーホルダーとか買えたら嬉しいのだけれど―――。
「あの、燕尾先輩……!」
うわっ!?
え、なに!?
ど、どうしてそんな迫真の顔なんだい!?
「急にどうしたんだい?」
「あの……少し、ここで待っててもらえませんか?」
……オヨ???
◆
待て、とはつまり、その場で動かないで待つことだろう。
そしてあの切迫した表情を見て、察せないほど僕は鈍くない。
……十中八九、トイレだろう……。
とはいえ僕も淑女の嗜みは弁えている。そのことに関して何かを言うつもりもないが……。
ふむ、しかし僕はどうやら行き過ぎたとこまで行っているらしい。
好きな男の子の口からトイレという単語が出ただけで少しテンションが上がってしまう。
いやいや、勿論性的に興味があるというだけで、ほとんどの女子はそうだろう?
……違うのか……?
いやしかし僕は今まで男性経験なんてものはないし、もう年齢だって二十代も半ば……。
男に間違われるせいで彼氏ができないこの人生でそう思ってしまうのも仕方がないとは思わないか!?
大体、その人に直接それを伝えるのは気持ち悪いかもしれないけれど、思う分にはタダだからね!?
……って、誰に言い訳しているのだか……。
にしても遅いなぁ?
……いや、別に変なことは考えていないが?
心配になっただけじゃないか!
……え、帰ったとかはさすがにないよね?
うわぁ~~~~、男性経験がなさすぎてこんな時どうすればいいのか……!
連絡してもいいものか!? いいものなんだろうか!?
「……燕尾先輩? 頭抱えてどうしたんですか……頭痛ですか?」
っ!?!?
「いっや~~~! 別になにもないよ?? は、早かったね!!!」
「あぁ~まぁ、そんな混んでなかったのと……あんまり悩むこともなかったので……」
ん?
悩む?
何を……。
「あの、もし、迷惑とかだったら捨てるとかでもいいんですけど……これ……」
そうして差し出される彼の手には、この水族館のお土産コーナーで勝った時にもらえる小さな袋が握られていた。
いったいなんだろう……?
まさか、先だってお揃いとか買ってきてくれたり??
なんて、そんなことあるわけがない……よ、ね?
「これって……ペンギンの……」
袋を開けて中を見てみると、そこには少し赤みがかった先ほどのペンギンを模したキーホルダーだった。
……え、急に? なんで????
当然の疑問が僕の脳内で沸き立つも、心拍は上がり、巡る血の流れに思わずめまいがしそうになっていた。
まさか、という期待と、そんなわけないという葛藤の狭間で、ただ、目の前の彼の言葉を待つこと、数十秒。
体感では何時間にも感じられるほどの時の流れは、突如として動き出す―――。
「上手く言えないんですけど……その、こういう場所に来たなら……えっと……なんか、あの、お……お揃いの、ヤツ、とかってほしくなりません??? いや、思い出的なアレなんですけど……あっ、でもほんとに僕とじゃ嫌だってのなら―――」
……あぁ。
「―――嫌なわけないよ」
本当にここに来てよかった。
「大切にするよ」
抑えていた気持ちがあふれ出していくのを感じる。
まるでこの世界に、僕と彼の二人しかいないような感覚。
付き合いたいと伝えたい。
好きだと今すぐ叫びたい。
―――藍原さんと、笹草さんと決めた約束。
……いや、ここまで来たらもういいんじゃないだろうか?
これはもう告白みたいなものだろう?
あぁそうに違いない。それなら僕のやるべきことは。
いや、それよりもまず今言うべき言葉は一つしかないだろう!!
「ありがとう、ミナトくん!」
◆
―――午後八時。
水族館の近くにある、夜景の見えるベンチに。
―――僕は、一人で座っていた。
考えていることはただ一つ。
ただ……歯車が狂い始めたと断定するには、あまりにも要素が足りなすぎる。
前提も、条件も、要素も、そのどれもがなにもおかしくなかったはず。
でも、それならなぜ……。
なぜ、ミナトくんは僕が想いを伝える前に、先に帰ってしまったのだろうか。
思い出したとしても、記憶にあるのは恥ずかしそうにお揃いのペンギンのキーホルダーを渡すミナトくん。
……なにもおかしいところはないはず。
では一体なぜなんだろうか。
僕が一体何を―――。
『―――このままだと、司は後悔することになるよ』
ふと、画材を買いに行ったお店で言い放った友人、美鈴の言葉が脳裏に駆け巡る。
……これが、美鈴の言っていた後悔……?
