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スクティア・ボルケーノ


 やがて羅針盤を手に入れるべく《スクティア・ボルケーノ》へと舵を切り、航海すること数日。


 その間に問題らしい問題は起きることなく。

 遂に目的地である《スクティア・ボルケーノ》が見えてきた。


「おぉー、あれが《スクティア・ボルケーノ》か。でっかい火山だな!」


 目的地である《スクティア・ボルケーノ》、そこは遠目からも巨大な火山が見えた。


 その大きさは、先の《サンターニュ》で見えた山脈をも上回り、まさに天を貫くと言う言葉に相応しいほどの超巨大な火山であった。


「すげぇでかいであります。雲を貫いてるであります! てっぺんが見えないであります!」

「あれ、噴火したら大惨事じゃないかしら」

「遠目から見て火山口から怪しげな煙は見えん。今の所は大丈夫だろう」


 リコが純粋にはしゃぎ、リリアンは現実的なことを心配する。視力も目つきも鋭いビアンカが山の状態を確認する。


 そのまま《スクティア・ボルケーノ》をぐるりと周り、船が寄せられそうな沿岸部に停泊する。


「とうッ!」

「あっ! コローネ!」


 《いるかさん号》を岸につけるや否や、コロンが船首から飛び降り、地面へと着地する。そのまま足踏みをし、感触を確かめる。


「ふむふむ、良い足場だな。よぉーしッ、此処を拠点とする!」


 ででーん、と手に持つ錨を突き刺す。


 するとコロンの持っていた錨が妙な音が鳴り、何やら柄の先にあった部分が光る。その錨の様子を見ていたエンリケが、かけられた梯子を降りながら、ふと口を開く。


「確か《蠢く植物島》の時もそんな風に動いていたな」

「お? 時たまこうやって動くのだ。多分、意味はないだろうけどな!」


 知らんッ! と曇りなき声で告げる。


 それに対し、エンリケは何とも言えない顔になる。理屈がわからないものを武器として使っているのかと、呆れていた。


 その間にも《いるかさん号》の面々は降りてきて、皆麓から天にまで聳える火山を感嘆するように見上げている。


「あら、どうしたんですかぁ? ティノちゃん」

「ん……、変な、形の石だと、思って……」


 その時、降りたオリビアが何やら屈んでいるティノに話しかける。ティノは、火山にではなく、足元にある四角だが角が丸っこい石を指差した。


 どれどれと興味の惹かれたコロンも覗く。


「ほう! 自然物なのに四角だなんて面白いな。まるで私のコレクションのサイコロみたいだな!」

「本当、コロちゃんはごみ(・・)……いえヘンテコなモノ(・・・・・・・)を集めますからねぇ。中には似ているモノがあっても不思議じゃぁないですよ〜」

「いま、ごみって言わなかったか!?」

「言ってないですよぉ〜」

「言った! 言ったぞ! ごみじゃないからな!」

「えぇ〜? でもぉ、あんなにコロちゃん用途のわからないものばかり集めてぇ、

というかぁ、掃除してくださいって、何度も言ってますよねぇ?」

「ひ、必要だもん! あれは私の大切なコレクションなんだもん!」


 もん、などと語尾をつけて若干幼児退行しているがコロンは譲らない。


 それに対して、オリビアも穏やかに仕方がないですねぇ、と見守る。その様子は片付けの出来ない子どもを見る母親の目だ。


「とにかくだ! 一先ずは目的のモノを手に入れる為にドワーフに会わなきゃ話にならない! 私達は早速会いに行かねばな!」


 誤魔化すように早口にコロンが語る。


「それもそうね。確か山の中腹部だっけ? 里があると聞いたわ。……うぇぇ、あの山を登るのかぁ」


 話していてリリアンは億劫そうな顔になる。見るからに険しい山は、登るのが大変そうなのを容易に想像させた。

 きょろきょろと、クラリッサは周囲を見渡した。


「山の中腹部にあるの? そう言えば、確かに有名な割に港町とかはないんだね」


 クラリッサの疑問に、エンリケが答えた。


「優れた技術、そしてそれが出来るのはドワーフのみ。この大航海時代、羅針盤を作れるのは彼らのみであると言うのなら何が起こるか、お前ならばわかるだろう」

「あ……そっか」

「わからないであります! 二人だけで納得しないでほしいであります! ねぇ、ししょー! ししょー!」

≪うきぃー! うききぃー!!!≫

「やかましい」


 クラリッサは納得したが、リコはわからなかった。

 まとわりつくリコとミラニューロテナガザル達に、あとでリリアンに聞けとそっけなく対応する。


「それじゃあ、わたし達はお留守番ですねぇ」

「う、うん」

「むぅ〜、ここからじゃその里の様子もわからないからつまんなぁ〜い」


 元々体力があるとは言えないオリビアやティノ。

 そして体力的にも、物理的にも難しい人魚のクラリッサはお留守番である。仕方のない事だが、クラリッサは特に不満げに頬を膨らませる。


「場所さえわかればあとで迎えに来るわ」

「クラリッサも、もし都市の様子が大丈夫そうなら自分があとで運んでやる」


 ビアンカであれば、人一人運ぶ事が出来る。何度か往復する羽目になるのに、ビアンカは微塵も気にしていない。

 ビアンカの言葉に、クラリッサは「楽しみに待ってる!」と嬉しそうに頷いた。


「では! コロン探検隊出発ー!」

「おー! リコ冒険隊であります!」

「むっ、コロン探検隊だ! 私が船長だぞ! 一番偉いのだ!」

「リコ冒険隊であります! リコはアリア殿に大将って呼ばれてるであります!」

「どっちでも良いからさっさと行け。日が暮れる」

「「あいたぁ!?」」


 どっちの名称で行くか揉め出したコロンとリコ(アホ二人)の頭を、エンリケが軽くしばきながら、コロン達はドワーフの里目指して登り始めた。





「よっ! ほっ! うむうむ、中々面白い道だな」

「ちょっとコローネ! 急いで登って転ばないでよ!」

「大丈夫だ、リリー! そんな間抜けなことはしない!」


 山の道は結構な急勾配であった。

 更には石が四角いだからこそ、踏めば足を取られる。


 しかしコロンはどこ吹く風と器用に、そして豪快に進む。名前の通り、転んで(・・・)はいないようだ。


 他の面々も、周囲を警戒しつつ登っていく。


 その最中、エンリケは遅すぎない程度で置いてかれないように歩む。

 そして、足元にある四角い石を一つ取り、眉間に皺を寄せた。


(妙だな、ティノの時もそうだったが、この辺りにまで転がってきたのならもっと丸く、小さくなっているはずだが)


 四角い石が特徴の《スクティア・ボルケーノ》だが、四角いにしてももっと角が丸まっているはずなのに、先程からの石は四角を保ったままである。


 エンリケは己の記憶との齟齬を感じつつも、登る。


 だが急な勾配と一切舗装(ほそう)されていない道に、ドワーフ達が身を守る為と理解はしていても流石に悪態吐く。


「しかし、相変わらずの悪路だな。ドワーフどもめ、整備すらせんのか」

「はぁ、この島に住むドワーフと言われる種族。ふぅ、その噂は予々聞いているよ。はぁ、はぁ、あらゆる英雄の武具を造ったとされる種族。それがボク達の旅を指し示す羅針盤を作ってくれる。はぁ。そう! ボク達の物語はまさにここから始まるのさ、はぁ」

「余裕ぶっているが、息が荒いぞ」


 山を登るメンバーの最後尾。


 エンリケよりも更に遅く、澄まし顔ではあるものの、息を荒げながら登っているのはアリアだった。

 額には大粒の汗が浮かび、長い髪が額にひっついている。


 元より《いるかさん号》の船員の中でも着込んでいる服装なだけでなく、アリアはイリアン・パイプスという楽器を肌身離さずに所持している。


 普通に考えて、登山において邪魔でしかないのだから、置いていけば良いと思う。


「登山の時くらい、置いてくれば良いものを。錘となって、ただでさえ貧弱な体力のお前が更に疲弊しているぞ」

「はぁ、はぁ。なんだかバカにされた気がするけども……舐めてもらっては困るね、客人(まろうど)。これはボク達奏唄人(ハーモミューズ)にとって半身とでも言うべき存在だ。そう易々と他人に委ねたりしないのさ」