それじゃその原因は一体なんだ……?
―――わからない。
僕の中には、ただ、ミナトくんが好きだという純粋な気持ちしかないというのに……。
―――本当に?
勿論、僕は今までの誰よりも、何よりも彼のことを想って……。
―――彼、とは?
そんなのミナトくんに決まって……。
―――じゃあ、今日、一緒に出掛けていたのは?
それはミナトくん……。
あれ?
今日を僕が共に過ごしていたのはミナトくんで、でもミナトくんではなくて……?
好きなのもミナトくんだけど、好きになったのはミナトくんじゃない……?
おかしいな……?
あっているはずなのに、理解が追い付かない。
僕が好きなのは、【ワールドリバース】に出てくる、可愛い男の子のミナトくん。
そして、水連大学に通っている、成長した……あれ?
いやいやいや、え……?
いや、だって、そんな。まさか。
勘違いなんてこと、あるわけが……。
だって、彼のしぐさはまるでミナトくんで……。
―――まるで?
それじゃ、彼はミナトくんじゃないってことなんじゃ?
……いやいやいや、だって彼もミナトくんって呼んで反応して……。
いや、ない。
ただの一度も、僕が彼にミナトくんだと言ったことは、ない。
……ということは、まさか、本当に僕はこんな勘違いをしたまま今の今まで?
「……ふふっ……ははっ……」
えぇ? なにをやっているんだ、僕は。
「っふふ……」
それじゃまるで僕は馬鹿じゃないか?
一人で舞い上がって、勝手に推しを重ねて。挙句の果てには面と向かって"ミナトくん"だって?
そりゃ彼も帰りたくもなるし、美鈴だって、あんな顔するよ。
だって、目の前にこんな馬鹿で、失礼な言動をするゴミのような人間がいるんだから。
こんな僕は、虫けらというのすら烏滸がましい。
「ははっ……あははっ……」
可笑しいよ。可笑しくて笑いが出てしまう。
あまりの自分への馬鹿さ加減に、愚かさに、醜さに!!!
そして、この感情に……!
どうして……。
僕はミナトくんが好きだ。
それは間違いないと言い切れる。
……じゃあ、今まで彼……いや、遠野君、だったか。
……その遠野君に対して抱いていたこの感情は一体なんだっていうんだ?
いや、今でさえ感じているこの気持ちは、なんだっていうんだ!?
勘違い? 思い違い? 妄想? 暴走? 夢?
……わからない。
自分の感情が、まるで自分以外の感情のように理解ができない。
僕が本当に好きなのは、彼じゃなかった。
ミナトくんを重ねて、愚かにも好きという感情を重ねていたというだけ。
でも、今まで抱いてきたこの感情は、嘘じゃない……と思う。
だって、お揃いのキーホルダーをもらった時に浮かんだ感情は。
ミナトくんとお揃い、ではなく、本当に嬉しいという気持ちだったから。
……でも、それすらも勘違いだったとしたら?
いや、というよりも。
こんな人を冒涜するようなことをしていた僕に、人を好きになる資格があるのだろうか?
失礼どころの話ではない。むしろこれから近づくのでさえ忌避されるような言動と行動を、僕はした。
そんな愚劣な僕に、この感情を抱くことが許されていいはずがないだろう。
……つい最近までは、自分の得た感情を失うのが怖いと思っていた。
でも、今は、感情を得るのが怖い。
僕のようなやつに、感情を抱く権利なんて存在しないから。
―――僕は、これから一体どうすれば……。
ふと、振り返って、すでに暗くなっている水族館を眺める。
ただ、そこには楽しかったという感情は鈍く鳴りを潜め、ただただ虚無のように、白黒の思い出として景色が甦る。
―――何をすべきか、何を言うべきなのか。
そう考える僕の体には。
夏だというのにも関わらず、ただただ冷たい夜風だけが、肌を突き刺すように吹きつけていた―――。
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