 語るアリアの瞳は真剣だった。


 それが奏唄人(ハーモミューズ)という人種にとって、かなり特別な意味を持つ事はアリアを見ていてわかっていた。


「そうか。みくびっていた。芯のある行動であるならば、他者がとやかく言うべきではなかった」

「別に良いさ。わかってくれたのなら。それに他に方法がない訳じゃないよ?」

「何?」


 アリアの言葉の先を促す。


 彼女は指を一本立てながら、得意げに語り出す。


「さっきも言ったけど、楽器はそう易々と人に預けない。でも、正直ボクの足はもう限界だ。産まれたての仔馬くらい、か弱い生き物だ」

「なるほど。自身のことをよくわかっているではないか」

「そして、古来より動物は共生関係があるという。つまり、客人(まろうど)がボクを直接背負えば諸々の情事は解消するのさ!」

「はり倒すぞ」


 何をコイツは名案だと言わんばかりに目を輝かせているのか。瞳がまた絶妙に綺麗に煌めいているのが腹が立つ。こんな時に種族の特性を表すな。


 そして共生と唄ってはいるが、実際にはエンリケがアリアを背負って登るだけなので寄生の間違いだろと悪態つく。


 青筋をたてて突っ込むエンリケだが、とある事を思い出し、考えを改めた。そして、嫌そうに、本当に嫌そうにしながらもアリアに向けて背を向ける。


「仕方あるまい。乗れ」

「え? い、いいのかい?」

「言い出したのはお前だろう、何を臆している。……よく考えればお前には引け目があったからな」


 かつて《不退転の猛牛》と争った際にエンリケはアリアを船内に置き去りにした。

 一刻を争うとは言え、ビアンカが当時甲板にいたが、それでも軽率な行動ではあった。


 それを語るとアリアは納得したように頷いた。


「なるほどなるほど。つまり、客人(まろうど)はボクに借りがあるというわけだね。ふふふ、殊勝(しゅしょう)こころがけ、褒めてつかわそうじゃないか。ふふん、なんだか偉い人になった気分だ」

「乗らないなら、置いて行くぞ」

「あぁ、待って! 待ってくれ! 乗るっ、乗るからっ、これ以上はボクの足が持たないんだよ!」


 何やら語り出したアリアをエンリケは付き合い切れないと置いて行こうとすると、慌てて背中に乗ってくる。


 その時背中に感じた女性らしい柔らかな感覚に、視界に映るさらさらとした長い艶のある髪。

 そう言えばこいつも女だったなと失礼なことを思い出す。


 そして何よりも、感じたことが一つ。


「……重」

「失礼だな!?」


 ぼそっと呟いたが、耳の良いアリアは聴こえていたらしい。

 思わずむすっとするアリアだが、エンリケもじとりとした目で見る。

 

「お前と楽器の2つ分だぞ。少しは考えろ」

「うっ、そ、そう思えばそうだね。ごめんよ」

「あとお前は普段動かないくせに、リコと同じく俺に飯をタカリにくるからな。お前はその分無駄に、そう動かないから無駄に贅肉をつけているからな。少しは鍛えろ」

「うっわ! 最低だよ! 仮にもボクも女性なんだからもっと繊細に扱ってもらいたいね!」

「普通の女性は、己のことをボク(・・)とは言わん」

「ちっちっち、それは浅はかな考えさ。そういう文化があるかもしれないだろ? 仮にも医者であるならばもっと広い視野を持たないと」

「……む」


 アリアの言うことにも一理あるのか、エンリケは押し黙る。

 その様子を肯定と捉えたのか、アリアは機嫌良くエンリケの頭を叩く。


「さぁさぁ行きたまえ、ボクの駿馬(しゅんめ)よ! 先行く船長らを追い越したまえ!」

「誰が駿馬(しゅんめ)だ。と言うか、速さを求めるならば、C・コロンに運んでもらった方が良いんじゃないか」

「いやぁ、船長はその、ね? わかるだろう?」

「……なるほど」


 酷い言い草だが、二人ともコロンがまともにモノや人を運べないことは普段のいかりの使い方から想像しやすかったのであった。

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